43.これは青春!
数日前の偽王子事件をきっかけに、王子であることを明かしたトーマ様だったけれど、これまで通りの生活が送れているようだった。
クラスのみんなは「逆にすっきりしたー。どう見たって王子っぽかったからさー」と受け入れ態勢に即入っていた。
この反応に、ロイ君がまずこう言った。
「このクラスってホントおおらかな奴多いよなー。リラを受け入れた時点で何でもOKって感じだとは思ったけど」
「なんですか、それ。私、どれだけ問題児扱いなんです?」
「うん、自覚ないもんな」
ロイ君の言葉に口を尖らせていると、アイナちゃんが言った。
「でも、トーマ君もスッキリしたんじゃない?」
「そうだね。今のところ避けられり、変に気を使われてる気はしないからホッとしてるよ」
穏やかな笑顔でトーマ様がそう言った。
その時だった。
「ファルケさん、ちょっといい?」
呼ばれて振り向くと、我がクラスの学級委員長が立っていた。
彼は魔術科で入ったらしく、たまに魔術基礎を教えてもらっている。
オーウェン様のことも知っているし、しっかり者だし、印象の良い人だ。
「委員長。どうしました?もしかして私、また何か提出し忘れてます?」
おかしいな、提出物チェックはいつもトーマ様にしてもらっているのに。
「あはは!違うよ。ちょっと用事があるんだ。いいかな?」
「わかりました」
私はこくりと頷くと、「ちょっと行ってきますね」と席を立つ。
「リラ、なにやらかしたんだ?」「行ってらっしゃい」と手を振るロイ君とアイナちゃん。
そんな中、委員長がトーマ様を見て微笑む。
「ちょっと借りるね」
そう言われたトーマ様はびっくりしたように「え。あ、うん」と頷いた。
そしてすぐに「行ってらっしゃい」と、いつもの笑顔で手を振ってくれる。
なんとなく安心した私は言った。
「あ、トーマ様!次の昼休み、学食行く前に購買ダッシュしましょうね!」
「え、学食行くのに?」
「おなかすいたんです。Aランチじゃ足りないと思うので!」
私がそう言うと、ロイ君がトーマ様の肩を掴んだ。
「購買ダッシュさせられる王子、ウケるな」
「私達が席は取っておくから、ついでにクリームパンお願いしたいなぁ」
「しかもパシられてるし!」
「ついでだからいいよ」
のんきな三人の言葉を聞きつつ、私は委員長について教室を出た。
廊下をずんずん歩く私達。
どこに行くんでしょう?
「委員長、私なにかやらかしました?もしかして先生に呼ばれてるとか?」
「ううん、違う。何もしてないよ。ファルケさん、ずいぶん警戒してるけど、なにか身に覚えでもあるの?」
「ないですよ。今学期は補習なしでがんばろうって決めたんです。提出物とかも全部トーマ様に確認してもらってるし、テストも乗り切れたし、怒られ要素はないと思ってるんですけど……」
「トーマ様、かぁ。彼、王子様だったんだよね。隠してたみたいだけど」
「あ、気づいてました?」
「気づいてたっていうか、名前がリアディスの王子と同じだなぁって思ってたし、立ち振る舞いが普通じゃないし、どう見たって王子だよなって思ってた。実はね」
そう言ってからりと笑う。
さすが委員長。
わかる人にはわかるんですね。
というか、偽物がアレすぎたんですね!
気づいたら、いつのまにか中庭まで来ていた私達。
「あれ、こんなとこまで来ちゃいましたけど?」
何の用なんですかね?
そう思って委員長を見ると、くるりと振り向いた彼はまっすぐに私を見た。
「ファルケさん、オーウェン様のことがずーっと好きっていうのは本当?」
「本当ですよ!オーウェン様最高ですよね!!最近全然会えてないから、そろそろお会いしたいなと思ってるところなんですよ! もしかして、なにかオーウェン様情報があるんですか!?」
「ごめん、ないんだよね」
「あ、そうですか……」
何かあるのかと期待してしまいましたよ……。
「じゃあ、ローウェル君のことはどうなの?」
少し笑みを浮かべる委員長だったけれど、目がやけに真剣だった。
「ローウェル君てトーマ様のことですか?どうとは?」
質問の意味がわからず、彼を見つめ返す。
「購買行ったり、テスト勉強したり、いつも一緒にいるイメージがあるんだよね」
「あぁ、そうですね!仲良しです!いつもお世話になってますし。ロイ君とカイル君とアイナちゃんにも、ほんとにお世話になってます!」
「……なるほど。そっか。そういう枠なんだね。それならいいかな」
「そういう枠?」
首をかしげていると、学級委員長は私を見てにこりと笑った。
*************
そろそろ休み時間が終わるというのに、リラはまだ戻ってきていない。
一緒に出て行った学級委員長は、すでに席に着いているというのに。
不思議に思って彼を見ていると、目が合った瞬間、彼はにこりと微笑んだ。
つられて小さく頭を下げる。
特に変わった様子もない。
彼はいつも感じが良い。
授業が始まるチャイムとともに、リラが教室に駆け込んできた。
そしてそのまま、すとんと僕の目の前の席に着く。
「……遅かったね。大丈夫?」
そう尋ねると、彼女は前を向いたままコクコクと頷いた。
そして教科書とノートを取り出すと、両手を頬に当てたまま固まったように動かなくなってしまった。
「?」
どうも様子がおかしい。
そう思いながら、授業をぼんやりと受ける。
リラは寝ることもなく、固まったように動かなかった。
授業が終わり、先生が教室を出る。
クラスメイト達も学食や購買に走っていき、教室は少しずつ人が減ってきた。
僕はリラに声をかける。
「リラ。購買行くの?だいぶ遅れちゃったけど」
「……すみません、ちょっとやめときます」
「え!?」
振り向きもせずにそう答えるリラに、僕は心底驚いた。
「おなかすいたって言ってなかった?」
「なんかもう……食べられそうもないです」
「……具合悪いの?」
全然こちらを向かないリラ。
不審に思った僕は、立ち上がって回り込むと、リラの顔を覗き込んだ。
「!?」
真っ赤な顔をして固まるリラがそこにはいた。
「え、なに?どうしたの?」
驚く僕に、リラは両手で顔を隠す。
「なんでもないです……」
「でも真っ赤だよ?熱でもあるんじゃないの?」
「大丈夫です。なんでもないんです……!」
そんなやり取りをしていると、ロイとアイナもやって来た。
「どうしたの?購買は??」
「リラ、またおかしくなったか?」
そんな軽口を叩いていたロイも、さすがにリラの顔を見て驚いたようだった。
「え。なに!どうした?」
あわあわする僕らに、リラを見たアイナが言った。
「……リラちゃん。委員長と何かあった?」
その言葉に、リラがびくっと反応する。
「え、なに?さっき怒られた?」
「提出物忘れてた?」
僕とロイの言葉に、リラはぶんぶん首を振る。
アイナが大きくため息をついた。
「もー男子はなんでそうなるの!違うに決まってるでしょ!これは青春!!」
「は?青春?」
「青春て学生が謳歌するべきものっていうあの?」
保健係の眼鏡先輩の言葉を思い出す僕。
「……アイナちゃん、どうしましょう。私、告白されました……!」
顔を真っ赤にするリラ。
目を潤ませて、恥ずかしがる彼女に僕らは言葉を失った。
こんな顔をする彼女を今まで見たことがない。
「きゃー!やっぱり!」
テンションの上がるアイナと、目を丸くする僕とロイ。
「告白って……リラに?」
「委員長マジか!」
困ったような顔で照れているリラに、僕は何と言っていいのかわからなかった。
ただ、急にドクドクと鼓動が早まる。
「おーい!学食行かないの~?」
廊下からカイルののん気な声が聞こえてきた。




