23.噂話
入学してから、そろそろ三か月が経つ。
この頃になると、色々な噂が耳に入るようになってきた。
何組の誰がかっこいいだの、薬学科の先生が超厳しいだの、購買のパンの人気ランキングだのたくさんあるけれど、中でも一番聞くのはこれだった。
「一年A組に王子様系の人がいるらしいよ」
「それってあの金髪の人?物腰柔らかで、立ち振る舞いが普通じゃない感じの」
「そうそう!ほんと王子様っぽいよねー!しかもカッコいいし!」
「ロイヤル過ぎて近寄れないと思ってたけど、わりと気さくな人だったよ」
アイナちゃんと学食にいたら、隣の席の女子グループがそんな話をしていた。
思わずアイナちゃんと目を合わせる。
「……すごいね、トーマくんの噂。あちこちで聞くよね」
「ほんとですね。有名人だなぁ」
するとアイナちゃんが言った。
「私もリラちゃんがいなかったら、たぶんトーマ君とは話せなかったと思うもん」
「え、そうですか?クラスメイトなのに?」
首をかしげる私に、アイナちゃんが口を尖らせた。
「王子様っぽすぎて近寄れないよ」
なるほど……。
まぁ、本物の王子ですからね。
溢れ出ちゃってますもんね。
もうこれは、バレるバレないとかそういう話じゃないのでは?
どうして誰も「本物の王子だ!」って言わないのかが不思議なレベルだ。
そう思っていたら、当の本人がのんびりと学食へやって来た。
トーマ様は、この学食というものが大変お気に召したらしい。
食堂の視線をかっさらっていることなど、全く気づく様子もなく、のん気にロイ君と「何食べる~?」とか言ってる。
学生生活を満喫してますね。
そう思いながら、完全に傍観者目線で見ていたら、トーマ様がこちらに気づいた。
「あ、リラ。アイナ。そこ空いてる?」
ばっと隣のグループの女子が私達を見る。
……隣空いてると言え、という圧を感じるわね……。
アイナちゃんを見ると、彼女は彼らのためのスペースを綺麗にし始めていた。
私も慌てて彼女に倣い、机を綺麗にする。
「どうぞ」
私の隣にトーマ様、アイナちゃんの隣にロイ君が座った。
あれ?一人足りなくない?
「今日はカイル君は一緒じゃないんですか?」
「珍しくクラスの奴と教室で食うんだって。断り切れなかったって泣いて謝ってたぞ、トーマに」
「一緒に食べる約束なんか、一度もしたことないんだけどね」
呆れたように言うトーマ様に、私は言った。
「……トーマ様のこと好きすぎますよね、カイル君」
「鬱陶しいよね」
きっぱりというトーマ様に、アイナちゃんが「……容赦ないなぁ」と呟いた。
四人でご飯を食べながら、私はふと聞いてみた。
「どなたか、今日のオーウェン様情報ってなにかあります!?
毎日いろんな噂話を聞くのに、オーウェン様の話を誰もしないんですよー!」
「今日のオーウェン様情報? 今までそんなの提供したことねぇぞ」
私の問いかけに、ロイ君が反応した。
彼はいつも、打てば響く速さで反応してくれるので、とても嬉しい。
経験上、スルーされるのが一番きついですからね!
「リラ。そろそろ気づいてほしいんだけど、たぶんこの学園ではオーウェンの噂なんて誰もしないと思うよ。だから今日のオーウェン情報は特にないかな」
やんわりとだけれど、しっかりと悲しいことを言うトーマ様。
「ほんと容赦ないね、トーマ君」
「だいぶ本性出してきたよな」
アイナちゃんとロイ君が、目の前でこそこそと話している。
「……そうですか……。残念です。私もうそろそろ本当に限界なんで、薬を作ろうかなって思ってます」
私の言葉に、三人が固まった。
そして、ゆっくりと私を見る。
「薬?」
「詳しく聞くのは、やめといた方がいいやつ?」
「いえ、聞いてください!私ひらめいちゃったんです!自分の分身を作ればいいんじゃないかなって!」
私の言葉に、トーマ様が小首をかしげる。
「……ごめん。ちょっとよくわからないな」
「つまり、ダミーの私をここに置いて、本物の私はオーウェン様に会いにお城へ行くってことです!」
鼻息荒く答える私とは対照的な三人。
アイナちゃんが怪訝な顔で口を開いた。
「それ、薬でなんとかできるものなの?」
「特殊な材料を使う飲み薬なんですけどね。飲んだ人が分身できるんです。まぁ、ダミーの方は喋れないんですけど」
「……俺の知らない世界だ。絶対やばいやつだろ?」
「まぁ多少?でも、一回作ったことあるんで大丈夫です」
ロイ君とアイナちゃんに説明をしていると、黙って聞いていたトーマ様が口を開いた。
「ねぇ、リラ。普通に会いに行った方がよくない?ダミーいる?」
「あれ?いりませんかね? 授業に参加しないと、卒業できなくなったら困りますし」
「そしたら休みの日にいけばいいじゃない」
「あ……ほんとだ。そうですね」
私の言葉に、ロイ君とアイナちゃんが「え、今気づいたの?」と苦笑している。
「リラさ、まず普通にものを考える所から始めた方がいいね」
トーマ様は穏やかにそう言うと、アイスでも食べる?と私に食券をくれたのだった。
「ありがとうございます。早速いただきます」
私はもらった食券を引き換えるため席を立った。
「お前たちの会話……俺らにはわからない世界だな」
「そうだね。リラちゃん慣れしてるトーマ君てすごいよね」
「うん、なんか珍獣飼ってる気分だよ」
にこにこ笑うトーマ様が私を見ていたことなど、全く気付かなかった。




