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49.【トーマ視点】気づいてしまった

 カイルの教室に向かってリラの隣を歩く。

 文化祭の賑わいの中で、僕は一人スッキリした気持ちでいた。


 ここ数日の、もやもやした気持ちの理由がわかったからだ。

 言葉にしてみれば、本当に簡単なことだ。


 僕は、リラが好きなんだ。


 なぜ突然気づいたのだろう。

 先ほどのやり取りを思い返してみる。



 自分が見世物になっている気がした僕に、「一緒に見世物になるから、楽しみましょう」と笑ったリラ。


 すごくドキドキした。


 なぜだかわからない。

 わからないけれど、そんなことを言う彼女の笑顔に何も言えなくなってしまったのだ。


 そして彼女に腕を取られて驚いていると、今度はこの言葉。


「あまりに寒かったら、そのマントください」

「あ、すみません。不敬罪で捕まります?」


 リラは僕に対してごく自然にそう言った。

 彼女のような振る舞いをする人は、今までほとんどいなかった。


 でも、嫌じゃない。

 そこまで考えて、ふっと気づいたのだ。


 あぁ、そうか。

 僕は彼女が好きなんだ。


 それが自然と言葉になって、すとんと胸に落ちてきた。


 リラの隣にいることが当たり前すぎて、認識していなかった。

 彼女は、僕を王子としてではなく、「トーマ・ローウェル」として見てくれていた。


 自分が素でいられるような感覚にさせてくれるから好きなのか、一緒にいて面白いからなのか、そこはわからない。


 でも、今僕がいる場所を誰にも譲りたくない。

 僕にとっては、特別な場所だから。  


 言葉になれば、もう戸惑いはない。

 今までなんでわからなかったんだろう。


 思わず笑ってしまう。



 すると、隣を歩くリラが僕を見て「なんか楽しそうですね?」と言った。


「うん。楽しい」

「良かったです。初文化祭ですもんね!」


 そう笑う彼女に、なんだか少し照れてしまった。



 ************



 B組の雪国アイス屋はなかなかの盛況ぶりだった。

 教室の出入口は閉められていて、アイスを片手に出てきた生徒たちはみな震えていた。


「すごいですね!ほんとに寒そうです!」


「……やめとく?」


「いえ!行きましょう!」


 入口には「ご自由にどうぞ」という上着がたくさん用意されていたけれど、リラは「こういうのは思いきり楽しむためにも、着ない主義なんです!!」と訳の分からないことを言っていた。


 そんなリラの意見になるほどと思い、長袖だし平気かな、という判断をした僕もそのままの服装で教室に入る。


「わー!ほんとに雪国だ!!」


 一面真っ白雪景色と化した教室に、リラは入った途端歓声を上げる。


「すごいですね!!綺麗!!」


「ほんとだね」


 教室とは思えぬ景色に目を奪われていると、聞き覚えのある声が飛んできた。



「わー!殿下!!来てくれたんですね!!ありがとうございます!!」


 もっこもこに着込んだカイルが、カウンターから手を振ってきた。


「リラちゃんも!!っていうか二人とも薄着すぎない!?リラちゃん半そでじゃん!」


 見ると、リラは入った瞬間のテンションはどこへやら、自分を抱きしめるようにして震えていた。


「と、トーマ様、マント……!」


「……わるいけど、これは無理すぎる……」


 僕がマントをぎゅっと掴みながらそう答えると、リラは恨めしそうな顔でこちらを見た。


「そんな人だったんですね……信じてたのに……!」


 カタカタ震えるリラに思わず笑いつつ、マントを脱ぐとリラの肩にかける。


「冗談だよ。どうぞ」


「ありがとうございます!!」


 リラはマントをぎゅっとつかんでくるまった。


「はー、あったかい。トーマ様がずっと着てくれてたおかげですね!」


 ……そう言われるとすごく困るというか、僕が直接リラに触れてるわけじゃないのに、なんとなく照れるからやめて欲しい。


 するとタイミングよくカイルが言った。


「リラちゃん、何味にする?」


「……バニラください」


「殿下はどうします?」


「……僕はいい。寒すぎる」


「殿下!ここを出たら、アイスを食べるのにちょうどいい気温ですよ!」


「いい。いらない。寒いから早くして」


「あ!じゃあ分けましょう!私のアイス半分あげます!」


 リラがきっぱりとそう言った。

 戸惑う僕を気にする様子もなく、こう続ける。


「カイル君、カップのバニラにしてください。スプーンも二つで!」


「おー、了解」


 勝手に話が進んでしまうことに驚いたけれど、この二人には何を言っても無駄だ。


「殿下とリラちゃんには、いちご味をおまけ!二人で仲良く食べてくださいねー!」


「わー!カイル君ありがとうございます!!」


 アイスを受け取ったリラは嬉しそうに笑うと、パッと表情を変える。


「もう限界です!寒すぎるから出ましょう!!」


「うん」


 僕らはそのまま急いで教室を出た。




「はーーーーーー。あったかい!!」


 出た瞬間の柔らかな温かさに、僕もリラもほっと息をついた。

 先ほどまでの、嘘のような寒さから解放された途端、なぜか笑いがこみ上げてきた。


「信じられないくらい、寒すぎましたね!!」


「ほんと。ここまでとは思ってなかった。寒すぎた」


 顔を見合わせて、笑う僕ら。


「すごいですよね!魔術科の生徒たちが、教室を雪国にできるなんてびっくりです」


「リラも魔術科でしょ」


「そうでした。……私も出来るようになるのかなぁ」


 リラはそう言って考え込んだけれど、三秒くらいでぱっと僕を見た。


「まぁそのうちできるでしょう!トーマ様!アイスが溶けちゃう前に食べましょう」


 彼女はそう言って、アイス屋が用意したらしい飲食スペースを指さした。


 椅子に座った僕らは、カップのアイスを眺める。


「すごーい。美味しそうですね!トーマ様どうぞ」


 リラはそう言って、僕にカップを差し出した。


「リラからいいよ、食べたかったんでしょ」


「ありがとうございます!ではいただきます」


 彼女はそう言って、バニラアイスをすくうとぱくっと食べる。


「はー。美味しい。あったかい所で食べるアイスが一番ですよねー」


 幸せそうに言うリラに笑ってしまう。


「よかったね」


「はい!寒さに耐えてよかったです。あ、マント借りたまんまでした!」


「食べ終わってからでいいよ」


「わかりました」


 そう言って、パクパクとアイスを食べるリラ。


 いつも通りのリラ。

 いつも通りの僕ら。


 そのはずなのに、僕はもう今までとは違う気持ちに気づいてしまった。


 これからどうしようかな。


 リラを見ながら、ぼんやりとそんなことを思う。

 彼女は、そんな僕にまるで気づく様子もない。

 たぶんこの先も気づかないだろう。


 僕が何かしない限りは。




「……ねぇ。僕のぶん、少しくらい残しておいてくれる?」


「あ、そうでした!はいどうぞ!」


 リラは笑いながらカップを差し出してくる。

 受け取ったカップには、バニラといちごのアイスが入っている。


「いちご少なくない?たくさん食べたんでしょ?」


「ち、ちがいますよ!おまけだから、元から少し少なめだったんです! 残り全部食べていいですよ」


 言い訳のよう言うリラが面白かった。


「ありがとう。でも、僕は一口でいいや」


 冷たくて甘いアイスは、すごくおいしかった。


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