48. ニセ姫君は遠慮がない
やって来た文化祭当日。
王子様カフェは大盛況だった。
いろんな王子に会いたいと、女生徒が押し掛けた。
トーマ様の接客にあたった生徒は「運を使い果たした!」と大盛り上がりをしていたし、ロイ君の読み通り、男装王子も人気があった。
ニセ姫君も、いろんなバージョンを用意したためか、大盛況だった。
侍従科・アイナちゃんは完璧な接客で、王道プリンセスとして人気を博していた。
裏では「どんどん貢がせますわよ!」と姫らしからぬ発言をし、ロイ君に「頼もしい!」と褒められていた。
楽しそうな二人を眺めながら、私は隣のトーマ様に言った。
「お姫様は強いですね!」
「もうほんと……怖いからやめて欲しいなぁ」
「現実の姫じゃないんですから大丈夫ですよ!」
私の励ましに、トーマ様は「そうだよね、実際はそんなことないよね……」と力なくつぶやいていた。
裏方の私は「姫スタイルで入口に立って客引きをしろ」と言われていたので、歩いている生徒に片っ端から声をかけていた。
しばらくすると、ロイ君がボードを持ってやってきた。トーマ様もいる。
「リラ。トーマと休憩行っていいから、これ持ち歩け」
「なんですか?」
「宣伝。お前ら人目をひくから、一緒に行動して客を掴んでこいよ」
渡されたボードを見てみる。
『1―A 王子様カフェ営業中!』
『俺様系からおっとり系まで 各種様々な王子を取り揃えております』
『男装王子や 本物の王子も あなたを待っています 姫もいるよ』
などと書かれていた。
「……別に待ってないけど」とつぶやいたトーマ様の小さな反抗は、ロイ君にはまるで通じていなかった。
支配人・ロイ君は「休憩は三十分だからよろしく!」と言って教室へと消えていった。
「とりあえず行こうか」
「行きましょう」
ロイ君に渡されたボードを手に、ぶらぶら歩く私とトーマ様。
なんだかんだ王子衣装のまま、ボードをもって歩く彼を、みんながキラキラした目で見つめていた。
さすが王子、視線を独り占めとはこのことですね!
「トーマ様、学校の廊下に恐ろしいほど似合いませんね!」
「……いますぐ制服に戻りたい」
「だめですよー。売り上げトップだったら、クラスみんなにご褒美くれるって言ってましたもん。がんばりましょう!」
やる気低迷中のトーマ様が持つボードを、まっすぐに持たせ直していた時だった。
「すみませーん、一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
見ると、トーマ様に女子生徒二人組が駆け寄ってきた。
「え」
一瞬にして「撮ってもいいのだろうか?」という疑問が、彼の中に浮かんだらしい。
私はぱっと彼の前に立つと言った。
「一枚五オズになります」
「え、お金とるの?」
「すみません。彼、王子様なので。あと生徒手帳の確認もさせていただきます」
私の言葉に彼女たち、そしてトーマ様本人も驚いている。
「写真を撮った後に領収書をお渡しします。これをお店で見せると、クッキーが無料になります」
「そうなの?じゃあ払います!」
迷いなく言う女子生徒を見て、トーマ様が戸惑っている。
「え、ちょっと……!」
「大丈夫です!領収書ならたくさん持ってますから!ロイ君の読み通りですね!」
わっさーと預かった領収書を見せる。
「……ロイ」
げんなりするトーマ様をよそに、私は女子生徒と金銭のやり取りを始める。
「一枚五オズですよね? じゃあ、まずグループで一枚と、私ツーショットを撮ってほしいから……」
「え、私も王子様とのツーショットほしい!!」
「じゃあ合わせて、十五オズですね」
そんな私達に、トーマ様は深い深いため息をつくのだった。
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「王子様カフェ、あとで行きます~!」
「よろしくお願いしまーす」
手を振って彼女らを見送ると、私はくるりとトーマ様を見た。
「トーマ様、ちゃんと『お待ちしています』って言ってくださいよ。せっかく来てくれるって言ってくれたんですから」
口を尖らせる私に、トーマ様は素直にこう言った。
「あ、ごめん。なんか展開についていけなくて……写真は城NGじゃないの?」
「カイル君に確認とったらしいですよ。相手の身元がおかしくないか、そして変な格好をしてないならOKみたいです!」
領収書と売上金をしまいながら説明する。
「だから生徒手帳を確認してたんだ?」
「はい。ロイ君天才ですよね!」
「……怖いくらいだよ」
ため息をつくトーマ様に私は「頼りになりますよね!」と頷くのだった。
「あ、そうだ! トーマ様、アイス食べに行きましょう!」
「……もしかしてカイルのクラス?」
「はい!雪国アイスです。その王子様衣装なら、長袖だしマントついてるし寒くないですよ」
「というか、あんまりこの格好で、校内を歩き回りたくないんだよね。見世物になってる感じがすごくて……」
トーマ様は自分の恰好を見下ろす。
いかにも王子様って感じ。
「そういえば、そういう王子様っぽいトーマ様を、お城で見たことないですね!」
「普段からこんな格好してるわけないでしょ」
「そうなんですね」
たぶんパーティーとか、本気の時しかこういうの着ないんだろうなぁ。
そう思いながら私は言った。
「似合ってるから大丈夫ですよ。私もニセ姫君の格好してますし、一緒に見世物になりましょう!文化祭ですし、お祭りを楽しめばいいんです!」
何の気なしに言った私を、トーマ様がふっと見る。
驚いたような表情で固まっている彼。
そんなに変なこと言いましたか?
「トーマ様?アイス屋さん、行きますよね?」
動こうとしないトーマ様。
不思議に思いつつも、私は彼の腕を取る。
「休憩時間、残り少ないですよ!」
そして、ずんずんとアイス屋さんに向かって歩き出した。
しばらく歩くと、トーマ様が言った。
「リラは半袖でしょ。寒いと思うよ?」
「私、寒いのは結構平気なんです」
「でもアイスが溶けない空間って相当だよ?」
「あまりに寒かったら、そのマントください」
私の言葉に、トーマ様は立ち止まった。
振り返ると、驚きや戸惑いのない瞳で私を見た。
さっきからどうしたんでしょう?
トーマ様を見ると、彼は言った。
「……リラは僕に遠慮がぜんぜんないよね」
静かな声と落ち着いた口調。
まるで、ただ確認しただけ、という表情の彼を見つめ返す。
「あ。すみません。不敬罪で捕まります?」
私がそう聞くと、トーマ様はじぃっと私を見てから、ふわりと微笑んだ。
「ううん。そのままでいい」
なんだかすっきりした表情でそう言ったトーマ様は、私が掴んでいた腕をそっとはがす。
「引っ張らなくていいよ。ちゃんと一緒に行くから」
そう言って、私の隣に並ぶ。
おぉ、行く気になってくれましたね!
「じゃあ行きましょう!」
私と一緒にトーマ様も歩き始める。
なんだか楽しそうなトーマ様に気づいて、私も嬉しくなるのだった。




