29.新しい世界を知りました
夏休み中盤。
私はカイル君と、街のカフェでお茶をしていた。
「マジでありえない!なんで俺だけ仲間外れにすんの!?」
「だって、カイル君騎士団で訓練してたんですもん。しかたないですよ」
「でも寂しいじゃん!」
カイル君は、そう言って炭酸飲料をぐーっと飲んだ。
「だからこうして、今日みんなで集まるんじゃないですか」
この間、『お城見学ツアー』が決行されたことを知ったカイル君。
あの日私たちは、彼がいる騎士団を見に行かなかった。
するとカイル君は「一人だけみんなに会えなかった!」と大変悔しがっていたため、今日またみんなで集まることにしたのだ。
トーマ様はなかなか時間が取れず(王子って忙しいらしい)、今日は彼を抜いた四人で遊ぶことになっている。
「殿下がいないのってなんか申し訳なくない?」
「でも、カイル君があいてる日って、今日だけじゃないですか」
「……うん」
「仕方ないですよ。また今度みんなで会えばいいんです!」
私がそう言った時だった。
「お待たせ~」
ロイ君とアイナちゃんがやって来た。
「おー、カイル久しぶり!」
「二人とも久しぶりー!!うわ、俺なんか泣きそう!城の外っていいよな!!」
カイル君のテンションに、ロイ君たちはつられて笑い出す。
「囚人かよ」
「囚人と変わんないって!もう騎士団、地獄過ぎてやばい。早く夏休み終わってほしいもん!」
口を尖らせるカイル君を、アイナちゃんがまじまじと見つめる。
「確かにちょっと痩せたっていうか、引き締まった感じするもんね」
「あーわかる?学園にいた分を取り戻せって、わけわかんないくらいしごかれてるんだよ」
カイル君は、自分の腕を触りながらため息をつく。
しかし、すぐぱっと笑顔になって言った。
「まぁ俺の話はいいや! じゃあ、さっそく見に行く?アイナの兄ちゃん!」
「行きましょう!!」
盛り上がる私とカイル君。
「……ほんとに行くの?」
アイナちゃんだけ、気が進まないようだった。
「行く!俺すっごい興味ある!!」
「私も初めてです」
「俺も。色々掛け声とかあるんだろ?ボディビル大会って」
そう。
私達はこれから「ボディビルの大会」を見に行く。
アイナちゃんのお兄さんが出場するという大会だ。
「……なんかすごく恥ずかしいのは、どうしてなのかしら?」
「アイナが育てた兄ちゃんの魅せ筋、楽しみにしてる!」
「私は育ててないよ?」
頬に手を当てるアイナちゃんに、カイル君が楽しそうに笑うのだった。
*********
知らない世界だった。
「キレてるよー!!」
「ナイスバルク!!」
「腹筋がおろし金!!」
「メロン肩!」
目の前の圧倒的な筋肉と、意味の分からない言葉に私は言葉を失った。
しかし、隣のカイル君とロイ君は大盛り上がりだった。
「うわ、やばー!なにあの腕!!大木じゃん!!」
「騎士団員も負けそうだな、カイル」
「負ける負ける。俺なんて一発KOされちゃうって!」
「リラちゃん大丈夫? これ、免疫ない人には正直きついよね。トーマ君いなくてほんとに良かった」
アイナちゃんはだいぶ慣れっこのようで、私だけでなく、この場にいないトーマ様まで気遣ってくれている。
「アイナちゃんのお兄さんは、いつ出るんですか?」
「……秘密」
「えぇ!?」
なんだかんだ私達の中で「お兄さんはどれだ大会」になったけれど、結局正解がわからないまま大会は終了したのだった。
********
会場を出た私は、なぜかぐったりだった。
「なんかもうおなかいっぱいというか、休みたいです……」
「珍しくリラちゃんがやられてるな!」
「気持ちはわかる。俺もけっこう疲れた」
「……なんかごめん」
なぜかアイナちゃんが謝ってくれた。
そのあと、みんなでお茶をした。
話題はもちろん、アイナちゃんのお兄さんについて。
どの人がお兄さんだったのか結局わからなかったけれど、お兄さんについて質問攻めだ。
「やっぱささみとブロッコリー?」
「うん」
「筋トレ、どれくらいやってんの?」
「わかんないけど、いつも片手にダンベル持って歩いてる」
「ダンベル持って歩く兄貴、すごいな……」
「新しい人種って感じ」
「アイナちゃん、お兄さんと仲良しなんですね!いいなぁ。私一人っ子だからうらやましいです!」
私の言葉に、アイナちゃんは少し目をそらしながらこう言った。
「でもダンベル代わりに、急に私を抱き上げてくる兄だから……」
「え!?」
思わぬカミングアウトに、私達は言葉を失う。
「ドン引きさせてごめん……」
申し訳なさそうに言うアイナちゃんに、カイル君が笑った。
「えー、すごいじゃん!ダンベル代わりに妹を持ち上げる兄!かっこよ!!」
「……それすごい少数派の意見なのよ、カイル君」
そう言われて、首をかしげるカイル君をよそに、ロイ君が言った。
「結局アイナの兄貴ってどれだったの?俺の予想だと五番かな。髪の色が似てたから」
「えー、私は十番の人かなって思いました。目が似てる気がしましたよ!?」
「俺は七番の人が怪しいって思ってた!」
「……全部違う」
「えーーー!?」
「教えない。恥ずかしい」
身内の筋肉が恥ずかしいのは、乙女だからなのかしら?
うーん……でも確かに、私の父があれやってたらやだなぁ。
そんなことをぼんやりと思う私なのだった。




