25.本物が来ました! 愛ですね!!
「……オーウェン様、全然手紙の返事をくれないなぁ」
はぁっとため息をついた私に、アイナちゃんが言った。
「リラちゃん。いつも授業中書いてるあの手紙、全部いつも出してたの?」
「もちろんです!分厚くなっちゃうから切手は多めに貼ってます!ご迷惑かけられないですもんね!!」
「……レポート並みの量だもんね」
アイナちゃんが遠い目をして言った。
「でもリラちゃん。そろそろテストがあるし、授業はちゃんと受けとかないと、夏休み補習になっちゃうよ?」
「……テスト?夏休み??」
「うん。テスト来週だよ?」
「えーーー!!!!?知りませんでした!!」
「だろうねぇ」
どうしよう、テストって?
どの教科?全部?どうしましょう!?
もしも夏休み補習になってしまったら、オーウェン様に会いに行けません!!
「アイナちゃん、私真面目に授業聞くことにします!」
「うん、それがいいと思う。とりあえず、次の授業頑張ろう!リラちゃんの魔術科だよ」
「あぁ……苦手です……」
「どうして苦手な学科に入ったのか思い出して!!」
「はっ!そうでした!オーウェン様に近づくためです!!やらないと!
そうだ!テストを乗り切るコツを、手紙でオーウェン様に聞いてみます!!」
「先生に聞こうよ」
あきれ果てるアイナちゃんをよそに、私はいそいそとローブを羽織り、お手紙セットを取り出すのだった。
手紙を書き始めたら、いつのまにか授業が始まっていたらしい。
先生が教卓でなにやら話をしている。
「リラちゃん!」
「アイナちゃん、もうちょっと待ってください。あと二行!」
「リラちゃん、違うの!リラちゃん、先生の話がすごいことに……」
「テスト範囲ならあとで聞きますね!」
私がそう言った時だった。
教室がざわめきに包まれた。
これはよっぽど大変なテスト範囲ということですね?
あぁ、もうテストどころじゃないのになぁ。
そう思った時だった。
「……おい、お前。ど真ん中でなに書いてんだ」
聞き覚えのありすぎる声に、ドキリと心臓がはねた。
恐る恐る顔を上げる。
「最悪だな。お前このクラスかよ」
紫色の瞳と目が合った瞬間、ぽとりとペンが手から落ちる。
え……。
「オーウェン様!!!???」
私はガタリと立ち上がった。
椅子がバーン!と倒れたけど、そんなのどうだっていい。
「うそ!なんで!?本物ですか!?会いた過ぎて夢でも見てるんですかね!?」
「あー、そう。夢だ夢。そのまま寝てろ」
ちらりとこちらを見て、呆れたように言う彼。
その突き放すような言動!
どう見たって本物ですよね!?
「オーウェン様なぜここに!?はっ!まさか私に会いに来てくださったんですか!?お手紙のお返事代わりにわざわざ会いに……!!!!」
身体中の血が一気に沸騰したかのように熱くなる。
「会いたかったですー!!!」
そう言ってオーウェン様に駆け寄ろうとした時だった。
「座ってろ」
オーウェン様は私に向けて、すっと人差し指を向ける。
その瞬間、私の体がふわりと宙に浮かび上がり、そのまま椅子に座らされてしまった。
オーウェン様は人差し指をそっとおろすと、深ーいため息をついた。
「お前相変わらずだな」
あぁ、いい……!
久しぶりの生オーウェン様!!!
「うわ、今の魔法?」
「魔法じゃなくて魔術だろ」
「魔術ってあんなことできんの?」
「風の魔術じゃない?でも、あんな使い方見たことない!」
クラスメイトがざわついている。
そりゃざわつきますよね、だって生オーウェン様だもんね!?
カッコいいですもんね!?
「ファルケさん、全部声に出てるよ!」
「え!ほんとですか!?」
「丸聞こえ!!でも、思ってたのと全然違った、生オーウェン様!」
「うん、やばい。カッコいい。大人の色気!!リラちゃん見る目ある!!」
「だから言ったじゃないですかーー!!ダメですよ!皆さん、私のオーウェン様なんですからね!!」
ワーワー盛り上がる私たちに、オーウェン様が顔をしかめた。
「なんなんだ、このクラス」
「申し訳ありません!」
担任の先生がペコペコ頭を下げ、魔術科の先生が私の元へやってきてすごい形相で静かに言った。
「ファルケさん、頼むからおとなしくしていてくださいね!忙しい中来ていただいてるんです!」
「え!私のために忙しい中……? 愛ですね、オーウェン様……!!!」
「単純に仕事だ」
オーウェン様はそう言って、ちらりと窓際に目をやった。
「……顔つきがだいぶ変わったな」
ニヤリと笑うオーウェン様に、みんながはてなを浮かべる中、トーマ様が笑みを浮かべて小さく頭を下げていた。
「皆さんお静かに!!先ほどもお話した通り、魔術師団のオーウェン団長が来てくださいました。視察ということですので、授業はいつも通り私が行いますよ!」
「え!?そうなんですか!?」
「では、オーウェン様どうぞいすにおかけください」
「あぁ、後ろから見てる。ここにいると視線が突き刺さってくるんだよ」
オーウェン様はそう言うと、コツコツと靴音を響かせて教室の一番後ろに回った。
あぁ、ドキドキする。
まさか同じ空間にオーウェン様がいるなんて……。
私はちらりと後ろを見てみる。
いる……!
腕組みをし、足を組んで椅子に座るオーウェン様がいらっしゃる!
ちょっとどうしましょう。
これは授業どころではないわね!
どうしよう、どうしよう。
「ファルケさん。落ち着いてください。前を向きましょうね」
「むりです、先生。私ちょっともう限界です」
テンションが上がりすぎて、なんだかくらくらしてきたわ!
「……つまみだせば?」
呆れたようなオーウェン様の言葉に、トーマ様がくすくす笑うのが見えた。
オーウェン様が見守る中、授業はどんどん進んでいく。
「本日は、魔力制御の演習です。基本中の基本なので、全員出来るようになってください」
先生がそう言って、ランプのようなものを取り出した。
「これは、魔力を流すと光るランプです。ただし、うまく流さないと綺麗に光りません。流しすぎるとショートしますし、魔力が足りないと光りません。上手く流せれば白く光ります」
百聞は一見に如かず、ということで全員ランプを渡され、挑戦することになった。
「……わ!ショートしました!!」
「私は全然光らないなぁ」
「せんせー、青く光るのは何でですか?」
「弱いですね、もう少し魔力を強めに流してください」
わーわー言いながら、クラスのあちこちから「できた!」「できない」の声が聞こえてくる。
全然うまくいかない中、注目されている生徒がいた。
「うわ、お前これも得意なわけ?」
ロイ君の声にパッと窓側を見ると、トーマ様のランプがとてもきれいに白く光っていた。
「魔力制御は小さいころから叩き込まれたから」
「お前んち、マジでどういう家だよ」
普通に答えるトーマ様に、ロイ君がツッコんでいる。
すると、後ろからオーウェン様の声が聞こえてきた。
「まぁまぁだな。変な癖も治ってるし、もうちょっとしぼれると完璧」
「……ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるトーマ様に、オーウェン様は楽しそうな顔をした。
アイナちゃんがぽつりとつぶやいた。
「もしかしてあの二人は知り合い?……魔術系の御曹司かしら?それともやっぱりマフィアの……」
「何の話ですか?」
アイナちゃんの言葉に何となく相槌を打ちつつ、私はランプに集中してみる。
オーウェン様にできる所を見てもらいたい!!
「あぁ!もうまたショートしました!どうしてですか!?」
「……お前は力入りすぎ。まずは息を吸え」
「! オーウェン様が私にアドバイスを……!!」
感動しつつ、言われた通り息を吸ってから試してみる。
「!!出来ました!!」
「だろ?それから、となりのお前は魔力が元から低めだな。全力で魔力を込める気持ちでやれば光る」
「え!」
アイナちゃんがびくりとして固まる。
「あと、今の時点でどうしても光らない奴が数人いるな。生まれ持った魔力がそもそも低めなんだ。俺が光らせてやるから、それを維持してみろ。維持するだけの魔力ならあるはずだ」
オーウェン様は人差し指をすっと斜め上に動かした。
すると、数名の生徒のランプが白く光る。
とんでもなく明るく美しい光。
「今光ったやつ、集中しねぇとすぐ消えるぞ」
椅子に座ったままのんびりとそう言ったオーウェン様に、私たちはため息しか出なかった。




