【番外編】カイル君の朝
朝。
カイル・クラウザーは目覚ましが鳴るよりも、少し早く目を覚ました。
昔から目覚めは良い方だ。
カーテンを開けると、顔を洗って、コップ一杯の水を飲む。
部屋着に着替えると、内ドアをノックした。
「おはようございます、殿下!朝ですよー!」
ドアに向かって挨拶をすると、一拍置いてから返事が聞こえてきた。
「……しってる」
「失礼します」
遠慮なくドアを開けると、トーマがベッドから起き上がった所だった。
「殿下、おはようございます!お目覚めいかがですか!?」
その言葉に、カイルをちらりと見たトーマ。
ほわっと寝癖のついた髪の毛のせいか、年齢よりも幼く見える。
「……うん。あんまりよくないね」
「うわー、機嫌悪い。朝の殿下が一番怖いですよねー」
「……わかってるなら声かけないでくれる? おこさなくていいって、いつも言ってるでしょ」
「じゃあストレッチしてくるんで、その間に準備してくださいね!」
「ねぇ、はなし聞いてた?」
「失礼しますっ!」
内ドアをバタンと閉めると「カイル、もっとしずかに閉めて」と静かに怒りを含んだ声が聞こえてくるのだった。
いつものことなので気にしないし、気にならない。
そこから入念にストレッチを20分する。
本当ならこの後走りたいところだけれど、寮の規則で外に出てはいけないため我慢する。
制服に着替えると、再びトーマの元へ行く。
「殿下。準備出来ましたか?」
「できたよ」
寝癖はきちんと直されていたけれど、ぼんやりした様子のトーマ。
「じゃあ食堂へ行きましょー!」
「……あんまりたべたくない」
「ダメですよ。食べてください。リンゴジュースだけでも飲めば違います」
そう言ってトーマを引っ張って食堂へ行くと、彼を椅子に座らせ、リンゴジュースとヨーグルト、そして自分用に朝定食を運んできた。
「はいどうぞ!」
どすんとトーマの前にリンゴジュースとヨーグルトを置くと、自分もさっさと食べ始める。
「殿下~、そろそろ起きてくださいね。ぼんやりしてると、制服にヨーグルトこぼしますよ」
「……カイルこそ、ごはんつぶが袖についてる。なんでなの?」
「え?」
指摘されたご飯粒を取って食べると、トーマが呆れたようにリンゴジュースを飲むのだった。
トーマとカイル、ほぼ同時に食事が終了。
再び部屋に戻り、身支度を整える。
「さ、授業はじまりますよ。行きましょう!」
鞄を片手に歩き出すカイルに、トーマが恨めしそうに言った。
「カイルは、なんでそんな元気なの?」
「たくさん食べたからですかね!」
「食べるまえから元気じゃない」
「よく寝たからですかね!」
あっけらかんというカイルに、トーマは一拍置いてから返事をした。
「……あ、そう」
もう考えるのはやめよう、こういう奴なのだとトーマは思った。
そんな彼の考えなどわかるわけもなく、カイルは明るく言った。
「ほらほら!遅刻しちゃいますよ。A組の一時間目は確か数学ですね!俺は体育です!」
「……いきなり体育とか、しんどいね」
「え?そうですか?俺走りたくて仕方ないんでちょうどいいです!」
「……先いっていいよ」
「だめです。廊下走ると叱られるんで」
そんなこんなでトーマとしゃべりながら登校する。
歩いているうちに、少しずつトーマ覚醒。
喋り方もはっきりしてくる。
そしてクラスに到着した。
「じゃあ殿下、じゃなかった。トーマ様、また放課後!」
「放課後待ってなくていいよ。寮に帰るだけなんだから」
「えー、そんなつまんないこと言わないでくださいよ。俺だけ置いて行かれるとか嫌ですもん!」
口を尖らせるカイルに、トーマがため息をついた時だった
「おー、トーマにカイル。おはよ」
「おはようロイ」
「おはよう!ロイ、トーマ様をよろしくな!」
明るくそう言うカイルに、ロイが怪訝な顔をする。
「よろしくってお前、トーマのなんなわけ?」
「舎弟!」
「あぁそうか。そうだったよな……朝からテンションキツイな、この舎弟」
「うん。ほんと苦行」
そう言って二人で教室に消えていく。
それを笑顔で見届けると、カイルはB組へ向かう。
教室に入ると、あちこちから声がかかる。
「おはようカイル!」
「おう!おはよー!」
「お前いつにもまして朝から元気だな」
「体育だからさ!めちゃくちゃ走りたいんだよ」
「うわー、出たよ。体力有り余り男!」
「カイル君おはよー」
「おー、おはよ」
「宿題やった?」
「え、なんだっけ?」
「リアディス近代史の課題あったじゃん」
「げー、忘れてた!!」
「あたしの見せてあげようかー?」
「え!マジ?……いや、ちょっと今からダッシュでやってみるわ。近代史ならたぶん行けそう」
「そう?間に合わなそうだったらいつでも言ってねー」
「サンキュー」
そう言うと、カイルは自分の席に着き、ごそごそと教科書を取り出す。
それを横目で見ながら、女子がひそひそと話をしている。
「うわ、ミナってば抜け駆け?」
「早い者勝ちでしょ~」
「でも、宿題断られてるじゃん」
「意外と真面目だよねー。そこがいい」
「わかるー」
そんな声などまるで聞こえていないカイルは、「やっべ!時間ないじゃん!」と必死に課題に取り組むのであった。




