1. 十二年目の初恋
鋼メンタルの前向き女子が、恋のためにひたすら才能の無駄遣いをするお話。テンション高めです。
「普段私を突き放す黒髪の英雄は、新月の夜に私を抱きしめる」のスピンオフ的なお話ですが、読んでなくても問題なく楽しめます!
「おーうぇんさま。おおきくなったら わたしとけっこんしてくれますか?」
あの時、ドキドキしながら言った私に、目の前の大好きな人はこう言った。
「あのな、悪いけどお前が大人になるころには、他の女と一緒になってる。それか死んでる。だから無理だ」
紫の瞳でまっすぐにそう言われた私は、目の前が真っ暗になった。
初めての失恋。
私の世界が終わったのは、四歳の春のことだった。
あれから、十二年。
四歳で初めての恋と失恋を経験した私は、何度も何度も失恋を繰り返していた。
同じ人に。
待ちに待った春休み。
私は大好きな彼に会いに、家を飛び出した。
向かった先はリアディス城。
大好きな彼は、ここの魔術師団の人だ。
門をくぐり、使用人専用の入口へ回ると、警備のおじさんが手を上げた。
「おー、リラちゃん。今日も元気そうだなぁ」
「こんにちは!お邪魔します!」
「いいよー。って言ってもこうやって通してあげられるのも、あと少しだからなぁ。学校決まったんだろ?」
「はい!リアディス王立学園です」
「へぇ~!優秀だねぇ。確かここの王子もそこだなぁ」
「そうらしいですね。私も昨日知りました」
「はははっ!リラちゃんらしいや。春休みの間は自由に出入りできるから、毎日でもおいで。リラちゃんが来ると明るくなっていいや」
「ありがとうございます!!」
幼いころから顔見知りのおじさんに、ぺこりと頭を下げると、私はずんずんとお城の廊下を突き進んだ。
王宮内薬局。
目的地だ。
あの人は、絶対ここにいるはず。
ドキドキしながら、私は薬局のドアを開ける。
開放的で明るい雰囲気の薬局は、いつも通りお城で働く人々が薬を求めてやってきていた。
大好きな彼はいつものように、薬局のカウンターに頬杖をついてスツールに座っていた。
あぁ、絵になる。
後姿すら神々しい。
一つにまとめた長い髪は、黒いというよりも美しすぎて、もはや青い。
魔術師団のローブを羽織っていてもわかる、姿勢の良さとたくましさ。
あぁ、もういますぐ抱き着きたい!
いや、だめだ。我慢。
とりあえず今日は、彼好みの薬を作ってきたのだ。
なんとしても渡す!!
「オーウェン様。こんにちは!」
駆け寄りたい気持ちを、なんとか抑え声をかけると、書類を読んでいたらしい彼は、ちらりとこちらを見た。
「おー。お前か」
いつものように淡々とした表情でそう言うと、すぐ書類に向き直ってしまった。
……冷たい。
けどそこがいい!!
最高にクールだわ!
ドキドキしながら座っている彼に近づくと、私を見上げた彼と目が合った。
うっ……かっこよすぎて死にそう……!
「オーウェン様!エーテル作ったんです!飲んでください!」
「あ、そう。サンキュ」
勇気を出して差し出したエーテルを、オーウェン様が受け取ってくれた。
……うそ……ほんとに?
私の薬、だいぶ久しぶりに受け取ってもらえた……!
これって、私の愛をまるごと受け取ってくれたということよね?
だって、あふれる愛と魔力をこれでもか!と込めて調剤したエーテルだよ?
ということは、相思相愛と言っても過言ではないはず!
ついに想いが届いたのだと感激して、抱き着いちゃおうかと思った時だった。
「って思ったけど……お前、これなに?」
彼はそう言って顔をしかめた。
「え、な、なにってなんですか? ただのエーテルですけどっ……?」
「……」
オーウェン様は、エーテルの瓶と私を冷たい目でちらりと見てから、ため息をついた。
「色が微妙に違う。魔力の色も変なのが混じってる。絶対やばいやつ入れたろ?」
さすがですオーウェン様。
すぐに見破られてしまいました!残念。
「……やばくはないですよ? ただ今夜見る夢に、ちょっぴり私が出てくるかもしれませんけど……」
えへへ、と笑ってごまかす私をじろりと睨みつける彼。
「いらね」
一言そう言うと、エーテルをカウンターに置いて、そのままぐっと遠ざけてしまった。ぷいっと私から顔をそらして、頬杖をつく。
「えーー!せっかく作ったのに!お願いします!夢の中でいいので私と一緒に過ごしてください!」
「俺、夢見ないタイプ」
「え!!そうなんですか!? オーウェン様……きっとお疲れなんですね。マッサージしましょうか?肩凝ってません?」
「近づくな。鬱陶しい」
シッシッと手を振って私を遠ざけようとする彼だけれど、こうして話せるだけでも幸せ過ぎて顔がにやついてしまう。
そんな幸せいっぱいの私の背後から、異様なオーラ(というか圧?)が漂ってきた。
「……リラ。あなた何してるんです?」
聞き覚えのありすぎる声に、びくりと固まる。
見ると、そこには丸眼鏡に白衣姿の薬局長が、無表情で立っていた。
私の父である。
「あ、お父さん……。えーと……いつからそこに?」
「ずっといましたよ。あなた、オーウェン様しか見えてなかったみたいですけどね」
「ずっと!?」
「はい。ずーっと見てました。なんなら一度名前呼びましたけど?」
「え!?嘘だ。お父さん、声小さいんじゃないの?」
私と父のやり取りを見て、オーウェン様が肩を揺らして笑っている。
こんなことで楽しんでくれるなら、父の小言もまったく気にならない。
「はぁ……。変な薬を作るなとあれほど言っているのに……」
「今日のはそんなに変な薬じゃないよ!」
口を尖らせる私に、オーウェン様が言った。
「まぁ、いつもよりはマシだな。惚れ薬やら、しびれ薬よりは」
「オーウェン様、わかってくださるんですね!? そうなんですよ!体の負担を考えて、夢に出るくらいのマイルドさにしました!」
わかってもらえたことが嬉しくて、声を上げた時だった。
「リラ。そういうことじゃありません」
眼鏡を光らせた父の背後から、白い煙みたいなものがズズズズズと出ているように見える。
あ。
まずい。
これは長いお説教が始まる……。
面倒だなぁ。
そう思った時だった。
オーウェン様がしれっと話題を変える。
「薬よりもさぁ、お前の娘から、セクハラ受けてる。なんとかしてくれよ」
「セクハラ!?私してませんよ!?」
「触ろうとしてきただろ?」
「そりゃあ、あわよくば触れたらと思いましたけど、ちゃんと肩を叩こうと思ってたんです!!」
私とオーウェン様のやり取りに、父が深くため息をついた。
「リラ。立派なセクハラです。こんなこと、父親に言わせないでくださいよ。あなた、いつまでオーウェン様にこだわってるんですか?もういい加減目を覚ましなさい。こんなふらふらした男を追いかけるなんて、将来が心配すぎます。大体、いくつ違うと思ってるんですか?」
父の言葉に、オーウェン様が口を尖らせた。
「おい。俺、セクハラの被害者なのに思いっきり貶められてねぇか?ふらふらした男って人聞き悪いぞ」
「事実でしょう?薬局に毎日顔を出す魔術師団長なんて、聞いたことありませんよ。団長になって少しは落ち着くと思ったら、全然ですね!」
「あっちは仕事させられるから面倒なんだよ。だいたい、俺は団長なんて嫌だって言ったんだ」
悪びれずにそう言ったオーウェン様がカッコいい。
潔すぎて素敵!
胸の前で手を組んで、オーウェン様をキラキラと見る私に、父が言った。
「見なさいリラ。彼はこんな大人です。いい所なんて一つもありません」
なんてことを言うんだろう。
お父さんこそ、彼をよく見て欲しい。
「そんなことない!! 大人の余裕でしょ!? オーウェン様は天才だし、団長だし、カッコいいし、これ以上の方なんていないわ!どうしてわかってくれないの?私達の仲を!!オーウェン様への愛を!!」
そう言い切った私に、オーウェン様が呆れ声で付け足す。
「俺達の仲なんて、始まってもいねぇけどな」
「あぁ、もうダメだ。我が娘ながら話が通じない……」
父が頭を抱える。
「リラ。入学準備はすすんでいるんですか?」
「今まさにしてるところです!学園入学の前の思い出を作りに、私はここに来たの!」
春休みが終わったら、私は全寮制の学園に入学する。
家にいるより、外で厳しくしてもらった方がいい、という両親の判断だった。
私は学校なんてどこでもいいと思っていたので、問題ない。
重要なのは、オーウェン様のそばにいることなのだ。
「思い出作りとかそういうのは、お友達とするべきじゃないですか?父親の職場に来るのが、どうして思い出作りなんですか」
「だって、お城なんてもう滅多に入れなくなるでしょう?」
私は、このリアディス城の薬局で働く父の娘として、幼いころからほぼ顔パスでお城に入ってきた。
それが、十六歳・学園入学という節目で、顔パスは効かなくなってしまうのだ。
「つまり、オーウェン様と気軽に会えるのもあと数日!また明日も来ますね!」
私の言葉に、オーウェン様と父が深ーいため息をついた。
「……俺そろそろ戻るわ」
「はい。色々すみませんでした。明日からは娘も来ないので安心してください。っていうかオーウェン様も、ここに来なくていいんですけどね」
父の言葉に、オーウェン様が肩をすくめる。
やだ、可愛い!
大人の男性もそんなことしちゃうんですね!?
「オーウェン様。なかなか会えなくなりますけど、私のオーウェン様への愛はかわりません!手紙書きますね!」
「さっさと同世代の男でも作れよ」
「!……それもそれで嫌なんですけどね。父親としては」
めんどくさそうに言うオーウェン様に、父が顔を引きつらせる。
「大丈夫ですオーウェン様!私にはあなたしかいませんから!!」
「……お前、ほんとに世界が狭いよな。ガキすぎる」
呆れたような、憐れむような表情で言われ、私はちょっと悲しかった。
この情熱をわかってもらえていない。
「狭くても広くても、オーウェン様がいればそれでいいのに……」
「すげー口説き文句。勉強になるわ」
全然本気にしてもらえない。
「もう知りません!私がとんでもない美女になって、すごくカッコいい人を連れてきたとしても、泣きつかないでくださいよ!?後で後悔しても知りませんからね!」
「おーおー。後悔させてみな」
「……あぁ、もうなんで娘のこんな姿を見なきゃいけないんですか……最悪です」
父ががっくりと肩を落とす姿を、ちらりと横目で見つつ、私はオーウェン様に言った。
「あーもう!!オーウェン様の意地悪!!でもそこが好き!!」
きゃー!言っちゃった!!
高鳴る胸を押さえつつ、私は薬局から飛び出した。
「……最悪すぎます……」
「あれ、お前に似てんの?」
「……思いきり母親ですね……」
「お前、家帰っても苦労してんだな」
オーウェン様と父がそんな話をしてるとは、思いもしない私である。
お読み頂きありがとうございます。
もしよろしければ、評価やブクマをつけていただけると励みになります。




