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4. 背を伸ばして彼をゲットします!

 春休みもあっという間に最終日。


 オーウェン様と過ごしてきたこの春休み。

 明日からは学園での生活が始まってしまう。


 オーウェン様に会えなくなることを思うと、生きていける気がしなかった。


 入学前の想い出を、今日は絶対に作る!


 私は密かに研究を重ね、やっと完成させた薬をポケットにしのばせて、城までやって来た。


 意気込んで薬局へ行くと、そこにオーウェン様はいなかった。


「あれ?いない……?」


 キョロキョロする私を見つけた父が言った。


「来てないですよ。仕事じゃないですか?」


 ……なんてこと!


「魔術師団に行ってきます!」


「無理ですよ、入れません。リラ、城を何だと思ってるんですか。

 だいたい、オーウェン様だってあんなんですけど、それなりの地位にいる人です。

 子どもに付き合う暇なんてないんですよ」


「でも今まで付き合ってくれてた!明日から会えないんだもん!絶対今日会う!!」


「本当にやめなさい。仕事を邪魔してはいけません」


 静かな口調の父に本気を感じる。

 私はぐっと拳を握り締めた。


「もういい!」


 私は薬局を出ると、とぼとぼと廊下を歩く。

 まさか最終日に会えないまま、オーウェン様とのお別れになるの?

 ……そんなの無理だ。耐えられない。

 入学式なんてどうでもいいから、明日は何とかして城に忍び込むしかないのかもしれない。


 大真面目に考えていると、声をかけられた。



「あれ、リラ?」


 見るとトーマ様が立っていた。


「珍しく元気ないね。どうしたの?」


「オーウェン様に会えなくて死にそうです……」


「あぁ、そうなんだ。確か午前中に討伐に出たみたいだけど……」


「え!?じゃあ待ってれば帰ってきます?」


「どうだろう?まぁ、オーウェンはいつも予定より早いからね、帰ってくるの」


「そうでしたか。わかりました。じゃあ待ってようかなぁ」


「……約束してるの?」


「してませんよ」


「あ、そう。……それじゃあ難しいんじゃないかなぁ」


「大丈夫です。私はいくらでも待てるので」


「うん、そうかもしれないけど、待ってたからって会えるわけじゃないでしょ?」


「大丈夫です。きっと会ってみせます! ところでトーマ様、私って背が高い方だと思います?」


「え、それ僕に聞くの?同世代の標準を知らないんだけど……でも、普通なんじゃない?高くも低くもないっていうか……」


「……そうですか、やっぱりこの薬を飲まないとダメなようですね」


 私はポケットから薬を取り出す。

 ついにこれを使う時がきたか……。


 薬の瓶を見つめて、トーマ様が興味を示す。


「今度はなに?」


「これは背を伸ばす薬です。オーウェン様が背の高い女性が好みだとおっしゃったので、一気に180センチを目指そうと思います」


「うわぁ、すごいね!でも本当に大丈夫?こないだみたいに、突然声が変わったり、眠ったりしない?」


「はい!大丈夫です!大丈夫のはずです!!」


「……まぁ、万が一何かあったら、すぐ薬局に連れて行けばいいか。フランツいるよね?」


「はい、父はいます。でも、たぶん怒られるから何かあっても父のところには連れていかないでください」


「そうだねぇ……状況によるかな」


 そんなやり取りをしていたら、なんだか外が騒がしくなった。

 窓の外を見たトーマ様が言った。


「あ、帰ってきたみたい」


「え!!」


 見ると、魔術師団や騎士団員の中に、オーウェン様がいた。


「やった!さっそく背を伸ばしてお出迎えしてきます!!」


 私はそう言うと、ためらいなく薬を飲む。


「僕さ、薬ってすごく慎重に扱うものだと思ってたから、リラを見てるとすごい衝撃なんだよね」


 トーマ様がそう言っているのが聞こえたけれど、私にとって薬とはオーウェン様に近づくための手段に過ぎないのだ。


「では失礼します!!」


 私はぺこりと頭を下げると、ダッシュで中庭へと走るのだった。

 即効性があるから、中庭につく頃には私の背はぐんと伸びているはずだ。




 無事にお出迎えの場についた私。

 関係者っぽい大人たちをすり抜けて一番前へ行くと、オーウェン様が私を見た。


 わ!すぐに気づいてくれるなんて愛かしら!?


 そう思って手を振ろうとしたら、オーウェン様は顔をしかめて、そのまま私に背を向けて歩き出してしまった。


「え!オーウェン様!待ってください!!」


 慌てて声をかけると、彼はぴたりと止まって私を振り返った。

 私の頭からつま先までを、じっと眺めてからこう言った。


「……お前その才能を他に生かせないわけ?」


 呆れたように腕組みをして私を見るオーウェン様。


「無理です。私の才能はすべてオーウェン様の愛に捧げております」


「重すぎて笑える」


「笑ってもらえるならオッケーですね」


「で?なんでそんなに背が縮んでるわけ?」


 ……そう。今の私は縮んでいるのだ。想定外!


「え、えぇとですね……背を伸ばそうと思ったんです。そしたら一瞬180センチくらい大きくなったんですけど、すぐにどんどん小さくなってしまいまして……もしかして私今100センチないですか?」


「なさそうだな。2,3歳の子どもくらいに見える」


「え!!それはさすがに困りますね!」


「すぐ戻るんだろ?」


「はい。たぶん」


「とりあえず親父んとこいけよ」


「……絶対笑われますよね」


「だろうな」


「……嫌だなぁ」


「そういう問題じゃないだろ」


「わかりました。とりあえず行きます」


 そう言って歩き出す。


 仕方ない。

 年下は好みじゃないと言っていたし、こんな小さくちゃいつにもまして相手にもしてもらえないだろう。


 父に治してもらおう。

 きっと適当に薬を作ってくれるはずだ。

 ……すっごい叱られそうだけど。



 そう思いながら必死に歩くが、全然進まない気がする。

 足は一生懸命動かしているのに。

 背が小さいと不便だなぁ。

 そう思った時だった。


「日が暮れそうだな」


 そんな言葉と共に、ぐわっと体が浮かび上がる。


「わ!?」


「迷子扱いされそうだから特別な」


 見上げると「心底手がかかる」という顔で、私を見るオーウェン様と目が合った。

 ちょっと待って!この体制ってもしかして……お姫様抱っこというアレじゃないですか!?

 ふわっとじゃなく、ぐわっと持ち上げるところがオーウェン様らしい。


 景色がどんどん通り過ぎていき、中庭からあっという間にお城の廊下に入ってゆく。


「お、オーウェンさま。こんな風に女性を抱き上げたことは、いまだかつてございますか!?」


「ないな」


「えー!!じゃあ私が『人生初!お姫様抱っこをした女』というわけですね!!?」


 キャーキャー騒ぐ私に、オーウェン様は冷たい視線を一瞬だけ向けると、ためいきをついた。


「お姫様もなにも荷物感覚だけどな」


「いいのでしょうか!?これは世の女性を泣かせてしまうことになるのでは?」


「じゃあ歩くか?」


 ぴたりと止まって降ろそうとされたので、私は声を上げる。


「いえいえ、お願いしますっ!せっかくなので!!」


「……背中にしょってやろうか?」


「そ、それはおんぶというものですね?それもそれでいい気はしますけれど……っ!」


「なんか気持ち悪いんだよなぁ、発言が」


 あぁ、幸せ!

 背が縮んだのは予定外だったけれど、こんなご褒美が待っているなんて思いもしなかった!


 私の人生で、今日は最高の日だわ!!

 オーウェン様をこんな近くで見たことないし、この角度で見たこともないし、こんなに触れてもらったこともない。


 これはもう結婚しかないわね!!

 あとは、父に認めてもらうだけ。

 まぁ、最悪駆け落ちというのもアリよね!


 うっとりしている私の耳に、穏やかな声が響いた。


「あれ、オーウェン様??」


 見ると、薬局で働いている魔薬師のクレアさんが台車を押していた。

 私にとっては、小さいころから知っているお姉さんという感じだ。


「おー、クレア。ちょうどいい所に。こいつを親元まで運んでやってくれよ、その台車で」


「え?……あれ、リラちゃん!?」


「クレアさん!こんにちは」


「えー!?どうしたの??かわいい!!小さくなっちゃって!!」


「オーウェン様ごのみになろうとしたら失敗しました」


「あらあら~」


 クレアさんは含みのある笑顔を浮かべて、オーウェン様を見た。


「……なんだよ」


「オーウェン様、愛されてますね」


「俺もそのうち呪われそう」


「軽々しくそれいったら怒りますよ。ルカも私も」


 クレアさんにじろりと睨まれたオーウェン様は、肩をすくめるとひょいっと私を床におろした。


「えぇぇえぇ?!オーウェン様、ここで降ろすなんてひどいです!」


 短くなった手足で抗議すると、オーウェン様が台車を指さす。


「なんでだよ。台車に乗せてもらえ」


「うん。リラちゃん、ここに乗って。薬局に戻るところだったから」


「せっかくですが、私は今、オーウェン様のお姫様抱っこを堪能しているところだったので」


 きっぱり断る私に、クレアさんが苦笑する。


「……リラちゃん、ほんとに薬局長の娘さんとは思えないよね。見た目はそっくりなのに」


「あ!もしかして、私が父と似てるから振り向いてもらえないのでしょうか?どうですかオーウェン様……あれ?オーウェン様?」


 キョロキョロ辺りを見回していると、申し訳なさそうな声でクレアさんが言った。


「一瞬でいなくなったよ」


「そんなぁ~!!」


 がくりとうなだれる私に、クレアさんが言った。


「薬局いこっか」


「……はい」


 一気に現実に戻った私は、歩く気力などまるでなかった。

 おとなしく台車に乗せてもらい、薬局へ行くことにしたのだった。


 ちなみに途中でトーマ様に会った。


「リラは期待を裏切らないよね」と頭を撫でてくれたかと思いきや、珍しく大爆笑されてしまった。

 ……笑いすぎですよ。




 こうして、春休み最後の一日が過ぎて行った。


 その夜、ベッドに入ってから考える。


 明日は学園の入学式。

 しかも寮生活ということは、しばらくオーウェン様に会えない。


 そんな生活、考えられない。

 私は生きていけるのだろうか?


 あぁ、でも「オーウェン様にお姫様抱っこしてもらった」という人生最大の幸せなひと時を過ごしたんだから、それを明日への活力にしなくっちゃ!!


 よし!さっさと卒業して、お城に就職しよう!

 そうすればオーウェン様に毎日会えるはず……!


「新しい生活の、さらに先」を考えてワクワクする私であった。


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

次から舞台は学園へと移ります。

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