26.「リラ、言っちゃったね」
放課後、食堂で私とカイル君は、紙を片手に向き合っていた。
「カイル君、どうでした?」
「リラちゃんこそどうだった?」
「せーので見せあいましょう?」
「オッケー。いくよ?せーの!!」
二人でぱっと数学の答案用紙を見せあう。
「イェーイ!俺の勝ち!!!」
「えーーー!?ほんとですか!?」
ガッツポーズするカイル君と、がくりとうなだれる私。
「え、カイルが勝ったの?」
驚いているトーマ様に、カイル君が自慢げに答案を見せる。
「そうですよ!大接戦の三点差!!」
「……たったの三点ですし、たいして変わらないですよ」
「三点でも勝ちは勝ち!ほら、リラちゃん。約束通りアイス奢って!」
「うぅ、わかりました……」
財布を取り出す私に、トーマ様が言う。
「リラ、調剤が得意なのに、どうして数学で点が取れないの?調剤するには計算て必須だよね?」
「……気分が乗らないからですよ、意味のない計算なんて面白くないんですもん」
「おーっとリラちゃん、やればできるみたいな言い訳はなしだぜ!」
「わかってますよ。実際やってできなかったんですもん。私の負けです。数学と調剤は全然別物です」
「なんにせよ、赤点取ったやつがいないということは、全員無事に夏休みだー!!」
カイル君が嬉しそうに言った。
パチパチ拍手をする私とトーマ様。
「って言っても、俺は騎士団に戻るだけなんだけど」
「え、夏休みなしなの?」
ロイ君の言葉にカイル君は顔を曇らせる。
「一応少しはもらえるはずだけど……もっともらえるといいなぁ」
そう言いながらカイル君はちらりとトーマ様を見た。
殿下なんとかしてくださいよ、という思いが表情から見て取れる。
トーマ様は見ないふりを決め込んでいるようで、のんびりリンゴジュースを飲んでいる。
「夏休みかぁ。俺は実家の手伝いだな」
「私はお兄ちゃんの食事管理くらいしかないかなぁ。夏に大会があるらしくて、毎回手伝わされるの」
「なんかさ、その話いつ聞いてもピンとこないんだよなぁ。アイナがボディビルって」
「私じゃないからね?お兄ちゃんだからね!?」
「わかってるけどさー」
誤解されたくないアイナちゃんの勢いに、ロイ君が笑いながら頷いている。
「トーマ君は?」
「うーん、僕はまぁいつも通り。適当に人と会ったり、ちょっと出かけたりするくらい」
トーマ様の言葉に、思わずカイル君と目を合わせる。
適当に人と会うといっても、たぶんどこかのお姫様とか偉い人とか、そういうやつなんじゃないかしら?
「リラちゃんは?」
「え!私ですか!?私はもちろんオーウェン様に会いに行きますよ!!」
「そう簡単に言うけど、会いたいからって会えるもんなのか?あの人偉いんだろ?」
ロイ君の言葉にはっとした。
そうだ、顔パスが切れてるんでした。
この夏、私はお城に入れないぞ?
あり得ない……!
オーウェン様に会えない夏なんて、私一人凍り付いてしまう……!
私はちらりとトーマ様を見た。
「トーマ様……一生のお願いです……!私をなんとか顔パスに戻してもらえませんか?」
「え?」
「学園入学を機に、私はこれまでのようにお城に入れなくなったんですよ!お願いします!トーマ様!!なんとか王子パワーで私をお城へ入れて……あ。」
そこまで言って私ははたと気づいた。
トーマ様も「あ」という顔で私を見ている。
ちらりと横を見ると、アイナちゃんとロイ君が目を丸くしており、隣のカイル君は「あーあ」という顔で頭をかいていた。
「あ、えーと……すみません。聞こえました?」
「なに?王子パワー??」
「トーマ君……トーマ君て……」
「うん。実は王子なんだよねぇ」
トーマ様はおっとりと微笑んでそう言った。
アイナちゃんとロイ君が、トーマ様をじぃっと見つめる。
三秒後――。
「えぇっー!?」
アイナちゃんとロイ君の声が響き渡った。
驚く彼らをよそに、トーマ様は私を見る。
「リラ、言っちゃったね」と悪戯っぽく笑う彼は、楽しそうだった。
すみませんすみません!と頭をテーブルにこすりつける私に、トーマ様は「別に隠し通そうと思ってなかったしいいよ」と笑ってくれる。
そんな私たちを見て、アイナちゃんとロイ君が話し込んでいる。
「驚くような納得するような……」
「そうだね、半々な気持ち。っていうかロイ君!どちらかというと私の『御曹司説』の方が合ってたんじゃない!?」
「うーん。マフィアの息子も、なかなかいい線行ってたと思うけどなぁ」
「こんな高貴なマフィアの息子なんて、いるわけないじゃない!」
アイナちゃんとロイ君の会話に、トーマ様がきょとんとしている。
「マフィアの息子って僕が?」
「あはは!すげー想像力!!ってことは俺マフィアの息子の舎弟っていう設定だったの?」
おなかを抱えて笑うカイル君に、ロイ君が口を尖らせた。
「お前がややこしいこと言うからだろ!っていうか王子の護衛なら、すげーエリートなんじゃないの?なんで数学赤点ギリギリなんだよ!」
「えー、護衛するのに数学なんていらないでしょ?」
「トーマはこんなやつに護衛されてていいのか?」
わいわいし始めるロイ君たちを見て、トーマ様がふわりと笑う。
「よかった。僕の家のことを知っても、トーマって呼んでくれるんだね」
その言葉に、ロイ君とアイナちゃんがふっとトーマ様を見た。
「そりゃそうだろ、トーマはトーマだ。俺にとっては、王子というお前よりも、いつも一緒にいたトーマっていうイメージのが強いからな」
ロイ君がそう言うと、トーマ様は嬉しそうに笑う。
「ありがとうロイ」
まっすぐにそう言われたロイ君は、少し照れたように目線をそらしながら、ぶっきらぼうに言った。
「お前のズレ方にすごい納得。そりゃあ学食もBフェスも知らないよなぁ」
「私も納得。あのレディーファーストはさすが王子って感じだもん。そっか!私知らないうちに王子にエスコートされてたのね!?すごーい!」
盛り上がるアイナちゃんに、トーマ様が首をかしげる。
「エスコート?って程のことは何にもしてないけど?」
「……無自覚だ。ロイヤル過ぎる!」
首をかしげるトーマ様に、ロイ君が楽しそうにツッコむのだった。




