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28.僕のせいなの?

 王宮内薬局はいつも通り、お城で働く人々でにぎわっていた。

 何のためらいもなく入る私に、アイナちゃんは「え、入って大丈夫?」と心配そうに言った。


「大丈夫ですよ。どうぞどうぞ」

「お前の家じゃないだろ」


 安心してもらおうと思ったのに、ロイ君が呆れた顔をした。

 私たちのやり取りを見て、トーマ様が後ろの方でくすくす笑っているのが見える。


 しかし薬局に入って行くと、いつもと違うざわめきが起きた。

 何かと思って様子を伺う。


「トーマ様?」

「殿下がなぜここに?」


 という大人たちの空気がすさまじい。

 騎士団の人は礼の姿勢を取り、メイドさんや他の職種の人々も頭を下げている。


 そっか!

 トーマ様はこの城の王子様だったわね。

 一緒に来たことないから、全然気にしてなかった。

 あ、と思ってトーマ様を振り返る。


 するとトーマ様は、お客さんたちに軽く手を上げて「気にしないで」と言った。


「……めちゃくちゃ王子だな」

「だね」


 私たちがそう頷きあっていると、カウンターから私の父が出てきた。


「トーマ様。どうしました? ……あ、またご迷惑をおかけしてましたね、リラが」


 父は私をちらりと見てため息をつくと、私達を薬局の奥の部屋へと連れて行った。





 薬局長室のソファに座らされた私達。


「お父さん、オーウェン様は?」


「『嫌な予感がする』って言って先ほど帰られましたよ。あなたのことでしょうね」


「えぇ!?じゃあもう今日は会えない……?」


 がくりと落ち込む私を余所に、父は他の三人を見た。


「はじめまして。リラの父です。娘がいつもお世話になっています。本当にご迷惑をおかけしてると思います。申し訳ないです」


「いえ、こちらこそいつもお世話になっています」


 友人たちの言葉に、父はさらに続けた。


「なにかやらかしてませんか? やらかしてますよね?? 容赦なく指摘してあげてください。言っても伝わらないとは思いますけど……」


 ため息交じりの父に、トーマ様がにこりと笑う。


「フランツ、大丈夫だよ。リラ、結構みんなから好かれてるから」


「本当ですか?……いつ学校から電話がかかってくるかと、毎日ヒヤヒヤしてます」


 トーマ様と話す父を見て、ロイ君とアイナちゃんがこそこそと話をする。


「リラのお父さん、めちゃくちゃ丁寧な人だな」


「うん。なんでこの人からリラちゃんが?って感じ。見た目は似てるけど……」


 私と父をチラチラ見る二人。


「なんですか?父と外見が似てるって話ですか?よく言われます」


「なんでもないよ。それよりもリラちゃん。オーウェン様っていつも薬局にいるのよね?」


「そうですよ!ここに来れば大体会えます!」


 自信満々に言う私に、アイナちゃんが言った。


「そうしたら、わざわざ魔術科に行かなくてもよかったんじゃない?」


「え?」


「普通に魔薬師になって、ここで働けばよかったんじゃ……」


 全員の視線が私に刺さる。


「……ほんとだ。そうですね!!」


「あ、今気づいたんだ?」


「自分でいばらの道を選んだんだな」


 呆れたようなロイ君たちに、父がきっぱりと言った。


「いいんですよ。薬学科を出たとしても、娘はここで働かせませんからね。僕の権限で絶対に」


 その時だった。


「薬局長!ちょっといいですか?」


 部屋の外から父を呼ぶ声がした。


「すみません、ちょっと席を外しますね」


 そう言って父が出ていく。

 すると、アイナちゃんが私を見て言った。


「……薬局長?リラちゃんのお父さん」


「はい。ここの薬局長です」


 あれ、言ってなかったかな?

 そう思っていると、トーマ様が穏やかに言った。


「フランツは国一番の魔薬師だよ。昔から僕もお世話になってるんだ」


「そうなんですよね。トーマ様は、うちの父の薬と付き合いが長いんです」


 その言葉にアイナちゃんとロイ君が、なぜか深ーいため息をついた。


「二人ともどうしました?」


 首をかしげる私に、ロイ君がこめかみを押さえながら言った。


「なんかここ最近、お前らの情報量が多すぎる」


「え?」


「情報量?」


 私とトーマ様は思わず顔を見合わせた。


「お父さんのお仕事の関係で、リラちゃんはトーマ君と昔から知り合いだったのね?」


「そうですね。トーマ様は小さいころ病弱だったんで、うちの父が薬作ってたんです」


「そうそう。リラがたまについてきてたから、顔はなんとなく知ってたよね、お互い」


 うちの両親は共働きなので、私の預け先がない場合は、父が私を職場に連れてきていた。


「小さいころのトーマ様ってば、薬飲むのすっごく嫌がってましたよね!泣いてました」


「へぇ、可愛いとこあるな、トーマ」


 私の暴露に、ニヤニヤするロイ君。

 しかし、トーマ様は全然動じた様子もない。

「泣いてたねぇ」と、にこにこ笑って頷いている。


「でもトーマ様のお薬担当が、父から薬局のクレアさんに変わったとたん、薬が飲めるようになったんですよー。その人にプロポーズまでしてましたもんね!四歳で」


 一時期話題になってたなーと思い出しながらそう言うと、アイナちゃんとロイ君が「え!?」とトーマ様を見た。


「四歳でプロポーズ!?」


「そうだね。そんなこともあったな」


 おっとりと言うトーマ様。


「あの人の薬、美味しかったんだよね。甘くて」


「トーマ君の意外な面!でも、理由が子どもでカワイイね」


「ませてるよなー。お前もリラも、四歳で年上に言い寄るなんてさ」


 ロイ君の言葉に、トーマ様は顔をしかめた。


「……その言い方は、なんかちょっと違う気がする。僕とリラが同じみたいじゃない」


「似たようなもんだろ」


「えぇ~? 全然違うと思うけど。僕は、あそこまでまとわりついてなかったと思うし」


 ……トーマ様、私と同じで何が不満なんですか?


「でも、私はトーマ様に影響されたんですよ。トーマ様が『年上のお姉さんにプロポーズした』っていうのを聞いて、『なるほど!じゃあ私も!』ってオーウェン様に人生初告白をしたんですからね!」


「え」


「『年の差なんて関係ない』って気づかせてくれたトーマ様に、感謝してるんですよー!」


 私の人生において、大きな気づきでしたね!


 ちっちゃいころのトーマ様がいなかったら、私はきっとオーウェン様への気持ちにふたをして生きていったんだろうなぁ。


 そんなのって、私が私じゃないみたいだわ!


「それって、つまり今のリラちゃんを形作ったのは……」


「トーマってこと?」


「……え。僕のせいなの?」


「『せい』っていうか『おかげ』です!!」


 強く頷く私。

 何とも言えない表情のトーマ様の肩を、ロイ君とアイナちゃんが何も言わずポンと撫でるのだった。

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