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40.ニセ王子騒動1

 いつものように、学食で食後のひと時を過ごしていると、こんな話が聞こえてきた。



「ねぇ聞いた?リアディスの王子って、ほんとに今年の一年にいたらしいよ」


 この一言に、僕は固まった。

 同じように、その場にいたロイやカイルも固まって僕を見る。


「え、そうなの?なんかデマっぽかったじゃん。全然偉そうな人いなかったし」

「でもね、なんかE組にいるらしいよ」

「E組?A組のオーラあるイケメンじゃなくて??あの人王子っぽいよねー」

「私もそう思うんだけど、本物はE組だって。ちょっとイケメンの人」

「あの茶髪の人?」

「そうそう!その人が王子なんだって。本人が認めたらしいよ」

「へー。そうなんだぁ!すごいね!本物の王子がいるなんて!」


 その会話を、思いきり盗み聞きしていた僕らは、顔を見合わせた。


「……E組にいるんだってさ。ちょっとイケメンなリアディスの王子」


 僕を見て笑いながら言うロイの言葉に、アイナも続ける。


「それ、私も噂で昨日聞いたよ。どんな人か知らないけど、ちょっと偉そうなんだって。でもイケメンだから許されるって言ってた」


「だからイケメンて嫌なんだよなー」


 口を尖らせるロイに、アイナが「仕方ないよね、イケメンは正義だから」と笑う。


「なんのために、王子なんかになりすましてるんだろうねぇ」


 全然面白くないのになぁ。

 リンゴジュースを飲みながら考えていると、隣にいたカイルがバンッと机を叩いた。


「なりすましなんてあり得ない!俺、文句言ってきます!!」


 立ち上がりかけたカイルの腕を、グイッと引っ張って座らせる。


「ちょ、殿下!なんですか!」


「落ち着いて」


「どうしてですか?王子として偉そうに振る舞ってるなんて、名誉棄損罪の適用です!」


「本当にそんなことしてるかわからないだろ。どんな人かもわからないし」


「……殿下はちょっとのん気じゃないですか?」


「疑わしきは罰せず、だよ」


 僕がそう言うと、ロイも言った。


「王子になりすますなんて普通はやんないだろうし、すぐばれそうなもんだもんな。何も考えてない残念な奴なんじゃねぇの?」


「たぶんね」


「はぁ、わかりましたよ。とりあえず調べる所からですね」


 僕が頷くと、カイルは口を尖らせつつも椅子に座りなおす。

 その時、アイナが食堂の入り口を見て手を上げた。


「あ、リラちゃん来た!」


 係の仕事をしていたリラが、食堂に入ってくるのが見えた。

 彼女はこちらに気づくと、手を振って歩いてくる。

 その時だった。


「ほら、あれあれ!E組の王子!!」


 さっきの噂話の生徒たちがざわついた。

 リラのすぐ後ろから、男子生徒が二人並んで入ってくるところだった。

 僕らも、じっと彼らを見つめる。


「へー、あれがイケメン王子?」

「確かになんか偉そうだねぇ」

「殿下のが全然イケてます!」

「……僕、ああいう感じだと思われてるんだ?」


 それぞれが「E組の王子」を観察していた時だった。

 その王子が、リラに声をかけたらしく、彼女がそちらを振り向いた。


「わー……嫌な予感」


「そうだね」


 リラの後姿を見て、思わずため息をついた。



 *******



「ねぇ、君」


 後ろから声をかけられたけれど、全然自分だと思っていなかった私は、まっすぐアイナちゃん達のもとへと向かっていた。


「ねぇ、そこの髪の長い君だよ」


 そんな声とともに、トントンと肩を叩かれる。

 振り返ると、全然知らない男子生徒二人組が立っていた。


「はい?」


「おー、ビンゴ。君A組の子でしょ?」


「はい、そうですけど」


 なんか用ですかね?


「近くで見てもほんと可愛いね。一緒にご飯食べない?」


「はい?」


「俺さー、E組のトーマス・ロズウェルって言うんだけど」


「はぁ……」


 なんかトーマ様と名前が似てるなぁ。

 ぼんやりとそんなことを思いながら、トーマス・ロズウェルを見ていると、彼はニヤリと笑った。


「実は俺、リアディスの王子なんだよね」


「……は?」


 目が点になった。ほんとになったと思う。


「あ、びっくりさせちゃってごめんね、突然。でも、君みたいな子とぜひ一緒にお話ししたくてさ。せっかく城を出たからね」


 茶髪でサラサラヘアーのトーマス・ロズウェルは、にこりと微笑んだ。

 なんとなくぞっとして、一歩距離を取る。


「はぁ、そうですか……」


 うーん、リアディスの王子ってトーマ様一人のはず。

 あれ? トーマ様って兄弟いたっけ?

 確か年の離れたお姉さんはいたはずだけど……。


 考え込む私を覗き込むようにして、トーマス・ロズウェルは言った。


「全然遠慮なんてしなくていいんだよ。せっかくだし仲良くしよう。君の名前教えてもらっても……」


「あのー……ほんとにリアディスの王子様ですか?どこか違う国じゃなくて??」


「え、疑ってるの?俺、ほんとにリアディスのトーマス・ロズウェルだよ」


 ……どうしよう、変な人だ。

 この人、妄想癖でもあるのかしら??

 保健室につれてくべき?


 それともトーマ様に会わせるべき??


 悩んでいたら、トーマス・ロズウェルは私の腕をつかんできた。


「ね、とりあえず一緒に行こうよ」


「ちょっと離してください」


 やだ、馴れ馴れしいこの人。

 初対面の人にペタペタ触るなんてありえません!


 彼の手を振り払おうとするけれど、全然離してもらえない。


 その時だった。


「どうしたの?」


 カイル君がにこにこ笑って、私のそばにやって来た。


「あぁ、カイル君。この人が離してくれなくて」


 私がトーマス・ロズウェルを指さすと、カイル君は「ふぅん?」とそちらを見た。


「なんか用ですか?彼女、俺達の友達なんですけど」


 にこりと笑ってそういうカイル君だけど、笑顔が怖い。

 いつもと全然違う。

 トーマス・ロズウェルは、ぱっと私の腕を離して言った。


「あぁ、約束してたんだね。じゃあまた今度一緒に飯食おうよ」


「彼女、嫌がってません?」


「遠慮してるだけだろ。俺が王子だから」


「……誰が王子ですって?」


 ……わぁ、笑顔が怖い……!

 怒ってるわね、カイル君。


 私が何も言えずに彼らを見ていると、トーマス・ロズウェルが言った。


「俺だよ。リアディスの王子。トーマス・ロズウェルだ」


「そうですか。まさか王子から名乗っていただけるとは……」


「! ま、まぁ今は学生としてここにいるからな!」


 焦った様子の偽王子はそう言って、腕組みをする。


「どうして今になって身分を明かしたんですか?」


 カイル君の言葉に、偽王子は言った。


「秘密にしてたんだけどさ、名前からバレちゃったんだよね。あまりに言われるから隠すのをやめたんだ」


「名前?失礼ですが、リアディスの王子ってそんな名前でしたっけ?」


「お前が知らないだけだろ。俺、あんまり表に出てこなかったからさ」


「……なるほど」


 カイル君が静かに頷いた。


「お前、さっきから俺のこと疑ってるみたいだけど、あんまり無礼な態度をとるなよ。俺の護衛が黙ってないからな」


 偽王子はそう言うと、すぐ隣の男子生徒をちらりと見た。

 大柄な男子生徒が、はっとしたように姿勢を正す。

 そんな彼をちらりと見て、カイル君が言った。


「王子の護衛ってことは王立騎士団の人?」


「王立? まぁそうだな、そんな感じ。だよな?」


「はい。そうですよ」


 偽王子と護衛はお互い頷きあう。


「……カイル君、知り合いですか?」


 確かに大きい人だけど、大きいだけって感じだわ。

 カイル君とは全然違いますけど……。


「うーん……」


 じぃっと護衛だという相手を見つめるカイル君。

 彼に見つめられ、視線をさりげなく逸らす護衛(仮)。


「……いや、初対面だな。はじめまして。カイル・クラウザーです。俺も王立騎士団員なんですよね」


「お、お前も騎士団員?……へぇ。そうか」


 護衛だという彼は気まずそうに言う。

 カイル君は、そんな彼の様子を見つつも笑顔で言った。


「たぶん所属してる隊が違うんでしょうね」


「そ、そうだな!」


 ……なんかちょろそうだわね、こっちの護衛もどきは。

 絶対嘘ってわかるもん。

 それに引き換え、こっちの偽王子は相変わらず嫌な感じ!


「お前、俺に会うことすら許されない下っ端騎士だもんな。まぁ多少の無礼は許してやるよ」


 偽王子はそう言って笑う。


 はぁ!?

 何言ってるんでしょうね、この人!

 カイル君が、下っ端なわけないじゃないですか!!

 トーマ様の護衛騎士なんですからね!?


 っていうか、あなたのことなんて誰も知らないんですけど!

 頭に来た私が、一言文句を言おうとした時だった。


 カイル君が、ぽんと私の肩に手を乗せる。

 思わず彼を見ると、にこやかな表情で偽王子を見ていた。


「いいよ。行こう」


「でも、カイル君!」


 その時、肩に置かれたカイル君の手が、めちゃくちゃ重いことに気づいた。


 ……耐えてる。


 私なんかよりも、よっぽど文句を言いたいであろうカイル君が我慢するなら、私も我慢しなければいけない。


 私は唇を噛んで「……わかりました」と頷いた。


 カイル君の大きな手が、悔しさをなだめるように、私の肩をぽんぽんと軽くたたく。

 そしてまっすぐに偽王子を見据えた。


「では下っ端騎士は、これで失礼いたします」と美しく騎士の礼をして見せる。


 偽王子は一瞬戸惑ったような表情をしたけれど、すぐに満足そうに頷いた。

 そして私を見てニヤリと笑う。


「君、今度はその下っ端がいない時にまた会おうね」


 ブチンと頭の中でなにかがキレた。

 私はトーマス・ロズウェルをにらみつける。


「王子様のくせに、誘い方が全然スマートじゃありませんね!」


「なっ……!」


 顔を真っ赤にする偽王子に、ふんっと鼻を鳴らして背を向けると、カイル君の腕を引っ張って歩き出す。


 カイル君が「リラちゃんかっこよ!」と楽しそうに笑う声が聞こえた。


 だってトーマ様だったら、絶対あんな言い方しないと思いますもん! 


 私はカイル君の腕をぐいぐい引っ張りながら、本物の王子の元へと歩くのだった。

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