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2.王子様の世界も意外とせまいらしい

 王宮内薬局を出た私は、家に帰ろうとお城の廊下を歩いていた。

 すると、前から見覚えのある人がやって来た。



「あ。トーマ様だ。こんにちは」


 私に気づいた彼は、まっすぐにこちらへやって来た。

 この城の王子である。


「リラ。来てたんだ?」


「はい。オーウェン様に会いに」


「ははっ!また言い寄ってたんだね」


「アタックあるのみです!」


 穏やかに笑う彼に、私は拳を握って見せる。

 オーウェン様は今日も素敵でしたよ!


「すごいね。いつもいつもへこたれずに。僕にはできないな」


「え?トーマ様もオーウェン様狙いですか?」


 私の言葉を、楽しそうに笑いつつもすぐに否定する。


「違うよ。あれだけ振られ続けても、まだ言い寄るのがすごいな、僕には無理だなってこと」 


「トーマ様。私は振られ続けてるんじゃなくて、まだ振り向いてもらえてないだけなんです」


 顔をしかめる私に、トーマ様が「あぁ、そっか。ごめん」と言い直す。


「十二年もがんばれるのがすごいよね」


 感心するトーマ様だったけれど、私としては「がんばってる」という感覚はあまりないんですけどねぇ?


「大好きな人を想っていると、十二年なんてあっという間なんですよ。

 トーマ様は言い寄られる側でしょうし、わからないかもしれませんけど」


「僕、言い寄られたことなんてないけど」


「でもその辺のカワイイお姫様とかお嬢さん方が、よく来てますよね?」


「……その辺の……ねぇ」


 うーん、と考えこむトーマ様。

 窓から差し込む日の光が、金髪をきらりと光らせる。

 いつ見ても、ビジュアルから王子様してるなぁ。


「あれ?許嫁さんとかいるんでしたっけ?」


「いないよ。なにかの勘違いじゃないかな」


「あれ?そうでしたっけ?だって王子様と言えば許嫁でしょ?」


 ビジュアル王子には、ビジュアルお姫様ってお決まりじゃない?


「今の時代、そんなもの王族にだってないよ」


「え!そうなんですか!じゃあお相手はこれから見つけるってことですね?」


「まぁそうなんだけど……」


 トーマ様は一瞬顔を曇らせたけれど、すぐにぱっといつもの笑顔になる。


「そんなことより、オーウェンから言われたよ。リラを卒業まで学園から出すなって」


「え!?私の話題がオーウェン様の口から出たんですか!?」


「うん。でも、全然良い意味じゃないと思うよ?」


 気まずそうな顔を見せるトーマ様に、私は首を振った。


「いいんです。オーウェン様が私を思い出してくださったという事実が嬉しいんですから!!」


「そうなんだ。すごく前向きでいいね。やっぱりリラはおもしろいなぁ。オーウェンしか見えてない感じがすごいよね」


「世界が狭いって、さっきオーウェン様からも言われました」


「あー。厳しいね。でもオーウェンらしい」


 苦笑するトーマ様は、すぐにこう言った。


「でも、僕も同じ。この城の中しか知らないから、リラよりも狭い世界で生きてるよ」


 トーマ様の視線につられて、私も高い天井に大きな窓、ピカピカに磨かれている大理石の床を見た。


「お城って豪華でいいなって思ってましたけど、そうでもないんですね」


「うん、そうでもない。決められたことをするだけだし、退屈だよ。刺激がない」


 穏やかなトーンだったけれど、その言葉には本音が込められているようだった。


「それはちょっと悲しいですね。でも私は、オーウェン様と同じ空間にいるトーマ様がうらやましいです!」


「あははっ!そうだね。僕と交換する?」


「したいですね!じゃあ薬作りましょうか!?お互いを入れ替える薬!たぶん、一日分くらいなら作れそうな気がするんですけど……」


 私の言葉に、トーマ様は青い瞳を丸くさせてから、楽しそうに笑った。


「すごく興味あるけど、やめておくよ。リラになった人生はかなり面白そうだけど、今の僕にはちょっとレベルが高すぎるから」


「そうですか。気が向いたら言ってください」


 ちぇっ。

 ちょっとおもしろそうだったのにな!


 そんな私の考えなどお見通しだったらしいトーマ様は、ふふふっと笑った。


「僕になんかならなくてもいいじゃない。リラはいつも楽しそうなんだから。なんでも自由にできるリラがうらやましいよ」


 ほんの少し視線を落としながら言うトーマ様。


「でも、トーマ様ももうすぐ自由じゃないですか!お城離れられるし!!」


 そうだ、自由じゃん!

 私も家でオーウェン様はやめろ、なんて言われずに済む!!


「そうそう。それはちょっと楽しみ。普通の暮らししてみたかったから!」


 ぱあぁぁっと笑顔がこぼれるトーマ様が、私の周りにいる同年代男子と同じに思えて、私はうんうん頷いた。


「一緒に遊びましょうね~」


「そうだね。遊ぼう。色々教えてよ」


「いいですよ。庶民の暮らし、楽しみにしていてくださいね!」


 私の言葉に、トーマ様はにっこり笑って頷いた。

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