50.友達だから
文化祭が終わり、日常が戻ってきた。
テストも行事もない日常に油断しまくった結果、私は今トーマ様に怒られている。
「リラ。授業中に寝るのはまぁ仕方ない。でもこっちは一生懸命起こしてるんだから、起きてくれない? 起こしてほしいって言ったのはリラだよね?」
「……すみません」
自分の席で身を縮める私。
歴史の授業で寝てしまい、何度も起こしてもらっていたらしい。
でも、記憶にない。
気づいたら休み時間だった。
頭を下げたまま、ちらりとトーマ様の様子を伺うと、ため息をついていた。
「リラ、夜更かしとかしてない?」
「……してます。薬作ったり、オーウェン様のこと考えたりしてます」
私が素直に白状すると、机に頬杖を突きながらトーマ様はつまらなそうな顔で「ふぅん」と言う。
あぁ、呆れているのかしら?
あんまりひどいと、友達としての縁を切られるかもしれない。それは悲しい!
「なんか眠れないんですよ。昼間寝ちゃうから」
「悪循環だね」
「そうなんです。もっと日中、体を動かさないとだめかもしれませんね」
でも運動はできればしたくないなぁ。
だからと言って勉強もしたくないけど。
そんなことを考えていたら、トーマ様が言った。
「散歩でもしてみたら?」
「散歩?」
「歩き回れば夜眠れるかも」
「確かにそうかもしれません。でも、目的のない散歩って私苦手なんですよねぇ。どこ行っていいかわからないし、一人だとつまらないし……」
「目的は、授業中寝ないために早寝することでしょ」
バッサリと言われたその言葉に、ぐうの音も出ない。
「……今日のトーマ様、厳しくないですか?」
「急に危機感を覚えたんだよね。……リラというより僕自身に」
「なんでトーマ様が危機感を覚えるんですか?私がダメダメなだけなのに」
私が首をかしげると、トーマ様は気まずそうに視線を逸らす。
「……人を見る目に自信がなくなるというか……」
「はい?」
「なんでもないよ。とにかく授業中に寝ないで欲しいな。起こすの結構大変なんだよ?」
「すみません……。今日から運動します。歩きます。よくよく考えたら、トーマ様に甘えすぎてました」
そうだった。
トーマ様が後ろの席だからって、何でもかんでも頼り過ぎちゃったな。
これ以上迷惑かけられないし、自立しないと……。
反省した私が、うなだれた時だった。
トーマ様がこめかみに手を当てながらため息をついた。
「はぁ。わかったよ……そしたら僕も一緒に歩く」
「え?」
「二人で話しながら歩けば暇じゃないでしょ」
「いいんですか?」
驚く私に、トーマ様が言いにくそうに答えた。
「よくないけど、一人だとリラがサボりそうだし、そうなると授業中寝るのは目に見えてる。……僕もちょっと言い過ぎたし」
「ありがとうございます!」
ひれ伏す私に、トーマ様は呆れたように笑った。
「じゃあ、早速今日から歩きましょう!そうだ、散歩が終わったら学食行きません?文化祭の売り上げトップのご褒美でもらった、飲み物券を使いましょう!なんなら私、奢ります!!」
あれこれ提案する私に、トーマ様は「楽しそうだね」と困ったように笑うのだった。
というわけで放課後。
早速私たちは散歩に出ようと校舎をでた。
「殿下、どこを散歩するんです!?学園内ですか?それとも外出ちゃいます?」
カイル君がわくわくしている。
「初日だし、学園内にしませんか?まだ行ったことのない場所があるから、そっちを見たいです」
私の答えに「俺も行ったことない場所まだあるな!」と答えるカイル君。
そんな彼に、トーマ様がちらりと視線を向ける。
「……ほんと、いつもついてくるよねカイルは」
「そりゃそうですよ。放課後、勝手に外に出られたら困りますからね!」
にかっと笑うカイル君に、トーマ様はため息をつくのだった。
とりあえず散歩らしいコースを、ということで中庭を回る私達。
綺麗に整えられた花壇や草花を見ながら、散歩に至った経緯をカイル君に話す。
「なるほどね!授業中寝ないために、昼動きたいんだ?」
「はい。カイル君は夜寝られます?」
「寝る前に筋トレするからかぐっすりだよ」
「カイルは寝つきも寝起きも、とんでもなくいいよね」
褒めるというよりも、半分呆れたように言うトーマ様。
しかしカイル君は笑って頷く。
「いつでもどこでも寝られるようにしないと、野営とかできませんもん!」
おぉ、騎士団っぽい発言ですね。
そんなことを考えていたら、カイル君が思い出したように言った。
「殿下、そういえば前に『王子なのにリラちゃんのこと起こせない』ってロイにからかわれてましたよねー。リラちゃんが全然起きないから」
「そうだね」
穏やかに頷くトーマ様は、私をちらりと見た。
「おかげで、ニセ王子疑惑が出たよ」
「すみません! でも、仕方ないですよ、起こされるのは姫なんですから。お姫様はきっと寝起きがいいんだと思います」
私がきっぱり言うと、トーマ様は怪訝な顔をする。
「……そういうものなの?」
「たぶんそうですよ。私はお姫様じゃないから仕方ないです。試しに今度、お姫様を起こしてみたらどうですか?きっとすぐ起きると思います!」
「そんな状況になるわけないでしょ」
「殿下にはまだ早いですねー」
呆れたようにトーマ様。
含みのある顔で笑うカイル君を、トーマ様が小突いていた。
なにしてるんでしょう、と見ていると、カイル君が小突かれた腕を押さえながら言った。
「リラちゃんさー、オーウェン様だったらすぐ起きるの?」
「え!オーウェン様!?」
もしもオーウェン様に起こされる状況になったら……
「いやぁ!!ちょっと待ってください!!寝顔見られちゃいますね!私どんな顔して寝てるんだろ?恥ずかしいです!!たぶん飛び起きますね!」
「あ、そうなんだ」
「あははっ!さすがリラちゃん!ブレないよね!」
テンションがぶちあがる私に、カイル君が大笑いする。
するとトーマ様が言った。
「リラ。授業中、あんまり起きないようなら、僕がアイナと席を変わってもらって、彼女に起こしてもらうとか、そういう方向に持っていくからね」
トーマ様を見ると、彼は困ったように言った。
「起きないからって、僕がバシバシ叩くわけにはいかないでしょ。アイナの方が遠慮なく起こしてくれると思うし……」
「トーマ様、私に遠慮してたんですか?」
「遠慮っていうか、一応異性だしあんまり触っちゃいけないと思って」
トーマ様は気まずそうに顔をそむける。
なるほど、王子教育が行き届きすぎた結果ですね?
「トーマ様、バシバシ叩いていいんですよ。むしろ、そうしてもらえると思ってたんです。肩でも背中でも、なんなら椅子の座面を蹴ってもらってもいいんです」
「蹴る?」
トーマ様が驚いたように私を見る。
「きっと今までトーマ様はペンでツンツンつついたり、遠慮気味に起こしてくれてたってことですよね。そりゃあ私だって起きません」
「でも、そんな乱暴にはできないよ。授業中だから声も出せないし」
「私に遠慮なんかしないでくださいってことです。私をニセ王子だと思ってやっちゃってください。大丈夫です!私、結構頑丈なんで!」
私の言葉に、トーマ様は何とも微妙な顔を見せる。
「友達なんですから、遠慮なんていらないですよ。それにトーマ様のことを信頼してますから!」
ドーンと椅子を蹴ってくれていいんです!
私が頷きながら話をすると、トーマ様はしばらく考えていた。
やがて小さく息を吐く。
「はぁ……。わかった。遠慮しないで起こすね」
「そうです、友達として容赦なくお願いします!」
私がぺこりと頭を下げると、トーマ様は「友達として、ね」と言いつつ、小さく笑う。
「熱い友情ですね~」
カイル君が楽しそうに言うのだった。




