37.テスト勉強には眠気覚まし薬です
体育祭が終わり、通常の生活が戻ってきたかと思ったけれど、そんなことはなかった。
もうすぐ中間テストがやってくるのだ。
学生とは忙しいものですね!
「次のテストは赤点ギリギリから脱出します!せめて平均点を取れるように……!」
放課後、私達のたまり場である学食で、テスト範囲をメモしながら言う私に、ロイ君が頬杖をつきながら言った。
「それならお前、ちゃんと授業中起きてろよな。トーマに後ろからつつかれてるの、よく見かけるぞ」
「え、そんなに起こされてないと思いますけど……」
「気づいてないだけじゃねぇか」
私たちのやり取りに、トーマ様が笑って言った。
「リラは全然起きてくれないから、結構困るんだよね」
「ペンでつついて起きないなら、一発叩いてやるしかないんじゃないか?」
すると、トーマ様は遠い目をする。
「前に肩をトントン叩いてみたら、寝ぼけたリラが突然立ち上がっちゃったから、怖くてもうできない」
その言葉に、ロイ君とアイナちゃんが笑い出した。
「あれなー!!『私は子どもじゃありません!』って急に大声出すから、何かと思った」
「あの時、なんだか私が恥ずかしかったよ」
「そんなことありましたね。みんなに笑われて恥ずかしかったです!」
「うん、恥をかかせちゃってごめんね」
すっかり忘れていた私に、トーマ様がわざわざ謝ってくれる。
すると、それを聞いていたアイナちゃんが言った。
「トーマ君のせいじゃないから、謝らなくてもいいと思うよ?」
「アイナの言うとおりだ。トーマは結構リラを甘やかしてる!」
「え、そうですか?」
「そんなことないと思うけど……」
顔を見合わせる私とトーマ様に、ロイ君は首を振る。
そして私達を指さした。
「お前ら二人、ズレ方は違うけど、なんか似たもの同士なんだよ」
「あ、わかるー。私もなんとなくそんな気がしてた!」
ロイ君の言葉に、お菓子をつまみながらアイナちゃんがうんうん頷いている。
トーマ様はリンゴジュースのパックを手に持ったまま、私を見た。
「えー、そうかなぁ?」
「似てないですよね?トーマ様みたいに私はのんびりしてません!」
「僕だって、リラみたいに暴走するタイプじゃないよ」
『のんびり』と評した私に不満なのか、トーマ様は珍しく素早い反論をした。
「うん、でもなんか似てる」
アイナちゃんにきっぱりと言われてしまっては、反論できない。
私達の中で、アイナちゃんの言葉は絶対なのだ。
私とトーマ様は黙り込んだ。
別にトーマ様に似てたっていいんだけど、どちらかと言えばオーウェン様と似てると言われた方がテンションあがりますよねぇ。
「は!そうだった!こんな話をしてる場合じゃありません!オーウェン様のためにもテスト勉強がんばらないと!!」
テスト範囲の確認をし始める私に、トーマ様が言った。
「なにか約束したの?」
「してませんよ?でも、ちゃんとした成績をおさめて、褒めてもらいたいんです!!」
みんなが微妙な表情を見せる中、トーマ様だけがうっすら笑みを浮かべる。
「……そう。がんばって」
「がんばります!!! オーウェン様に褒めてもらうために!」
ぐっとこぶしを握る私。
そんな私を眺めながら、アイナちゃんが言った。
「リラちゃんのそのテンション、久しぶりに見た気がするね」
「そういえばそうだな。オーウェン様の話も久しぶりに聞いた気が……」
あごに手を当てながら頷くロイ君に、私も頷いた。
「そうなんですよねぇ。なんか最近忙しくて、オーウェン様のことを考える時間がなかなか取れなくて」
「え!?」
「リラが!?」
固まる皆さん。
「まぁ体育祭も終わりましたし、テストが終わればゆっくり恋もできます。オーウェン様のために何とか乗り越えます!」
「……恋ってそういうものなんだっけ?」
「わかんね。リラの発想。同じ人を十二年も好きでいると、違うんじゃないか?」
アイナちゃんとロイ君が首をかしげていた。
翌日、自分の席に着くと私は「よし!」と気合を入れた。
「やっぱりまずは、教科書とノートを見直しましょう」
ノートを広げた私は愕然とした。
「……真っ白……!」
手紙を書かなくなったというのに、このノート。
授業中に、私は一体何をしていたんだろう?
しばらく考えた結果、私はそっと後ろを振り向いた。
本を読んでいたトーマ様が、私に気づいて顔を上げる。
「どうしたの?」
「あのぅ……トーマ様のノート、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
「ノート?」
「はい、歴史のノートです。私ちゃんと書いてなくて……」
申し訳ないと思いつつも頼んでみる。
「あぁ、寝てたもんね」
笑いながらそう言って、ノートを貸してくれるトーマ様。
「ありがとうございます!!」
私は受け取ったノートをそっと開いてみる。
そこには綺麗な文字で、わーっと色々なことが書いてあった。
「トーマ様、すっごく綺麗な字ですね」
「ありがとう。文字は結構厳しく躾けられたから」
「ロイヤル感がすごいです!」
「うん、そんな大きな声で言わなくてもいいよ」
苦笑いするトーマ様。
「テストに出そうなのって、この赤文字のところですか?」
「そうだね、先生が赤で書いてた。テストに出すって言ってたよ」
「!!! そんな親切な先生だったんですね、歴史の先生は」
「うん。授業を聞いていれば、点数取れると思う」
「わかりました!次は起きてます!!!」
なかなか起きないと思われるのも嫌だし、がんばらないと!
そう決意する私を見て、トーマ様が首を傾げた。
「眠気覚ましの飲み物でも飲んでみたら?」
「……! 天才ですね、トーマ様」
彼の何気ない一言に、私はあとで眠気覚まし薬を作ろうと心に誓う。
眠らずに勉強すれば、点数が取れるんですもんね!
オーウェン様に褒めてもらいたい!
そのためにも、まずは眠気覚まし薬作りからだわ!
「よし!」
私は借りたノートをとりあえず横に置いて、真っ白な自分のノートに、眠気覚まし薬のレシピをばーっと書き始めるのだった。
「僕のノート、必要?」
後ろから、トーマ様のつぶやく声が聞こえた気がした。




