17.ローブの着方もオーウェン様
クイズラリーも終わり、本格的な授業が始まった。
一年生の間は、全員同じ科目を履修しなければならない。
一般教養に加えて、各学科の基礎を学ぶのだ。
記念すべき最初の授業は、なんと魔術だった。
これは幸先いいわね!
とてつもない運命を感じるわ。
私はワクワクしながら、ローブを羽織った。
魔術の授業では、必ずローブを着ることになっている。
クラスメイト達も授業に備えて、皆ローブを羽織り始めていた。
一気に魔術師感が出てくる教室内。
あやしげ~!!
私もワクワクしてるんだから、トーマ様なんてさぞ驚いているでしょうね、と思いちらりと窓際を見てみる。
「!」
案の定、数の暴力にやられているトーマ様がいた。
おもしろい!
思いっきり「わぁ、すごいなー」って顔してるわね!
っていうか、ローブ羽織ってもキラキラ感が隠せてないのは、王子オーラのせいなのかしら?
まぁいくら王子オーラが強いとしても、オーウェン様にかなうものなし!
ふふんっと一人満足すると、授業の始まりを告げる鐘が鳴るのだった。
魔術科の先生は、穏やかそうな女の先生だった。
「一年生の皆さんは、魔術の基礎学習です。商業科も侍従科も、基本を身につけておけばいざという時に役立ちます。騎士科の生徒も、現場に出た時に魔術師と連携を取るなどもありますから、おろそかにしないこと」
そこまで言うと彼女は、ばーっとクラスを見渡してからぴたりと私を見た。
「中央の席のあなた。そのローブの着方、なんだかちょっとおかしくないですか?」
明らかに私だった。
クラスメイトの視線が一斉に私に向く。
「え。そうですか?」
自分を見下ろしてみる。
どこがおかしいのだろうか?
隣のアイナちゃんを見ると、彼女は「袖!袖通してないよ!」と目線と動きで教えてくれている。
「学園ではきちんとローブを身に着けてください。もちろんこの先、魔術師団に入ったら、着崩すなど許されませんからね」
なるほど。
袖を通して着るものなのね!
「すみませんでした。でも、先生。オーウェン様はこんな感じで着てらっしゃいました」
「……え」
私の質問に、先生が固まった。
そして名簿を見る。
「えぇと……ファルケさん、ですね。オーウェン様、というのは……」
「王立魔術師団の団長です!袖が邪魔だって羽織るだけになさってたみたいなんですけど、それって本当はまずいんでしょうか?
あ!でも、王立魔術師団にも確か、いくつかローブのパターンがあった気がします!袖なしのマントみたいな方を好んで着てらしたかもしれません!
本当はローブも嫌だって言ってました。でも、制服をきちんと着ると苦しいから、着崩してるのを隠すために羽織ってるっておっしゃっていました!
その着崩し方がものすごくカッコよくて……」
「はい、ファルケさん。座りましょうね」
いつの間にか立っていたらしい私は、先生の魔術で押さえつけられるように椅子にドスンと座るのだった。
「あなた方はまだ学生です。志を高く持つのは素晴らしいことですが、少しずつステップアップしていきましょうね。国のトップ魔術師と同じことをするのは、まだ早いですよ」
「ローブの着方くらい同じにしたいのになぁ」と思わずつぶやくと、先生が引きつり笑いをするのが見えた。
「ファルケさん、可愛い顔しておもしろすぎ!いいね!」
「オーウェン団長ファンなんだー?意外~!」
「そしたら俺も髪、伸ばそっかな!」
という男子の声が飛んできた。
ざわつく教室に、私は立ち上がった。
「ファンではありません。本気です。オーウェン様のそばに行くために、私は魔術科を受けました!」
オーウェン様への気持ちが軽いものだと誤解されたら困るなと思って、きっぱりとそう言うと、教室が静まり返った。
「……ファルケさん。座りましょう。そろそろ授業始めますね」
先生にそう言われ、私は席に着く。
「親子くらい歳の差あるのに」「特殊だよねー」というひそひそとした笑い声が、あちこちで起こっている。
「リラちゃん、落ち着いてね」
アイナちゃんが心配そうに私を見る。
「笑われるようなことしたつもりは、全然ないんですけど……」
私が困惑していた時だった。
「先生。よろしいですか?」
と落ち着いた声が教室に響いた。
トーマ様がすっと手を上げている。
「はい、ローウェルさん。なんですか?」
「この学園に来た魔術科の生徒が、王立魔術師団に入りたいというのは間違ってませんよね?」
「えぇ。その通りです。そして事実、この学園の魔術科の卒業生の半数は、王立魔術師団に入っています」
「オーウェン団長のように才能ある人に惹かれるのも、その人の元で働きたいと思うのも、何もおかしいことじゃないと僕は思います。彼の才能は誰もが知るところですし、魔術科専攻の生徒ならば、皆同じ気持ちなのではないでしょうか」
「もちろんその通りです。初めから無理だと諦めてしまうよりも、いかに彼の領域に近づけるかということを考える方が、伸びますからね」
「でしたら彼女の言うこと、全然おかしなことではないですよね。ローブのくだりはともかく」
「そうです。ローブの着方さえちゃんとしてくれれば、私は何も言いませんよ。むしろ、団長を目指して勉学に励んでくれるならば、これ以上のことはありませんからね」
くすくす笑っていた生徒たちが、気まずそうにうつむいているのが見える。
「納得しました。ありがとうございます」
トーマ様は穏やかにそう言って座った。
なにがなんだかよくわからず、トーマ様を見ると、ぱちりと目が合った。
トーマ様はにこりといつものように微笑むと、何事もなかったかのように前を向くのだった。




