17.5【トーマ視点】面白くなかっただけ
はじめは「また言ってるな」と思ってた。
ローブの着方とか、そんなところまでよく見てるなぁ。
さすが十二年の片想いは伊達じゃないな、とのん気に見ていた。
けれど、だんだんと面白くなくなってきた。
クラスメイトのざわつきや小さな笑い声が、なんだか嫌なものに感じたのだ。
リラをあまり知らないのに、彼女の言動の表面だけを見て笑うのは、何か違うと思えた。
だいたい、髪を伸ばしたくらいでオーウェンに成り替われると思われるのもなんだか嫌だったし、リラがそれくらいで他の人間へ気持ちを変えると思われるのも嫌だった。
よくわからない。
とにかく面白くなかったので、手を上げた。
一通り先生とやり取りをし、納得する言葉を聞いたので席に着いた時だった。
「どした?」
後ろからロイに声をかけられた。
「……わかんないけど、面白くなかった」
「うん、俺も。でも手上げるのすげーな」
「もしかしてズレてた?」
「っていうか、うーん……なんかヒーローっぽかった」
「!」
予想外の言葉に驚く。
ヒーロー?
幼いころ命を助けてくれた、黒髪の騎士を思い出す。
あの時の彼は、すごくカッコよかった。
自分にとってのヒーローというのは彼だ。
「それは言い過ぎなんじゃないかな」
思わずそう言う。
だって、手を上げて思ったことを言っただけだ。
彼のように命をかけて、何かを助けたわけじゃない。
リラをかばったつもりもない。
「どうだろうな。リラ本人がどう思ってるかはわかんないけどさ、少なくとも数人の女子には刺さってるみたいだぞ」
ロイの視線を追って教室を見回すと、先ほどとは別のざわつきが起きていた。
好意的な視線は確かに感じる。
「……思ったことを言っただけなのに?」
「それができるのって、ほんの一部なんだぜ。ズレてるから知らないだろうけどさ」
ロイはそう言うと、ポンと僕の肩を叩いて、教科書を開き始めた。
仕方なく前に向きなおる。
教室というのは、言いたいことを言わないようにする場所なのだろうか?
だとすると、僕はたぶんこの先煙たがられるタイプかもしれない。
リラをちらりと見ると、しぶしぶとローブの袖に腕を通しているのだった。




