30.彼らの隣にいる人と私
王子パワーで、「入城の顔パス」を夏休みの間だけ、特別許可してもらえた私。
トーマ様には、食券十枚で手を打ってもらっている。
「やっぱり持つべきものはトーマ様よね!!」
私はその日も、ルンルンで裏口からお城へと入った。
今日はシンプルなエーテルを持ってきている。
オーウェン様に渡すのだ。
驚くべきことに、この夏ほとんど会えていない。
せっかくの夏休みだというのに、こんなことじゃ素敵な思い出なんてできやしない。
今日こそ会いたいなぁと思って歩いていると、遠くの方で見覚えのある姿が目に入った。
「あ、トーマ様だ」
そして隣には同い年くらいの女の子。
おぉ、どこぞのお姫様ですね?
話すの苦手って言ってたけど、なんとなく和やかな雰囲気に見えますね!
今度おしゃべり上手になる薬でも作ってあげようかと思ったけれど、必要なさそうだわ。
そんなことを思って見ていたら、ふっとトーマ様がこちらに気づいた。
あ、と思って見ていたら、トーマ様はにこりと微笑んで手を上げた。
それに気づいたらしい隣のお姫様も私を見た。
あら、いいんですよ。
お姫様との時間を大切にしないと!
私だって知ってるんです。
トーマ様が「未来のお妃候補」を決めないといけないってことくらい。
だから、年齢の近い人と二人きりにさせられてるんですよね。
もちろんトーマ様だって、そんなことはわかってると思うけど。
「でも、どうして年齢が近くないといけないのかなぁ?」
トーマ様だって昔、年上にプロポーズしたくらいだし、年齢なんて気にしないタイプかもしれないじゃないですか。
私だったらオーウェン様一択だし、そんな余計なお世話なんてされたくないけど。
そう思いながらぺこりと頭を下げると、私は意気揚々と薬局へ向かうのだった。
*******
「え?またいないの?」
呆然とする私に、父は書類を書きながら言った。
「たぶんしばらく来ませんよ。今忙しいみたいですし、リラが来るってわかってるんですからね」
「そんなぁ!せっかくオーウェン様好みのエーテルを作ってきたのに!!」
声を上げると、父は顔を上げてこちらを見る。
「リラ。夏休みの宿題とか、そういうのはないんですか?」
「……現実を言うの、やめてくれませんかお父さん」
「あと十日もすれば新学期ですよ。そろそろなんとかしなさい」
「……オーウェン様に会えれば、宿題くらいぱーっと出来るけど……」
私の言葉に、父はため息をついて仕事の続きを始めるのだった。
仕方ない。
オーウェン様がいるかもしれない場所を、ちょっと見て回ってから帰ろう。
私は薬局を出て、ふらふらと歩き始める。
*******
「オーウェン様にばったり会わないかなぁ」
そんな風に思っていたら、ばったり出会ったのは、またもやトーマ様だった。
「あ、リラ」
「トーマ様!なぜかよく会いますね!」
「なぜかっていうか、ここ僕の家だから」
「そっか。そうですね。ところで、さっきのお姫様はもう帰られたんですか?」
「うん、帰った」
そう言ってトーマ様は、じっとこちらを見る。
遠慮のない視線に、私は首を傾げた。
「なんですか?」
「なんか彼女、リラのことをすごいじっと見てたから」
「え?」
「学園の友達って紹介したんだけど、すごい疑われたんだよね」
「何を疑うんでしょう? まさか私、学園の生徒だと思われてないってことですか? それとも怪しい人物に思われたとか??」
すると、トーマ様は間髪入れずに「怪しい人物っぽくはあるけど……」と言う。
「どういう関係ですか?みたいにすごい言われたんだよね。だから友達だって言ってるのに」
首をかしげるトーマ様。
『どういう関係ですか?』と聞かれた……ほうほう、なるほど。
トーマ様、乙女心をわかっていませんね!
「……トーマ様、それはつまり嫉妬ですよ!」
「え?」
きょとんとするトーマ様に、さらに説明をする。
「私が『トーマ様の特別』だと思ったんじゃないですか?あり得ないのに」
「あぁ、そういう意味かぁ。あり得ないよね」
なるほど!というようにトーマ様は頷いてから、楽しそうに笑った。
「ですよね!でもすみません。もしかして、お二人の仲を邪魔しちゃったんじゃないですか? 私から彼女に説明しましょうか? 私はオーウェン様が好きなんですって言えば、安心してくれると思いますけど」
心配してそういうと、トーマ様は「なんでわざわざ?」という顔を隠しもしなかった。
「別にそんなことしなくていいよ。別にどう思われたって関係ないから」
あら、意外と冷たいお返事ですね。
でも彼女とはただのお友達なのであれば、余計なことはしない方がいいですもんね!
「わかりました。それよりもトーマ様、オーウェン様見ませんでした?」
気分を変えてそう尋ねると、トーマ様は私の後ろの方を見つめながら言った。
「あぁ、オーウェンならすぐ後ろにいるけど……」
「え!?」
振り向くと、廊下の奥からオーウェン様が歩いてくるのが見えた。
「うそ!!すごい奇跡ですね!!行ってきます!!では失礼します」
ぺこりと頭を下げると、私はダッシュでオーウェン様の元へ急いだ。
「わぁ、すごい瞬発力」
トーマ様の声が後ろから聞こえた。
廊下を歩いてくるオーウェン様は、書類を見ているようで私に全く気付く様子がなかった。
近くまで行くと、私は声をかける。
「オーウェン様!!!」
「うわっ!お前なんでここにいるんだよ」
驚いたようにそう言って、立ち止まるオーウェン様。
あぁ、麗しい!
お仕事が忙しいと聞いてはいましたが、なんか「できる男感」がすごくいいです!!
「会いたかったですー!!今日はエーテル持ってきたんですよ!ちゃんとシンプルなやつ!オーウェン様好みのエーテルなんで、ぜひ飲んでもらいたくて……」
そこまで言った私の目に、一人の女の人が映る。
オーウェン様の隣には、魔術師団のローブを羽織った、背の高い女の人がいたのだ。
彼女は、私を見ると楽しそうな表情で言った。
「あら、オーウェン団長。こんな可愛らしいファンがいるなんて。団長も隅に置けませんね」
「ほっとけ」
「そんなに照れなくてもいいのに。エーテルが作れるなんて素晴らしいお嬢さんじゃないですか」
「知り合いの娘だ」
オーウェン様は、書類に目を落としながらそう言った。
「お前、そろそろまた学校なんだろ。さっさと帰って勉強でもしてろ。こないだの授業、あれ基本だからな」
オーウェン様はそう言って、さっさと歩きだしてしまった。
「ほんとに、愛想がないわねぇ。ごめんなさいね」
魔術師団の女の人は、私にそう言ってにこりと笑うと、オーウェン様のあとについて行ってしまった。
「……」
ドクドクと心臓がなっているのがわかった。
目が熱い。
手にしていたエーテルをぎゅっと握りしめると、私は唇を噛んだ。
後ろの方で、トーマ様とオーウェン様達の話し声が聞こえる。
どうしようもない気持ちで、その場から逃げるように私は走り出した。




