27.お城見学ツアー
入学して初めての夏休み。
一年生は基本的に、寮から自宅へ戻ることになっている。
私達は、「せっかくだから『王子バージョンのトーマ様』に会いに行こう!」ということで、お城見学ツアーを計画したのだった。
トーマ様は「別にいいけど、外の方が面白いと思うよ?お城なんて何もない」と無自覚ロイヤル発言をぶちかまし、ロイ君に「お互い、知らない世界はおもしろいもんだろ」と言われて納得していた。
そんなわけで、私はロイ君アイナちゃんと待ち合わせをし、たった今、お城の門前までたどりついたのだった。
「……ここまではまぁ普通に来られるよな」
「うん。おまつりの日とかは、庭園にも入れるもんね」
門を見上げて、ロイ君とアイナちゃんが言った。
しかし、なかなか動こうとしない彼ら。
まだ行かないのかしら?
「じゃあ早速行きましょうか!」
私が歩き出そうとすると、ロイ君が顔をしかめた。
「ちょっと待て。リラはなんでそんな普通に入ろうとするわけ?圧倒されるとか、緊張するな、とかないの?」
「緊張というよりも、早くオーウェン様に会いたくて気が急いてますね!」
そう。
お城と言えばオーウェン様!
すぐそばに彼がいると思うと、今すぐ駆け出したくなる。
そわそわする私に気づいたらしいアイナちゃんが言った。
「リラちゃん、今日はトーマ君に会いに来たんだよ?」
「そうなんですけど、オーウェン様にも会いたいんです。とにかく行きましょう!」
ルンルンの私に、二人はため息をついた。
入口につくと、話が通っていたらしくメイドさんが出迎えてくれた。
この待遇は初めてだわね!
いつもは職員用の裏口から警備のおじちゃんに挨拶して入ってたから、なんだかとても新鮮!
私達は、ひろーい豪華な廊下をメイドさんについて歩いていく。
あー、久しぶりのお城だなぁ!
オーウェン様はどこかしら??
キョロキョロする私。
そしてアイナちゃんとロイ君は、ひそひそと小さな声で話をしていた。
「……ねぇ、私達すごい場違いじゃない?」
「やばいよな、この大理石やらシャンデリア。ただの廊下とは思えない。ほんとに王子なんだな、あいつ」
「信じられないくらいにお城だよね」
「うん。マジで城」
二人とも変な会話してるなぁ、と思いながら歩いていくと一つの部屋へたどり着いた。
どうやらトーマ様の自室らしい。
メイドさんが静かにノックをする。
「失礼いたします。皆様をお連れいたしました」
ドキドキしながら待っていると、中からトーマ様付きの執事のおじいちゃんがドアを開けた。
「お待ちしておりました。さぁ、どうぞお入りください。トーマ様。ご友人がいらっしゃいましたよ」
机で書類を見ていたらしいトーマ様が顔を上げた。
私達を見ると、ぱっと立ち上がる。
「こんにちは。久しぶり」
そう言ってにこりと微笑むと、トーマ様はこちらへやって来た。
「来てくれてありがとう。嬉しいよ。さあ、こっちにどうぞ」
促されるまま、私達は奥の部屋(この部屋広いわね!)へと進んでいった。
お茶の用意がされているテーブルに案内され、座ったとたんにお茶が運ばれ、あれやこれやをしてくれた。
そして、あっという間に私達四人だけの空間となる。
メイドさんとはいえ、大人の人たちにあれこれしてもらうのは、とてもドキドキしていたので、なんだか少しほっとした。
「……お前、本当に王子だったんだな」
ロイ君の第一声に、トーマ様は頷いた。
「うん。たまたま王子として生まれちゃったんだよねぇ」
「軽い言い方だなぁ」
そう言って笑うロイ君に、トーマ様も笑う。
豪華絢爛、圧倒的に美しい空間の中で笑うトーマ様は、全く違和感がない。
ここが彼の居場所なんだなと思わせる。
「教室でのお前のズレが、ここに来ると全部正しい物に変わるよ」
「そう?ここでは僕、ズレてない?」
優雅にお茶を飲みながら言うトーマ様に、ロイ君は頷いた。
「完璧すぎてこっちが戸惑う」
素直な感想に、トーマ様が微笑みながら言った。
「別に僕自身は変わってないよ。だから、戸惑うことなんてないでしょ」
私達を見るまっすぐな瞳に、「そりゃそうだ」と全員が納得するのだった。
お茶の後は、「お城見学ツアー」を実際に決行することにした。
「案内人が王子って贅沢だよなー」
と笑うロイ君に、トーマ様は穏やかに言った。
「そう?結構やらされてるよ」
「私、何度か見たことありますよ。トーマ様がお姫様と歩いてるところ」
私がそう言うと、ロイ君とアイナちゃんが「え」と固まる。
「リラが見てたなんて、気づかなかったなぁ」
焦る様子もなく普通にそう言ったトーマ様に、アイナちゃんが興奮気味に言った。
「それってトーマ君の許嫁とかなの?」
どんな人?どこ国の人?と珍しく食いつく彼女に、トーマ様はいつも通り穏やかに答える。
「違うよ。ただのお客さん。年齢が近いというだけで、ほぼ初対面の人と二人きりで歩かされるんだよね」
「でも、可愛いお姫様が結構来てますよね!好きになったりしませんか?」
遠目に見てもお人形みたいで可愛いなーって思いますけどねぇ。
「好きも嫌いもないでしょ。ほぼ初対面なんだから。それに知らない人と話すのって結構疲れるし」
つまらなそうに言うトーマ様に、ロイ君がからかうように言った。
「可愛い子ならいいと思うけど?」
「そういうもんでもないってば。僕には全然向いてないんだ。たぶんカイルとかのが人と話すのは向いてそう。あ、そうだ。カイルでも見に行く?」
思い出したように言うトーマ様に、私達も「あぁ、カイル君!」「そういえば元気かしら?」と彼の存在を思い出した。
「カイル君を見に行くって騎士団にですか?」
「そう。僕も夏休みに入ってから全然会ってないし」
「そうなの?護衛なのに?」
「うん、カイルは学園限定の護衛騎士だから。今は普通に騎士団員として毎日過ごしてると思うよ」
じゃあちょっと行ってみようか、という雰囲気になりつつあった。
そこで私はパッと手を上げる。
「ちょっと待ってください!ここまで来たら、ちょっと薬局によりたいです!!
薬局にオーウェン様がいるかもしれません!この時間はいつも薬局にいるんです!!息抜きしに来てるんですよ」
力説する私に、トーマ様が首をかしげる。
「……それってつまりサボり?」
「休憩です!」
「薬局に休憩しに来るって特殊だよな」
「とにかく行きましょう!!」
私は薬局へ向けてつかつかと歩き出す。
後ろの方で三人が「俺、騎士団って見てみたかったな」「カイルの存在忘れてたなぁ」「騎士団てどんな筋トレするのかしら?」などと、どうでもいい話をしていた。




