49.【トーマ視点】気づいてしまった
カイルの教室に向かってリラの隣を歩く。
文化祭の賑わいの中で、僕は一人スッキリした気持ちでいた。
ここ数日の、もやもやした気持ちの理由がわかったからだ。
言葉にしてみれば、本当に簡単なことだ。
僕は、リラが好きなんだ。
なぜ突然気づいたのだろう。
先ほどのやり取りを思い返してみる。
自分が見世物になっている気がした僕に、「一緒に見世物になるから、楽しみましょう」と笑ったリラ。
すごくドキドキした。
なぜだかわからない。
わからないけれど、そんなことを言う彼女の笑顔に何も言えなくなってしまったのだ。
そして彼女に腕を取られて驚いていると、今度はこの言葉。
「あまりに寒かったら、そのマントください」
「あ、すみません。不敬罪で捕まります?」
リラは僕に対してごく自然にそう言った。
彼女のような振る舞いをする人は、今までほとんどいなかった。
でも、嫌じゃない。
そこまで考えて、ふっと気づいたのだ。
あぁ、そうか。
僕は彼女が好きなんだ。
それが自然と言葉になって、すとんと胸に落ちてきた。
リラの隣にいることが当たり前すぎて、認識していなかった。
彼女は、僕を王子としてではなく、「トーマ・ローウェル」として見てくれていた。
自分が素でいられるような感覚にさせてくれるから好きなのか、一緒にいて面白いからなのか、そこはわからない。
でも、今僕がいる場所を誰にも譲りたくない。
僕にとっては、特別な場所だから。
言葉になれば、もう戸惑いはない。
今までなんでわからなかったんだろう。
思わず笑ってしまう。
すると、隣を歩くリラが僕を見て「なんか楽しそうですね?」と言った。
「うん。楽しい」
「良かったです。初文化祭ですもんね!」
そう笑う彼女に、なんだか少し照れてしまった。
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B組の雪国アイス屋はなかなかの盛況ぶりだった。
教室の出入口は閉められていて、アイスを片手に出てきた生徒たちはみな震えていた。
「すごいですね!ほんとに寒そうです!」
「……やめとく?」
「いえ!行きましょう!」
入口には「ご自由にどうぞ」という上着がたくさん用意されていたけれど、リラは「こういうのは思いきり楽しむためにも、着ない主義なんです!!」と訳の分からないことを言っていた。
そんなリラの意見になるほどと思い、長袖だし平気かな、という判断をした僕もそのままの服装で教室に入る。
「わー!ほんとに雪国だ!!」
一面真っ白雪景色と化した教室に、リラは入った途端歓声を上げる。
「すごいですね!!綺麗!!」
「ほんとだね」
教室とは思えぬ景色に目を奪われていると、聞き覚えのある声が飛んできた。
「わー!殿下!!来てくれたんですね!!ありがとうございます!!」
もっこもこに着込んだカイルが、カウンターから手を振ってきた。
「リラちゃんも!!っていうか二人とも薄着すぎない!?リラちゃん半そでじゃん!」
見ると、リラは入った瞬間のテンションはどこへやら、自分を抱きしめるようにして震えていた。
「と、トーマ様、マント……!」
「……わるいけど、これは無理すぎる……」
僕がマントをぎゅっと掴みながらそう答えると、リラは恨めしそうな顔でこちらを見た。
「そんな人だったんですね……信じてたのに……!」
カタカタ震えるリラに思わず笑いつつ、マントを脱ぐとリラの肩にかける。
「冗談だよ。どうぞ」
「ありがとうございます!!」
リラはマントをぎゅっとつかんでくるまった。
「はー、あったかい。トーマ様がずっと着てくれてたおかげですね!」
……そう言われるとすごく困るというか、僕が直接リラに触れてるわけじゃないのに、なんとなく照れるからやめて欲しい。
するとタイミングよくカイルが言った。
「リラちゃん、何味にする?」
「……バニラください」
「殿下はどうします?」
「……僕はいい。寒すぎる」
「殿下!ここを出たら、アイスを食べるのにちょうどいい気温ですよ!」
「いい。いらない。寒いから早くして」
「あ!じゃあ分けましょう!私のアイス半分あげます!」
リラがきっぱりとそう言った。
戸惑う僕を気にする様子もなく、こう続ける。
「カイル君、カップのバニラにしてください。スプーンも二つで!」
「おー、了解」
勝手に話が進んでしまうことに驚いたけれど、この二人には何を言っても無駄だ。
「殿下とリラちゃんには、いちご味をおまけ!二人で仲良く食べてくださいねー!」
「わー!カイル君ありがとうございます!!」
アイスを受け取ったリラは嬉しそうに笑うと、パッと表情を変える。
「もう限界です!寒すぎるから出ましょう!!」
「うん」
僕らはそのまま急いで教室を出た。
「はーーーーーー。あったかい!!」
出た瞬間の柔らかな温かさに、僕もリラもほっと息をついた。
先ほどまでの、嘘のような寒さから解放された途端、なぜか笑いがこみ上げてきた。
「信じられないくらい、寒すぎましたね!!」
「ほんと。ここまでとは思ってなかった。寒すぎた」
顔を見合わせて、笑う僕ら。
「すごいですよね!魔術科の生徒たちが、教室を雪国にできるなんてびっくりです」
「リラも魔術科でしょ」
「そうでした。……私も出来るようになるのかなぁ」
リラはそう言って考え込んだけれど、三秒くらいでぱっと僕を見た。
「まぁそのうちできるでしょう!トーマ様!アイスが溶けちゃう前に食べましょう」
彼女はそう言って、アイス屋が用意したらしい飲食スペースを指さした。
椅子に座った僕らは、カップのアイスを眺める。
「すごーい。美味しそうですね!トーマ様どうぞ」
リラはそう言って、僕にカップを差し出した。
「リラからいいよ、食べたかったんでしょ」
「ありがとうございます!ではいただきます」
彼女はそう言って、バニラアイスをすくうとぱくっと食べる。
「はー。美味しい。あったかい所で食べるアイスが一番ですよねー」
幸せそうに言うリラに笑ってしまう。
「よかったね」
「はい!寒さに耐えてよかったです。あ、マント借りたまんまでした!」
「食べ終わってからでいいよ」
「わかりました」
そう言って、パクパクとアイスを食べるリラ。
いつも通りのリラ。
いつも通りの僕ら。
そのはずなのに、僕はもう今までとは違う気持ちに気づいてしまった。
これからどうしようかな。
リラを見ながら、ぼんやりとそんなことを思う。
彼女は、そんな僕にまるで気づく様子もない。
たぶんこの先も気づかないだろう。
僕が何かしない限りは。
「……ねぇ。僕のぶん、少しくらい残しておいてくれる?」
「あ、そうでした!はいどうぞ!」
リラは笑いながらカップを差し出してくる。
受け取ったカップには、バニラといちごのアイスが入っている。
「いちご少なくない?たくさん食べたんでしょ?」
「ち、ちがいますよ!おまけだから、元から少し少なめだったんです! 残り全部食べていいですよ」
言い訳のよう言うリラが面白かった。
「ありがとう。でも、僕は一口でいいや」
冷たくて甘いアイスは、すごくおいしかった。




