↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/57

45.【トーマ視点】僕の場所

 リラの告白騒動の放課後、寮に戻ろうと廊下を歩いていたら、学級委員長にばったり出くわしてしまった。


「あ」


 彼はそう言って立ち止まると、いつものように感じのいい笑顔で挨拶をしてくる。


「やぁ、ローウェル君。珍しく一人なんだ?」


「うん」


 いつもカイルと一緒だと思われてるんだなと思いつつ頷くと、委員長が言った。


「……聞いたんでしょ?俺がファルケさんのこと好きだって」


 突然その話になるとは思わなかったので、驚いてしまう。

 なんとなく気まずい。


「彼女、おもしろいよね。すごくズレてるけど一生懸命で」


「……そうだね」


「見た目がどうとかじゃなくて、なんかすごく可愛いんだよね。つい応援したくなるんだ」


 彼はそう言って僕を見る。


「いつのまにか好きになってた」


「……そう」


 彼の告白に頷くことしかできない。

 なぜこんな話を僕にするんだろうか。

 落ち着かない気持ちを押さえながら彼を見る。


「君も同じなんじゃないの?」


「え?」


 探るような彼の視線に、言葉が出ない。

 同じって……。


「ファルケさん、すごくローウェル君を頼ってるなぁって思って、羨ましかった。俺じゃあダメなのかなって思って、魔術基礎の話をしたりもしたんだよ」


「聞いたよ。すごくわかりやすかったって喜んでた」


「そう。……やっぱり君に全部話をするんだね」


 委員長はそう言って、目を伏せる。


「やっぱり羨ましい」


 羨ましい?


「君にとっては当たり前かもしれないけどね、俺にとってはすごく君のいる場所が羨ましいよ。変わってほしいくらい」



 アイナの言葉を思い出す。


『いつもトーマ君からノート借りたり、購買ダッシュしたりしてるでしょ?そういうのを委員長とするって考えてみて』


 そういえばそれに関して、リラは何か答えていただろうか?

 思い出せない。


 少なくとも、目の前の彼はそれを望んでいるということがわかった。

 僕が当たり前のように過ごしていた日常を。


「……リラには振り回されてばかりだけど」


「それ、ローウェル君だからだよ」


 ぽつりとつぶやかれた言葉。

 うつむく委員長の表情はうかがえなかったけれど、なぜか彼を傷つけてしまったような気がして、心が重くなる。

 しかし、パッと顔を上げた彼はいつも通りの様子でこう言った。


「ファルケさんが、オーウェン様を好きなのはみんな知ってるけど、正直言って、あんまり現実的じゃないでしょう? 年上すぎるし、生活環境も何もかもが違う。

 それなのに、彼しか見えていない。

 だから、告白して俺を意識してもらうっていうのが、まずは必要かなって思ったんだ」


 元から長期戦覚悟だったのか。

 リラの反応は、彼の思惑通りだったということになる。


「……すごく意識してたね」


「うん、あんなに意識してもらえるなんて正直予想外だった。すごく可愛かったな」


 ぷっと笑う彼。

 僕の知らないリラを知った彼に、なんだかおいて行かれている気がして居心地が悪い。


「でも、全然無理だったよ。オーウェン様が好きだって。考えて欲しいってお願いしたけど、結局悩みもしなかった。ちょっとくらい悩んでほしいよねぇ同世代としては」


 冗談交じりの言い方だったけれど、なんとなく痛々しい。

 傷ついていることを隠そうとしているのがわかるからだ。


「リラのオーウェンへの想いはそう簡単にはひっくり返らないよ。ああ見えて、彼女の中では本気なんだ。誰もオーウェンの代わりにはなれない」


「王子様でも無理?」


「僕?無理だよ。オーウェンの場所はオーウェンでしか埋められない」


 そしてその場所は、リラの中で大部分を占めているんだろう。


「そっか。君が無理なら僕なんて無理だろうな」


 彼はそう言うと、明るい声を出した。


「でも、たぶんファルケさんの中で、君は別の場所がちゃんとありそうだよ」


「ストッパー役だと思われてるんじゃないかな。昔からの知り合いだし」


 僕の言葉に、彼はうーん、と少しつまらなそうな顔をする。


「俺でもできそうなんだけどな、その役割」


「え」


「俺が欲しいのは役割じゃなくて、君のいる場所だよ。彼女の日常に入れてもらえたら、俺も少しは可能性があるんじゃないかな。そう思わない?」


 思わぬ問いに答えられなかった。

 固まる僕をじっと見つめていた委員長は、ふっと表情を崩す。


「ごめん。冗談だ」


 彼はそう言うと、温かい目で僕を見た。


「ねぇ、ローウェル君て素はすごく自然体な人だね。少し前に偽王子騒動があったけど、あの時に購買で見た君と、目の前の君は全然違う人みたいだよ」


「そうかもしれないね。……でもどちらも僕だ」


「うん、知ってる。そして、俺はどっちの君も羨ましいと思ってる。ローウェル君である君も、王太子殿下である君もすごくいい」


 素直に褒めてくれているのがわかる。

 こういう言い方をされたことは今まで一度もない。


「ありがとう」


「オーウェン様の壁を超える前に、ローウェル君の壁を越えなきゃいけないんだなって思うと、結構しんどいよ」


「僕は別に壁でもなんでもないよ」


「俺にとっては壁だよ。出来ればそのまま動かない壁でいて欲しいな」


「?」


 その言い方を不思議に思っていると、彼はふっと笑った。


「君、自覚すると手ごわそうだもん」


 じっとこちらを見る委員長は、僕の言葉を待っているようだった。


「……ごめん。全然わからなくて。でも、君は自分を認めてあげていいと思う」


 そこで初めて彼が「え」と固まった。


「たまたまリラにはオーウェンがいただけで、君に何か足りないものがあったわけじゃない。僕をうらやましがる必要もない。そのままの君で充分だと思うよ」


 現にアイナからの株は上がっているわけだし。


「……ローウェル君からそう言われるなんて、嬉しいな。君、人を見る目はあるだろうしね」


「どうかな」


「君に慰められるの、悪くないかもしれない。自分でも不思議だけどね」


 彼はそう言うと、「それじゃあ、また明日」と言って去っていった。


 慰めたというよりも、自分としては本心から出た言葉だった。

 今話したことで、彼がリラのことを大切に思っていたことがよくわかったからだ。

 彼女が、きちんとした人に見てもらえていたことが嬉しかった。

 そしてそんな彼が、想いが届かなかったからと言って、リラのために何も変わる必要がないとも思えた。



「……羨ましい……か」


 僕は、一生徒としてすごす自分が、羨ましがられる所にいるなんて思ってもみなかった。

 ただ当たり前に、彼女といる日常をすごしていたからだ。


 それってもしかしたら、特別なことだったりするのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。