16.トーマ様と呼ばないで
クイズラリー大会の翌日、私とカイル君はトーマ様から呼び出されていた。
トーマ様は窓側の席で、いつものように窓の外を見ながら頬杖をついていた。
並んで立つ私とカイル君は、少し離れた場所でトーマ様の様子を見る。
「……俺達、何かしたっけ?」
「してないと思います。私はしてません。カイル君じゃないですか?夜の筋トレうるさいって言ってましたよ?」
「え、マジで?もう習慣だから、やんないと気持ち悪いんだけどなぁ……」
ひそひそと話をしていたら、トーマ様がこちらを見た。
夕日を受けた金髪がキラリと光る。
おもわずびくっとなる私達に、トーマ様が言った。
「あのね、僕思ったんだけど……」
「はい」
「二人とも、僕のこと『トーマ様』って呼ぶのやめてくれないかな?」
「え?」
思ってもいなかった言葉に、私とカイル君は固まった。
「クイズラリーの時に思ったんだ。二人が僕をそんな風に呼ぶから、ロイとかアイナが僕のことを『普通と違ってる人』みたいな目で見るんじゃないかなって」
真面目な顔でそう言ったトーマ様。
「いや、違いますよそれ」
「うん、全然違います」
私達は思わず即答した。
「呼び方にかかわらず、みんな『普通と違ってるなー』って思ってるはずですよ」
「え。僕ってそんなにおかしい?」
トーマ様はガーン、という表情をしている。珍しいな。
「そうじゃないんです。王子オーラが隠しきれてないんですよ」
「そうですそうです。俺達のせいじゃないですよ」
私達の言葉に、トーマ様は顔を曇らせたまま言った。
「……仮にそうだとして、僕はどうすればいいわけ?」
「にじみ出てるものですし、そのまま高貴なキャラとして行くしかないと思います」
「そうですよ。変な癖付けたら、城に戻った時に怒られます」
私とカイル君の言葉に、黙り込んだトーマ様。
しばらく考えていたようだったけれど、やがてこういった。
「だとしても、僕のことを『様』なんてつけないで『トーマ』って普通に呼んでくれないかな?」
「いやぁ、無理です。俺は無理! 不敬罪で先輩にシバかれます」
「私も無理です。トーマ様はトーマ様ですもん」
即答する私たちに、トーマ様は不満気な顔を隠しもしなかった。
「僕がいいって言ってるのに」
「私達は嫌です」
しばらく私達を見ていたトーマ様は、ため息をついた。
「……そっか。それなら仕方ないね。……しばらく君たちとは距離を置くことにするよ」
「え?」
「僕は僕で好きにやるから、しばらく放っておいてくれる?」
トーマ様の言葉に、カイル君が諦めたように首を振った。
「あぁ、もう殿下ってほんと極端というか、一度決めたら頑固ですよね!
わかりましたよ。失礼ながら敬称を付けずにお呼びしますね?」
「うん、いいよ。ちょっと言ってみて」
促されたカイル君は、緊張した面持ちで恐る恐る口を開く。
「……と、トーマ……。……さま!」
後付けされた敬称に、トーマ様は一言。
「なんで?」
「いや、『なんで?』じゃないですよ!やっぱり無理でした!」
顔を赤くするカイル君を放って、トーマ様は私を見る。
「リラは?」
「え、私もですか?」
当然でしょ、とばかりにまっすぐ私を見てくるトーマ様。
えぇ、けっこうめんどくさい人なんですね? 知らなかった。
「えぇとそれじゃあ……トーマ。くん。トーマ君、でいいですか?」
落ち着かない私。
トーマ様は私を見たまま、三秒くらい考えてからこう言った。
「うん。譲歩する。それでいいよ」
「わかりました!トーマ様……じゃなくてトーマ君!」
「……一回で決めて欲しいところなんだけどな。言い直しすると余計変でしょ?」
言い方はやんわりだけれど、不満です!っていうのを隠しもしない彼に、私は口を尖らせた。
「無理ですよ、長年の癖なんですから。っていうかさっきから注文多すぎません!?」
文句を言う私に、カイル君がポンと私の肩に手を置いた。
「リラちゃん、殿下は結構そういうとこあるんだよ。思ったら言わずにはいられないし、一度決めたら結構頑固。しかも行動力が変にある」
「ええ!?それはめんどくさいですね!知らなかったです。おっとりして優しそうなのに、今まで猫かぶってたんですか!?それとも見た目詐欺!?」
私の言葉に、カイル君がぶっと噴き出した。
トーマ様は、そんなカイル君にじろりと冷たい視線を送る。
え、やだ、なんですかそのいつもと全然違う冷たい感じ!!
「……トーマ様も、そういう目をするんですね!!オーウェン様みたいで悪くないです!!」
一気にテンションが上がる私に、トーマ様は「え?」と固まった。
カイル君も「うわ、リラちゃんて特殊!」と呟いている。
「優しさ標準装備のトーマ様だと、その視線、破壊力が上がる気がしますね!オーウェン様は不敵さが標準装備なので、それはもう萌えて萌えて仕方ないんですけど……」
一人盛り上がる私に、トーマ様はこほんと咳ばらいをすると、話を戻した。
「主張しないと、お城だといいように使われちゃうからね。でも、別にわがままなんて言ってないつもりだけど」
「まぁ、わがままではないですけど……正論だから余計面倒なんですよ」
「……へぇ。カイルは僕のこと、ずっとそう思ってたんだね?」
「あ」
にこりと微笑むトーマ様に、びくりと固まるカイル君。
「こんなにはっきり主従関係があるのに、呼び捨てなんて無理だと思いますよ」
私の言葉に、コクコク頷くカイル君だった。
こうして結局私たちは、トーマ様をトーマ様と呼び続けることになる。




