46.レア王子ですって!
「トーマ様。この課題って確か明日まででしたよね?」
ノートをもって後ろを振り向くと、トーマ様は頬杖をついてぼんやりと外を見ていた。
「トーマ様?」
ノートを彼の机にパンと置くと、はっとしたように私を見た。
「あ、ごめん。なに?」
「歴史の課題です。明日提出で大丈夫ですよね??」
「歴史……そうだね。明日の朝だよ」
トーマ様は頷いた。
「……どうしました?なんかぼんやりしてますね?」
「あー……うん。空が青いなぁと思って」
彼はそう言って、もう一度外を見る。
つられて見ると、確かに秋のさわやかな空が広がっている。
「ほんとですね。外でお昼食べるのもいいかもしれません」
「そうだね。……外にする?」
外を見たまま言うトーマ様に、私は頷いた。
「いいですね!じゃあ購買で、パンとリンゴジュース買っていきましょう!」
私の言葉に、トーマ様は「……やっぱりこうなるよね、自然と」と呟く。
「なんですか?」
「いや、なんか色々わからなくて」
「トーマ様にもわからないことあるんですね!」
「わからないことばっかりだよ。学校って、ほんとに色々なことが学べるんだね」
「そうですね」
よくわからないけれど、学校は勉強するところですからね!
そう思いつつ、私は前を向くのだった。
結局いつものメンバーで、話した通り外ランチをしている私達。
チョコチップメロンパンを食べる私の隣で、トーマ様はリンゴジュースを飲んでいた。
でも、心ここにあらずというか……やっぱり、いつもよりぼんやりしているようですね?
不思議に思っているとカイル君が言った。
「文化祭なにやるかって、A組はもう決まった?」
「まだだけど、カフェになりそうな雰囲気だったよ。ロイ君たち商業科の人が、今頃決めてるんじゃないかな?」
サンドイッチをつまんで言うアイナちゃんに、私もうなずく。
「商業科でランチミーティングするっていってましたもんね。やるからには売り上げトップを狙うって」
「ガチなんだなぁ、うちとは大違い!」
感心しているカイル君に私は尋ねた。
「B組はなにするんですか?」
「うちはアイス屋さんだって。アイス食べたいなーって言ったらそうなった」
「……意外と発言力あるんですね、カイル君」
「たぶん席が一番前のど真ん中だからだろうなー。キンキンに教室を冷やすって言ってた。魔術科が」
教室を冷やす?
その言葉に、ずっと黙って聞いていたらしいトーマ様が反応した。
「冷凍庫使わないんだ?……極端だね」
「雪国にするらしいです!しっかり着込んで来いって言われてます」
楽しそうなカイル君に、トーマ様は「なんかすごそう……」と呟いた。
私は身を乗り出して、カイル君に言った。
「すっごく面白そうです! 雪国アイス食べに行きますね!!」
「うん、来て来て!楽しいと思うからさ! 殿下も絶対来てくださいね!」
テンションの高いカイル君に反して、トーマ様は冷静に言った。
「……寒いの苦手」
「知ってますけど、大丈夫です! お客さんは買う時だけ寒いんで。寒さを味わうコンセプトなんで!」
「そこまでしてアイス食べなくてもいいかな」
「えー!トーマ様、一緒に買いにいきましょうよ!楽しそうですもん!」
ワクワクする私がそう言うと、トーマ様はちらりと私を見た。
「……考えておく」
そう言って、ふいっと顔をそむけてしまった。
あら、そんなに寒いの苦手なんですね!
「他のクラスの出し物も楽しみだね」
「全部見て回りましょう!」
体育祭より楽しみになってきた私に、ぼんやりしていたはずのトーマ様が「変な薬、作らないでね」とくぎを刺してくるのだった。
その日の放課後、帰ろうとしていた私達に、商業科のクラスメイトが言った。
「はーい。ちょっと待って!すぐ終わるから!文化祭についてプレゼンしたいと思いまーす」
見ると、いつの間にか商業科十名ほどが、教室の前にずらりと並んでいた。
ロイ君もいる。
「カフェをやりたいって意見がこないだ多く出たので、僕らA組商業科は、売り上げトップを目指すために一生懸命考えました!」
燃えてますね、商業科。
「その結果、現実ではありえないローコスト・ハイリターンを望めるカフェを思いついてしまいました!!」
そう言って、商業科の彼は黒板にカツカツと大きな文字でこう書いた。
「『王子様カフェ』!これです!!」
力強く発表する彼。
そして、私達は一斉にトーマ様を見る。
「え」
「王子様カフェ」という文字と、クラスメイトの視線に固まるトーマ様。
「平たく言えば、執事カフェやメイドカフェの王子様バージョンってことです。
我がA組には、幸運なことに本物の王子様がいるので、そこを使わせていただきます!」
「おー!さすが商業科!利益のためにはクラスメイトも売る!」
あちこちからそんな声が飛んでくる。
「言っておくけど、トーマが全部負担するわけじゃないぞ。全員王子になるからな!女子も男装で!」
ロイ君がきっぱり言った。
「男装~!?」
「一定層にウケそうだからな!それに、王子もいろんなタイプがあることが、俺達の調べで分かった」
「……いろんなタイプ」
首をかしげる私達に、商業科女子が言った。
「物語に登場する王子たちには、俺様系、クール系、真面目系、爽やか系などと色々あります。ちなみにローウェルくんは本物の王子だけれど、おっとり系。わりと少なめの分類です」
「へぇ、すごい!わりと少なめってことは、トーマ様はレア王子ですね!」
「リラ。現実の王子の話じゃないから、真に受けない方がいいよ」
私の言葉に、トーマ様が呆れた顔をする。
すると、それを聞いたらしいロイ君が言った。
「現実にないことを実現するのが娯楽だろ。文化祭とはそういうものだと、俺達は考えた」
うんうんと頷く商業科たちに、私たち一般生徒は「商業科の本気、やばい。怖い」とひそひそ話す。
「とにかく!王子様カフェであれば、トーマが王子として堂々としていても問題ないし、公式ニセ王子達がうようよいても問題ない。いろんなジャンルの王子がいて楽しい。お客が来る。儲かる。こうだろ?」
「まぁ確かに面白そうだよね」
「俺も王子になっていいの!?マジ?」
「あたし、クール系王子になりたーい!男装たのしみー」
なんだかんだ盛り上がってきたクラスメイトの反応を見て、商業科の皆さんが満足そうにうなずいた。
そして声高らかに宣言する。
「王子カフェ決定でいきます!明日以降、王子講習をしますのでよろしくお願いします」
「……王子講習?」
きょとんとするA組。
「『王子とは何か、王子になるにあたって気をつけること』などをご指導いただきます!トーマ・ローウェル君に!」
「え。僕?」
「だって本物じゃん」
「……」
戸惑うトーマ様。
しかしノリの良いA組は、すでに王子になる気満々だった。
「俺を一流のニセ王子にして~!」
「私もトーマくんみたいな、オーラを身に着けたいなー!」
「俺様系王子はどうやったらなれるの?」
トーマ様に向けて、あれこれ言うクラスメイト達。
「……とりあえず、それっぽい服でも着ればいいんじゃない?」
どうでもよくなったらしいトーマ様の言葉に、全員が「おぉそうか!まずは冠だ!」と盛り上がる。
翌日から、学校中で「A組が怪しげなロイヤル感を醸し出してる」と話題をさらっていた。
すでに宣伝効果が抜群だな、と商業科が笑っていることに、A組生徒は誰も気づいていない。




