24.エーテル屋
普通にものを考えた方がいいと言われた私は、ごく普通に考えてみた結果、エーテルを作ることにした。
これは、オーウェン様に会った時に渡すお土産のエーテルだ。
正真正銘、普通のシンプルなエーテル。
前回、春休みの時は「オーウェン様の夢に私が出る仕様のエーテル」を作ったら、受け取ってもらえなかった。
ということは、シンプルならばきっと受け取ってもらえるだろう。
過去にシンプルなエーテルを渡したら、ちゃんと飲んでもらえたのだ。
しかも、あの時オーウェン様は一口飲んでから、こう言った。
「へぇ、まともな薬作れるじゃねぇか。わりと俺好みの味だな」
と言ってくれた。
「俺好み」!!
ということはもう間違いなく、オーウェン様の懐に入れたということよね!?
「あぁああぁ!!好き!!」
あの時の言葉を思い出した私は、一人教室のど真ん中の席で声を上げる。
「……リラちゃん?」
隣のアイナちゃんがびっくりした顔で私を見る。
「あ、すみません。取り乱しました。オーウェン様が素敵すぎて……」
私の言葉が聞こえていたのか、トーマ様が窓の外に顔を向けながら、噴き出しているのが見える。
窓側は良いですね、気持ちよさそうで。
そう思って調剤の続きをしようとしていたら、クラスメイトが数人やって来た。
「リラちゃん、さっきから何をしているの?」
「エーテル作ってました。オーウェン様に渡すためのシンプルなやつです」
「エーテル作れるんだ?」
「オーウェン様にもおいしいと認めてもらえた最高傑作のエーテルです!」
「え!飲んでみたい!」
「いいですよー」
ということで、数人のクラスメイトが私のエーテルに興味を示してくれた。
「じゃあちゃんと作りますね!」
「ありがとー!!」
こんなゆるーいやりとりをしていた時だった。
「ちょっと待て」
その声に振り向くと、ロイ君がきゅっと口を結んで立っていた。
「リラ。お前そのエーテル、ただでやるつもりなのか?」
「え?」
「材料費は?調剤料は?」
「精製水くらいですし、薬作るのは好きだから全然問題ないですよ」
私の答えに、彼はあきれ顔でため息をついた。
そして一気にまくし立てる。
「お前が調剤にかける手間賃は?時間は?エーテルの相場は?現代最高峰の魔術師が認めた、という付加価値は?」
「え?えぇ?」
珍しくぐいぐい来るロイ君に、私が引き気味になる。
「品物の価値と、お前の能力と、調剤時間に対価をちゃんともらうべきだ」
「そうなんですか?」
「当たり前だろ。エーテルの相場は大体……」
突然ロイ君が計算を始める。
「ちゃんともらうべきものは、もらわないとダメだ。タダであることで、揉める可能性だってあるんだからな」
「そ、そうなんですか……」
「当然だろ?お前の能力と財産が搾取されるってことに気づけ」
「そんな大げさな……好きでやってるんですけど」
「薬づくりで一日が終わったら、オーウェンどころじゃなくなるだろ」
「!! 確かに!!!」
オーウェン様のためにエーテルを作ろうとしているのに、これじゃあ本末転倒だわ!!
「わかりました!そうしたら、私はプロではないので、市販のエーテルよりも安くします。でもオーウェン様が認めてくれたという価値は、なによりも尊いので、その分少し上乗せします」
「そうそう、そういうこと。あと材料費は原価を出来るだけ抑えるように」
「大丈夫です!大量発注してるので、一本あたりは安いはずです」
「そんなしょっちゅう作ってんの?」
「そうですよ。色々実験もしてますし」
「ふぅん。まぁいいや。とにかく、お前が損しちゃダメだぞ。これは遊びじゃない。商売なんだ」
「わかりました。ロイ君ありがとうございます!!」
ぺこりと頭を下げる私に、ロイ君は「がんばれよー」と去っていった。
「……すごい種をまいていったの、ロイ君は気づいてないのかな?」
アイナちゃんがぽつりとつぶやいた。
種?
ロイ君は種なんて巻いてないと思いますけど。
**************
「リラどうだった?」
面白くて仕方ない、という顔でトーマが聞いてきた。
こいつはこの席で、ずっと俺達のやりとりを見ながらくすくす笑っていた。
高みの見物がやけに似合う男だな。
「うん。なんかめちゃくちゃ損しそうなことしてたから、指摘しておいた」
「……それ、大丈夫?」
「今後の人生に役立てばいいんじゃねぇか?」
「いや、そうじゃなくて……今この瞬間から波乱の予感だよ」
トーマの言葉に、俺は「ないだろ。さすがに」と笑う。
しかし、自分の認識が甘かったことに気づくのは、その日の昼休みのこととなる。
学食から戻ってくると、教室がやけに人でにぎわっていた。
「なんだろ?」
「もしかしてケンカ?止めに入るべき?」
ワクワクした顔で言うカイルに、トーマが「プロが殴ったらダメでしょ」とツッコミを入れている。
とりあえず中を覗いてみると、教卓にエーテルをずらりと並べているリラがいた。
少し離れた所で、あきらめたような笑顔を浮かべるアイナもいる。
「一本ちょうだい!」
「私も!」
「これほんとにあのオーウェンが認めたエーテルなの?」
「そうです!!いつもめちゃくちゃに冷たく評価されますけど、このエーテルだけは『俺好み』って言ってくれたんです~!!!!」
たくさんの生徒の前で、リラが嬉々として答えた。
明らかに上級生(おそらく魔術科の生徒)も交じっている。
……まさか。
状況を把握したとたん、リラと目が合った。
「あ、ロイ君!ありがとうございます。大盛況ですよー!」
「一応聞くけど、なにしてんの?」
「エーテル屋です。やってみたら思いのほかうまく行きました。オーウェン様効果がものすごいですよ。さすがオーウェン様!!」
はぁっとため息をつくと、トーマが俺をちらりと見た。
「ロイ。リラってこういう子なんだよね」
「……俺、まだまだ認識が甘かったんだな」
反省する俺の横で、カイルが大爆笑している。
「あははっ!リラちゃんすげー!!大金持ちじゃん!!」
「これ、オーウェン様との結婚資金としてためておきます!!!」
「リラ。オーウェンはお金持ってると思うけど……」
とんちんかんなことを言うリラと、とんちんかんな答えを返すトーマ。
なんなんだよ、お前たち。
「トーマ様、知らないんですか!?今の時代、女性も稼ぐものなんですよ!ね、ロイ君」
「まぁ、そうなんだろうけど……ここで店開くのはさすがにまずいんじゃねぇの?」
「え?」
その時だった。
騒ぎを聞きつけた教師が飛び込んでくる。
……というわけでエーテル屋は即廃業となった。
「……薬に可能性を感じるわね……!!」
散々叱られたはずのリラは、あとでそう言っていた。
俺もそれは同意見だ。
「リラ。今度、ちゃんと計画して商売してみようぜ?」
「いいですよ!稼ぎましょう!!」
のほほんと笑うリラ。
トーマが呆れたように言った。
「……ロイ、悪徳商売はしないよね?」
「しない。そこはちゃんと守る。規則をよく読みこんでおくよ」
「ギリギリを攻める気満々だな」
トーマの言葉にニヤリと笑ってしまう俺だった。




