44.【トーマ視点】なんとなく嫌だ
「は!?告白された!?リラちゃん、青春じゃん!!」
リラが告白されたことを知ったカイルは、大きな声を上げた。
「誰!?変な奴じゃない!?」
「普通に良い人だよ。うちの学級委員長!」
アイナの説明に、カイルがまたまた大声を上げる。
「あー!知ってる!背の高い人でしょ?リラちゃんよくあの人に提出物の期限、念押しされてたよね」
「そういえば……」
彼女はあごに手を当てて考え込む。
そういえば確かにそうだ。
リラがよく提出日を忘れるから、教えてくれる親切な人だと思っていた。
「そっかー!あの人、リラちゃんのこと好きなんだー。へぇ~」
軽い口調のカイルだったけれど、その言葉はすごく衝撃だった。
「そ、そんな大きな声で言わないでくださいよ」
顔を赤くしたリラが、焦ったように文句を言っている。
……そうか、委員長はリラが好きなんだ。
何とも言えないモヤモヤした気持ちと、早まる鼓動。
無意識に深呼吸している自分をよそに、カイル達は話を進めていく。
「あの人がリラちゃんを好きだなんて意外な感じするなー」
「でもわりと面倒見良さそうだぞ」
「そうだね、学級委員長としてクラスをまとめてるもんね。この個性派クラスを」
評価が高い……!
確かに彼には良い印象しかない。
周囲からそう見えているなら、リラにだってそう見えているはずだ。
落ち着かない気持ちが一層強くなる。
「でも、告白ってほんとにするんだなー!ねぇ、どうやってされたの!?」
「ちょっとカイル君、それプライバシーだから!でも気になる!あの委員長どうやって告白したの!?」
結局、盛り上がるカイルと同じ顔でワクワクしているアイナ。
「え、えぇと……確か普通に言われました。好きだから付き合って欲しいって」
「きゃーーー!!ストレート!最高!男前!委員長の株ダダ上がり!!」
盛り上がるアイナに、「ちょ、ちょっとアイナちゃん!」とリラはますます顔を赤くする。
「で?どうすんの?」
「え、どうするって……私はオーウェン様が好きですって言いました。そしたら……それでもいいって」
「あーーーー!委員長ーーーーーー!!!」
「アイナちゃん、完全にスイッチ入ったぞ」
机をばんばん叩くアイナをちらりと見て、驚きつつも笑っているカイル。
「で?」
「それで……何て言っていいのかわからなくて、黙ってたら、考えておいてほしいなって言われて……」
「うぅ、もう無理。キュン死。真面目に見えた委員長がそんなタイプだったなんて……好き!!」
机に突っ伏したアイナを、僕ら男子三人が見る。
「……なんでリラに告白した委員長に、アイナが落ちるわけ?」
「わかんない」
「女の子ってむずかしいよなー!」
「はい。男子は黙ってて。で、リラちゃん、どうするの?」
パッと起き上がったアイナは僕らのことを冷たい目で見てから、くるりとリラに向き直る。
リラは別人かのようにもじもじしながら、こう言った。
「……考えておいてって言われても困るんですよ。何をどう考えていいかわかんないし……」
「委員長と付き合う方向で考えてみるってことだろ?」
ロイの言葉に、リラが「え」と固まった。
「で、でも私はオーウェン様が好きなんですよ?」
「好きなだけだろ。別にいいじゃん。委員長だってそれでいいって言ってるんだし、一緒に過ごしているうちに、オーウェン様より好きになるかもしれないぞ」
ロイの言葉にリラは「……目からうろこすぎます」と呟いた。
「そんな風に考えたこともなかったです。私にはオーウェン様しかいないと思ってました」
リラは両手で頬を押さえながらそう言った。
「え!じゃあ委員長と付き合うの!?リラちゃん!」
カイルがワクワクした表情で身を乗り出す。
その言葉に、なぜか僕がドキドキしてしまう。
すると彼女はきっぱりと言った。
「付き合いませんよ!私はオーウェン様が好きなんですからね!」
あまりにも彼女らしい言葉に、全員が「だよね」と頷いた。
なんだかほっとして笑ってしまう。
「振られちゃうのかー、委員長」
なぜか知らないけれど、アイナが残念そうな顔をする。
リラはオーウェンしか見ていない。
だから当たり前の結果と言えばそうなんだけど……。
「なんか心が痛むな……」
「お前が振られてるわけじゃないから気にすんなよ」
思わず胸を押さえる僕に、ロイが笑いながら肩を叩く。
そうなんだけどね……。
なぜか何とも言えない気持ちになる。
すると、別のことを考えていたらしいリラが突然言った。
「でも、付き合うってなんですかね?」
「え、今さら?さんざんオーウェン様に告白してきたのに!?」
「そういえば考えてませんでした。結婚したいなって思ってましたけど、その前に付き合うという段階があったんですね!」
「一緒に出掛けたり、ご飯食べたり、遊んだりすればいいんだよ。そうしてお互いを知っていくってこと」
「……なるほど。それが付き合うってことなんですね」
「そうそう。どうする?試しに委員長と付き合ってみる?」
ロイ、そんなに委員長を勧めなくてもいいのに。
彼は明らかに面白がっているけれど、なんとなくおもしろくない。
「だから私にはオーウェン様がいるんですってば!それに委員長と出かけるとか、そういうの全然考えられないんです!」
リラの言葉を聞いたアイナは、「それじゃあさぁ……」と考えながら言った。
「リラちゃん。もっと普段やってることを想像してみて!例えば、いつもトーマ君からノート借りたり、購買ダッシュしたりしてるでしょ?そういうのを委員長とするって考えてみて」
「え?」
僕とリラはアイナを見る。
「トーマくんに頼ってる部分を、全部委員長に置き換えてみればわかりやすいよ。出かけるだけが付き合うんじゃなくて、日常を一緒に過ごすってことだから」
「確かに、リラはトーマに頼り過ぎだもんな。もしも委員長と付き合うなら、いつもトーマに頼ってるのっておかしいし」
「そ、そうなんですか……」
リラはそう言ってちらりと僕を見た。
「すみません、私頼りすぎてました?」
「どうだろう。あんまり意識してなかったかも……」
日常過ぎて、頼られているなんて感覚はまるでなかった。
でも、今までのリラとのやりとりが、全て委員長に向かうと思うと……なんとなく嫌だ。
「なんかついトーマ様の方に行っちゃうんですよねぇ。昔から知ってるし、なにしても怒られないし」
「トーマ、もっと怒ったほうがいいぞ」
呆れた顔をするロイ。
でも、やっぱり気にならない。
僕の反応にロイがため息をついた。
「あぁ、ダメだ。こいつも委員長と同じで、わりと面倒見良いから」
「そんなことないと思うけど……」
このままでいい、とはなんとなく言えなくて、僕はそのままあいまいに黙り込むのだった。




