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33.【トーマ視点】チョコチップメロンパン

 席替えというものは、なかなか良いシステムだ。

 場所が変われば気分も変わるし、友人関係もまた広がっていく。


 新しい席からクラスを見回してみると、なんとなくみんなが、そわそわしているような雰囲気を感じた。

 ロイやアイナも、それぞれ近くの席の生徒と話をしている。


 そして、リラはというと……。


「トーマ様。このプリントって明日提出ですよね?」


「うん、そうだよ」


 くるりと振り返ってこちらを見るリラに頷くと、彼女は「ありがとうございます」と言って前を向いた。

 かと思うと、またくるりと振り返る。


「トーマ様。次ってまだ3時間目ですよね?」


「うん、そうだよ」


「……はぁ。ですよね」


 そう言ってまた前を向く。

 ……なんなんだ。


 不思議に思っていると、またもやリラがこちらを振り向いた。


「トーマ様」


「さっきからどうしたの?」


「おなかすきません?」


「え」


「私、授業があと2時間もあるなんて、耐えられそうもないんですけど……」


 困ったように言うリラに、思わず笑ってしまった。


「そうだねぇ。お茶の時間があればいいのにね」


「今から購買に行ってもいいと思いますか?」


「授業始まっちゃうから、やめといた方がいいね」


「……はぁ、そうですよね。そしたら次の休み時間に行きます」


「そうだね」


「じゃあ、そうしましょう!」


 そう言って、リラは前を向いた。


 ……『じゃあ、そうしましょう』?


 これってどういう意味?

 僕も行くことになってるんだろうか?


 疑問に思い、聞いてみようとしたら、先生が入ってきてしまった。


 まぁいいか。

 行くなら行くし、行かないなら行かない。

 それだけの話だ。


 そう思いながら、リラの後姿をなんとなく見ていた。





 そして、三時間目が終わったその瞬間だった。

 ガタンと椅子を鳴らして、リラは勢いよく立ち上がる。

 そしてバッと僕を振り返った。


「よし!トーマ様行きましょう!!」


「あ、やっぱり僕も行くんだね?」


 リラを見上げると、彼女は不思議そうな顔をする。


「え、行きませんか?おなかすいてますよね?」


「うん」


「よし!急ぎましょう!!普段のんびりしてるトーマ様にもダッシュしていただきますからね!」


 勢いに押されて、なんとなく立ち上がると、彼女は僕の腕をがしりと掴み、すごい力で引っ張る。


「わぁ、怪力!」


「時間勝負なんです!力も入ります!!」


 教室中の視線などまるで気にする様子もなく、僕を引っ張って教室を出ようとするリラ。


「お前ら、駆け落ち?」


 楽しそうに僕らを見ているロイの言葉に、他の生徒たちも盛り上がる。


「マジか!」

「えー、ファルケさん!トーマ君とそういう仲だなんて聞いてないよ!」

「いや待て。どちらかといえば誘拐っぽいな!」


 と笑っているのが見えた。

 どれも違うけど、たぶんまぁ誘拐が近そうだなと思う。



 ********



 購買につくと、昼前だというのに生徒で賑わっていた。


「お昼前なのに、こんなに人がいるんだね」


「学生はおなかがすきますからね。トーマ様、パッと決めないと、食べる時間ないですよ!」


 いつの間にか、チョコチップメロンパンとやらを持っているリラに驚きつつ、すぐ手の届くところにあったドーナツをとりあえず取る。


「おぉ!いい選択ですね!!」


 そうなのか?

 首をかしげる僕をまるで気にする様子もなく、リラは支払いを始めているのだった。



 すぐ近くのベンチに座って、ぱくぱくとチョコチップメロンパンを食べるリラ。


「あーーー。染みわたる!血糖値が爆上がりしてるのがわかりますね!!」


「独特の表現だね」


「え、わかりません?わーっと血がたぎってるような、エネルギー入ってます!って感じ」


「言われてみればわかるような……。そういえば、どうしてドーナツがいい選択だって言ったの?」


 何気なくそう聞くと、リラは当然のように言った。


「だって、食べやすいじゃないですか!トーマ様はそんなに食べるの早い方じゃないでしょ?休み時間に食べきれそうなサイズだし、それで選んだのかなって思って」


「なるほど」


 確かに食べるのは、そんなに早い方ではない。

 そう思っているとリラが、パンを頬張りながら言った。


「あぁ、トーマ様って単純にドーナツ好きなんですか?」


「そうかもしれない。食べやすいしね」


 考えたことなかったけど、そうなのかもしれない。

 リラといることで、新しい発見をした気がする。


「リラは、チョコチップメロンパンが好きなの?」


「大好きです!チョコチップが罪だなぁと思いながらいつも食べてます」


「ふぅん」


「ちょっと食べてみます?」


 そう言うが早いか、リラは一口分くらいをちぎって僕に差し出した。


「ありがとう」


 驚きつつも、それを受け取ってみる。

 こういうのは、学生がよくやるんだろうなぁ。

 この間のBフェスを思い出しつつ、食べてみた。


「甘い」


「そうです。甘さが罪です!いい仕事してますよ、チョコチップは」


「お茶が欲しくなるな」


「残念ながらそろそろ時間です。トーマ様、学生は水で我慢します!!」


 冷水器の水を紙コップで飲むと、僕らは急いで教室へ戻るのだった。


「トーマ様!次の授業なんでしたっけ?」


「えぇと……なんだろう?」


「歴史だったら、私たぶん間違いなく寝ます!おなかも満たされたので」


「後ろから起こしてあげようか」


「ぜひお願いします!」


 そんなことを言いながら、速足で階段を上がっていく。

 これだけのことなのに、なんだかすごく特別なことをしている気がした。

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