41.ニセ王子騒動2
みんなが待つテーブルに近づくと、アイナちゃんが心配そうに立ち上がった。
「リラちゃん大丈夫だった?」
「最悪ですよ、なんなんですかあの人!」
ぷりぷり怒る私を、トーマ様が気づかわしげな顔で見る。
「リラ、大丈夫?なにもされてない?」
「大丈夫です!カイル君が助けてくれたんで!」
その言葉に頷いたトーマ様は、真剣な表情のままカイル君を見た。
「そう。お疲れ様、カイル。どうだった?」
「ただの悪ふざけみたいですね。裏もなさそうでしたし。名前が似てるというだけで、なりすましたのかと」
淡々と伝えるカイル君に、ロイ君が言った。
「お前、よく耐えたな。殴りかかる勢いで行ったから、どうなるかと思ったけど」
「そりゃあすっごい腹立ったけどさ、リラちゃんもいるし、殿下の指示を破るわけにはいかないだろ。手を出すなって言われてたんだから。でも直接会ったら、もっと嫌な奴だった!!」
「馴れ馴れしいし、嫌な感じでしたよね!!カイル君、ボッコボコにしちゃえばよかったのに!」
私とカイル君で偽物二人の悪口を言っていると、アイナちゃんが「まぁまぁ落ち着いて」となだめながら、クッキーをくれる。
「あの偽物、トーマス・ロズウェルとか言ってましたよ!本名ですかね」
怒りのおさまらない私が、クッキーをもごもご食べながら言うと、ロイ君が考え込みながら言った。
「学校でそう言ってるなら本名なんだろうな。たまたま似てる名前で、誰かに『王子じゃないか?』って言われて、その気になったのかも」
「浅はか~!イケメンでも性格と頭が悪いのは許されないね」
アイナちゃんがズバッと言うので、私達は思わず彼女を見た。
私達の視線を受け止めつつ、アイナちゃんはにこりと笑って首をかしげる。
「ぶははっ!いいね!ほんとその通り!リラちゃんといい、アイナちゃんといい、はっきり言ってくれてスッキリする」
カイル君がやっと大笑いしてくれて、私もなんとなくほっとする。
「……表に出てこなかったの、まずかったかな」
トーマ様はぽつりとそう言った。
「僕の名前が知られていないから、こんなことが起きたんだもんね」
「トーマ様のせいじゃないですよ」
「そうそう!悪いのは、なりすました偽物のほうだから」
私とロイ君がそう言うと、トーマ様は小さく笑いつつも、なにかを考え込むのだった。
それから、三日間、偽物王子の噂があちこちで聞かれるようになった。
どれもあまりいい噂ではない。
王子という身分を盾に、やりたい放題しているようだった。
誰もが「本物かわからないけど、本物だったらやばいから黙ってよう」みたいな雰囲気になっている。
そして、残念なことに「ちょっとイケメン」というところに引っかかってしまう女の子もいるようだった。
トーマ様はその噂を聞くたびにため息をつき、カイル君と私はぶちぎれていた。
その時、私は一人で購買に来ていた。
おなかが空いたので、チョコチップメロンパンを買って教室に戻るところだった。
すると後ろから声をかけられた。
「お、君こないだの子じゃん」
振り向くと、偽王子と護衛もどきがいた。
ざざっと近くの生徒が道をあける。
彼が王子だと信じているからなのか、あまり関わりたくないからなのか、どちらなのかは、雰囲気でなんとなくわかる。
「げ」
思わず出た声に、偽王子が笑う。
「君の名前調べたよ。リラちゃんていうんだろ?」
うわ、気持ち悪い。
名前を知られるなんて最悪ですね!
「リラちゃん、パン持ってどこ行くの?」
「教室に戻ります。失礼します」
「せっかくだから、中庭でも行こう。天気いいしさ」
「授業があります」
「いいじゃん、ちょっとサボったって平気だよ」
そう言いながら、偽王子は信じられないことに、近くにいた生徒の買ったばかりのパンを「これ、もらうね」とくすね取った。
相手は顔をしかめつつも、何も言えずにその場から逃げ出す。
……やってることが小さいし、もはや泥棒だ。
「よくないです!仮にも王子だというなら真面目にやったほうがいいんじゃないですか?」
「何言ってんの。王子なんだから、やりたい放題に決まってるじゃない」
「王子だからやりたい放題……?ありえませんね」
この人、ほんとにどうしようもない。
トーマ様が王子として、どれだけ我慢して生活してきたか、どれだけ普通の生活を楽しもうとしているか、全然わかってない。
「これ以上トーマ様を侮辱するのはやめてください!」
「はぁ?トーマ様って誰?」
「本物の王子に決まってるじゃないですか!!」
「何言ってんの。リラちゃん、本物の王子は俺だよ」
「そんな嘘、誰が信じるんですか!?」
「みんな信じてるだろ?周りを見てごらんよ。誰も俺に何も言えないだろ?」
偽王子はそう言って周りに視線を向けた。
生徒たちはみんな黙り込む。
「あなたを信じてるんじゃなくて、みんな自信がないから、あなたを偽物だって言えないだけです!」
私がそう言うと、生徒たちはさらにうつむいてしまった。
「リラちゃん。君はどうも俺の立場をわかってないよね。でもすっごく可愛いから、許してあげるよ。俺と付き合ってくれるならね」
「はぁ!?何言ってるんですか!意味わかんない!私はオーウェン様としか付き合いませんよ!」
「オーウェン様?今度は誰なの?王子よりもそっちのがいいわけ?」
ニヤニヤ笑う偽王子に、はらわたが煮えくり返るようだった。
思いっきり殴ってやろうと手を上げた時だった。
「リラ。だめだよ」
落ち着いた声とともに、上げた手がすっとつかまれる。
振り返ると、トーマ様が青い瞳でじっと私を見ていた。




