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34.体育祭がやってくる

 新学期が始まって2週間。

 みんなと学食でご飯を食べていると、ふいにカイル君が言った。


「もうすぐ体育祭だってね!」


 その言葉に、私は机に突っ伏した。


「はぁ、私運動苦手なんです。心底逃げたい……」


「へー。リラちゃんそういう発想なんだ?てっきり『足の速くなる薬を作ります!』とか言うのかと思った」


 カイル君のセリフに、その場の全員が強く頷いている。


「そんなこと言いませんよ。やっぱりドーピングはよくないと思うので」


「え、そこはちゃんとしてるんだ!?」


 驚くロイ君。

 私を何だと思ってるんでしょうか。


「私はルールを守るタイプです」


 きっぱりそう言うと、アイナちゃんが「えらいよ、リラちゃん」と褒めてくれる。


「カイル君はきっと運動神経抜群なんでしょうね。体育祭で輝くタイプ」


「もしかして俺、体育祭以外はダメって思われてる?」


「そこまでは言ってませんよ」


 そんなことを話していたら、トーマ様が言った。


「僕、パン食い競争というものに出てみたいな」


 彼の言葉に、私達は固まった。


「パン食い競争ってあれ?ぶら下がってるパンをくわえて走るやつ?」


「うん。それ」


 にっこりと笑って頷くトーマ様。

 私達はじぃっと彼を見つめる。


「……トーマがパン食い競争……?」


「うーん……どうなんでしょう?トーマ様のイメージじゃないというか……」


「そうだね、なんかちょっと違うね」


 私とアイナちゃんで首をひねっていると、トーマ様は言った。


「でも、体育祭と言えばパン食い競争なんでしょ?カイルの漫画ではそうなってた」


「え!俺の漫画!?前に貸したやつですか!?」


 びくりとするカイル君に、トーマ様は穏やかに頷く。

 カイル君から借りた漫画と言えば……


「トーマ様。前も、『パンをくわえて登校するっていうアレ』を実践しようと考えてましたよね?」


「うん。でも、それは普通しないってリラに教えてもらったからやめたけど……パン食い競争ならありだよね?」


「ありはありだけど……」


 にこやかなトーマ様に、アイナちゃんが困っている。

 ロイ君はロイ君で、カイル君をにらみつけていた。


「……おい、お前王子になに読ませてるんだよ」


「えー、だって『学園ってこういうところですよ』っていうのを軽く知るのにいいかと思って……」


「トーマは真面目にズレてるから、ぜんぶ鵜呑みするに決まってるだろ!」


 戸惑う私達をよそに、トーマ様はパン食い競争に思いをはせていた。


「なんか、丸いパンがぶら下がってたよね?あれってなんだろう?ロールパンなのかなぁ?」


「美味しいといいなぁ」「スタートラインというのに立つのも初めてだな!」とトーマ様がワクワクし始めている。

 ……これは結構本気のやつだ。


 トーマ様以外の私たちは、顔を寄せ合った。


「やばいぞ、これ絶対立候補するやつだ」


「トーマ様がしたいなら、いいんじゃないですか?」


 パン食い競争位させてあげたらいいのにと思ったけれど、アイナちゃんが顔をしかめる。


「でも、未来の国王だよ?パンに飛びついて、さらにくわえて走るなんて許される?黒歴史にならない??」


 ひそひそ話す私達。

 するとカイル君が「あ!」と言って、制服の胸ポケットを探り始めた。

 なにかと思って見ていると、小さなメモ帳のようなものを取り出す。


 ばーっとめくりながら、なにかをチェックしていたが、やがてカイル君が言った。


「殿下!パン食い競争は、城NGです……!」


「え?」


「……城NG?」


 なんですかそれ。


「『品位を損なう可能性のあることはしてはいけません』っていうのがここに書いてあるんです」


「それはなに?」


 怪訝な顔をするトーマ様に、カイル君が『マル秘』と書いてあるメモ帳を見せた。


「これ殿下の執事さんから預かったんですよ! ほかにも色々書いてあるんで、ちょっと城外の人には見せられません」


 興味津々の私達から、隠すようにメモを胸に当てるカイル君。

 ダメと言われると気になりますけど……。


「当事者の僕は見てもいいんだよね? 見せて」


 ずずいっと詰め寄るトーマ様にぎょっとしつつも、おとなしくするカイル君。


「それはそうなんですけど……一番見せたくない人だなぁ。破り捨てないでくださいね?」


「そんなことしないよ」


 トーマ様はカイル君からメモ帳を受け取る。


「なになに?えーと……。え、こんなことするわけないじゃない。なにこれ。これがダメなら、学生生活なんてできないでしょ」


 みるみる表情が曇っていくトーマ様に、カイル君が困った顔をする。


「トーマ様、俺に怒らないでくださいよ。全部執事さんからのメモですから」


「……彼は僕のこと、いつまでも子ども扱いするんだよね」


 珍しく不満そうなトーマ様。

 学校に来ても、王子としての城NGなるものがあるなんて、それは不満にもなるわね。


「なんか厳しそうですね、王子生活って。じゃあトーマ様、裏方やりましょうよ!」


「裏方?」


「いつも表舞台に立ってると、裏の苦労がわからないんじゃないですか?こういう機会でもないと、裏方なんてこの先できませんよ!」


「なるほど」


 適当に言った言葉が、トーマ様に刺さったらしい。


「それもありだね。やってみようかな」


「私は保健係でもします。トーマ様も一緒にやりましょう!保健係はわりとラクって聞きました!」


 そんなわけで、私とトーマ様は「保健係」となったのだった。

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