5.学園には恋のライバルがいない!?
翌日――
ついにやって来た学園を前に、私はぐっと拳を握り締めた。
「ここを卒業したら、すぐにお城に就職する!そしてなんとしても、オーウェン様のそばにいく!!」
父のように薬局に勤めてもいいけど、やっぱりオーウェン様のいる魔術師団かしら?
メイドさんもいいよね。オーウェン様にお茶を淹れて差し上げたい!
掃除係もいい。お部屋に入りたい!
とりあえず、この三年間でどうするか決めよう。
そして、一番オーウェン様に近い所にする。
うん、これだ!
そんなことを思ってうずうずしていたら、後ろから声をかけられた。
「リラ。おはよう」
振り向くとビジュアル王子・トーマ様が立っていた。
「トーマ様!おはようございます。制服姿、なんか新鮮ですね。
っていうか、どう見たって王子様オーラが出てますけど……大丈夫ですか?」
「え、そう?たぶんバレてないと思うけど」
彼はそう言って自分を見下ろした。
「王子様ってわからなくても、ただものじゃない雰囲気がすごいです。普通の暮らしができるように、ビジュアルとオーラを抑えた方がいいのでは?」
通り過ぎる生徒たちが、ちらちらとこちらを見ている気がしますけど……。
私がそんなことを思ってトーマ様を見ていると、彼は彼で私に思うことがあったらしい。
「リラは普通の学生感が出てる。上手く化けたね」
「なんですかそれ」
「十二年も、オーウェンを追いかけまわしてる人には見えないよ」
そう言ってトーマ様はくすくす笑う。
「ほんとですか?もっとアピールした方がいいでしょうか?」
「オーウェンいないのに?」
「この学園で出会うであろう、恋のライバル達にです!」
私の言葉に、トーマ様はますます面白そうに笑った。
するとトーマ様の後ろから、ぴょこっと見知らぬ顔が現れる。
「なんなんですかその会話」
非難というよりも、面白がったような声色。
深緑の髪と同じ色の瞳が、私をじっと見ていた。
「もしかして、君がオーウェン様推しのリラちゃん?」
「推しっていうか、愛なんですけど……どちら様ですか?」
いぶかしむ私に気を悪くした様子もなく、日焼けした彼は愛想よく笑った。
「あぁ、ごめん。俺、殿下の護衛騎士。カイル・クラウザーって言うんだ。よろしくね!」
「護衛騎士なのに学生なんですか?」
「うん。お城の騎士団に籍は置かせてもらってるんだけど、勉強して来いって言われた」
「いいなー!もうお城から内定もらってるってことじゃないですか!」
「そうなんだけど、卒業できなかったら内定取り消しになっちゃうから、まじめにやらないとね!」
なるほど。
青田買いされた人も、ここに通うわけね?
「私は、リラ・ファルケです」
「うん、知ってるよ。お城の薬局長の娘さんでしょ?たまに傷薬もらいにいくからね。それにしても君、お父さんに似てるねー。その銀髪とか目の色とか」
「父を知っているんですね」
「うん。優しそうなお父さんでうらやましいなぁ」
「そうですか?けっこう小うるさいですよ」
できれば、オーウェン様の知り合いとお友達になって、オーウェン様話をしたかったな。
「リラちゃん、あのオーウェン様にアタックし続けてるんだろ?すげーなぁ。
オーウェン様って言ったら魔術師団の団長だし、歴代の団長の中でも群を抜いて魔力が高いっていうじゃん。俺、この間稽古つけてもらったけど、怖かったー。威圧感がやばすぎて」
オーウェン様と知り合い!!
「カイル君!!その話、もっと詳しくお願いします!!」
がっと護衛騎士さんの腕をつかむと、トーマ様が「はいはい、とりあえず離れようね」と私の手を引っぺがした。
「リラよく聞いて。たぶんこの学園に、リラの言う『恋のライバル』はいないよ」
「そんなばかな! 皆さん、あんな素敵な人が見えてないんですか!?
だって、この学園に来るということは、お城に就職したい人ってことですよね!? ということは、ほぼ全員オーウェン様狙いなのでは!?」
私の言葉に、彼らは一瞬黙り込んだ。
カイル君がトーマ様をちらりと見る。
「あのね、リラ。驚かないでほしいんだけど、オーウェンを恋愛という意味で好きだという人はもう少し上の世代だと思う」
「うんうん、俺もそう思いますよ」
二人の様子に、私は驚きと安堵を隠し切れなかった。
「そうなんですか……でも良かったです。せっかく仲良くなった友達と、オーウェン様をめぐってライバルになったら、どうしようかと心配していたので」
私の言葉に、二人はまた先ほどのように一瞬黙り込んだ。
しかし、次の瞬間カイル君がもう堪えきれない!というように大笑いし始めた。
「そりゃあ無駄な心配だろ~!リラちゃんおもしれー!」
おかしそうに言うカイル君に、トーマ様も「カイル、もうやめて。それ以上ツッコまないであげて……!」とカイル君の肩をポンとたたきながら、くつくつと笑いを堪えている。
「そんなにおかしいですか? お二人ともオーウェン様のこと、あんまりご存じないから楽観的なんですよ。無駄な心配などではなく、私に恋のライバルが現れるのは現実としてありえる話です!今後の対策を一緒に考えてくれますか?」
笑い崩れる彼らを引っ張って、私は入学式の会場へと向かうのだった。
ここからが本番です。
よろしくお願いします。




