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51.変わったのは僕だ

 お昼休み。

 学食のいつもの席で、ロイ君が私達を見た。


「最近、お前ら放課後に外で何してんの?」


「散歩ですよ」


「へー。なんでまた?」


「リラの夜更かしを防止するため」


 トーマ様の答えに、パンを食べていたロイ君の手が止まる。


「は?」


「早寝して、授業中に寝ない作戦です!トーマ様に付き合ってもらってます。カイル君は、トーマ様の護衛を兼ねて付き合ってくれてます」


 私がそう言うと、隣でトーマ様が頷いている。

 ロイ君はしばらく私達を見てから呟いた。


「……お前、ほんとリラに甘いっていうか、面倒見いいよなぁ」


「そう?僕も暇だし、ちょうどいいんだけど」


 リンゴジュースを飲みながら、トーマ様はおっとりとそう言った。


「お前がいいなら別に文句はないけどさ、先生たちがざわついてたぞ。放課後に王子が校舎をあちこち見て回ってるって」


「え」


「どこかに不備がないかチェックしようって、こそこそ言ってるの聞いた」


 先生達の負担を増やしてるぞ、とからかい交じりのロイ君に、トーマ様はあごに手を当てる。


「そんなつもり全然ないんだけどな」


「そうですよね!校舎なんてほとんど見てないですし」


「リラは中庭の草花ばっかり見てるよね。昨日も十分くらい立ち止まってた」


「だって薬学科用の畑、面白いんですもん!結構貴重なものを育ててるんです」


「リラ、魔術科なのにね」


「魔術科でも調剤が好きなんです」


 私達のやりとりを、ロイ君は黙って見ている。

 いつもなら口を出すはずの彼に、私は首を傾げた。


「なんですか?」


「いや、楽しそうだなと思って」


 トーマ様を見て、含みのある顔で笑うロイ君。


「楽しいですよ。ロイ君もお散歩しますか?そしたらアイナちゃんも誘って、みんなで歩きましょうよ!お散歩クラブですね!」


「クラブ?ってもしかして、学生が放課後に参加するという任意の活動?」


 トーマ様が、はっとしたように身を乗り出す。


「そうですよ。クラブ活動としてみんなで歩けば楽しいです。……でも、そうなると一気に義務感が出ちゃう気がしますねぇ。やっぱりやめましょう」


 私の言葉に、トーマ様がすんっと元通りに座りなおす。


「リラ、一人で盛り上がって一人で終わりにするの、面白過ぎるからやめて」


 ロイ君が笑いながら言う。


「でも邪魔しちゃ悪いし、俺はいいよ」


「え?邪魔じゃないですよ!いつでも参加してください!ね、トーマ様!」


「うん。みんなで歩くのも、いいんじゃないかな」


 穏やかに言うトーマ様に、頷く私だった。



 そして、なんだかんだ日によってロイ君がお散歩メンバーに入ったり、アイナちゃんが来たりと、賑やかに歩くようになっていった。


 今日は初めて五人そろってのお散歩だ。

 ロイ君とアイナちゃんを案内する形で、お気に入りになったお散歩コースを歩く私。


「へぇ、中庭の奥ってこんな風になってたんだ」


 辺りを見回しながら歩くロイ君。

 細い通路に、両脇はうっそうとした森のように木がたくさん生えている。

 緑の香りがほんのり漂っている、私の好きな場所だった。


「そうなんですよ!しかもさらに奥には、薬学科の研究室があるんです。すっごく楽しそうなんですよねぇ」


 楽しそうな実験や調剤をしていた所を思い出す私に、カイル君が言った。


「この間なんて、研究室をこっそりのぞきに行ったんだよな、リラちゃん。俺まで参加させられた」


「カイル君、さすがでしたよ。騎士団員のステルス能力の高さが大活躍でしたね!」


「……そういうの、覗きに使うのやめた方がいいんじゃない?」


 アイナちゃんの呟きに、ロイ君とトーマ様が頷く。


「わかりました。じゃあ今度、正式に見せてもらえるように先生にお願いしてみます。あ、アイナちゃん。ちょっと来てください!あっちの建物、侍従科の実習館らしいですよ。ちょっと見てみます?」


 実習館を指さす私に、アイナちゃんが胸の前で手を組む。


「え!見たい!」


「カイル君、一緒にお願いします!」


「覗きはやめろって言ってなかったっけ?」


「ちょっとだけですから!」


 ノリノリのアイナちゃんと、あきれ顔のカイル君を手招きすると、私はトーマ様を振りかえった。


「ちょっと見てきます!」


「迷惑かけないようにね」


「はーい」


 トーマ様の言葉になんとなく満足すると、私は実習館に向けて歩き出す。





 ***********




 実習館へ歩き出した三人を見送る僕とロイ。


「保護者?」


「そうかもしれない」


 ニヤリと笑うロイに、僕も笑ってしまう。


「お前、だいぶ懐かれたなぁ」


「そうかな?前からあんな感じだったと思うけど」


 リラの後姿を見ながら答える。

 長い髪の毛がさらりと揺れ、なんだか落ち着かない気持ちになる。


「確かにリラは変わってないな」


 ロイの言葉に、はっと意識を取り戻す。

 その時、彼が僕を見ていたことに気づいた。


「変わったのは、お前か」


 ロイが僕を見て笑っていた。

 木々に囲まれた静かな空間で、その言葉がやけに響いた気がした。

 なんでもお見通し、というわけだな。


「そうだね。変わったのは僕だ」


 いつのまにか、友達以上の気持ちを抱いていたのは僕の方。

 頷く僕に、ロイが驚いたように言った。


「すんなり認めるんだなぁ。隠したり慌てたりするかと思った」


「しないよ。別に隠すことでもないし、誰に聞かれたって普通に答えるよ」


「……お前、変なところ堂々としてるよな」


「そう?」


 首をかしげる僕に、ロイは怪訝な顔をする。


「立場的に困らないわけ?」


「学生時代に限っては、ね」


「ふぅん。期間限定なわけだ」


 わかってはいたけれど、ロイに言われて改めて自分の立場を実感する。

 期間限定。

 ここでの全ては三年後、確実に終わるのだ。


「……そう。だから、後悔しないように過ごしたいんだよね」


 僕がそう言った途端、ロイが僕の両肩にどしんと手を置いた。


「お前、そういうとこだよな。なんか泣けてくる」


「え?」


「ほんとお前ら似てる。ズレてるけど一生懸命というか、つい手を貸したくなっちゃうんだよ」


 バシバシと僕の肩を叩きながら言うロイに、僕は苦笑する。


「って言っても、恋愛ばかりはどうにもできないからなー。そもそもオーウェン様っていう壁があるわけじゃん?どうすんの?」


「あー、特に考えてなかった」


「え?」


 マジか!という顔で僕を見てくる。

 けれど、これは本当に何も考えていなかった。


「リラ=オーウェンくらいに思ってたからねぇ」


「……堂々としてるわりに、初めから諦めてるってことか」


 諦めてる?


「うーん、そういうわけじゃないんだけど……今はとりあえず一緒にいる時間を大事にしたいかなって」


「そういうの、恥ずかしげもなく言える所がトーマだよな」


「……ズレてる?」


「いや、お前らしくていい」


 ロイは僕の肩をポンと叩くと、すっと僕から離れた。

 そしてリラ達の方を見る。


「でも、相手が特殊過ぎるんだよな」


「そうだね」


 ロイの言葉に、僕も笑ってしまった。


 でも仕方ない。

 そこを含めて好きになってしまったのだから。

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