14.騎士と王子なんですよ
ボーナスステージということで、なぞの暗号を解くことになった私達。
今まで完全に傍観者として楽しんでいたカイル君が、ここで急に顔つきを変えた。
『現在地マルハチ・ナントウ、マルロク・ヒガシ、ヒトフタ・ニシ、目的地キタ』
ブレスレットから出た暗号を暗唱しながら、カイル君が地図を広げる。
「えぇと、現在地が図書室だからこれか。ここが南東。で、マルロクヒガシだから、このあたりが東か……」
すいすいと地図をチェックしていくカイル君に、私達は心底驚いた。
「これ、騎士団のなにか?」
「そうそう。目的地が北って言っても、本当に北方向へ行けってわけじゃないんだ」
「え?」
「これさ、基本的な暗号のうちの一つ。東西南北を時計盤に見立てて、場所を示してるんだよ。時計盤の数字がどの方角を示すかは、その時々で変わるんだ。今回で言うと……」
カイル君は腕時計を外すと、地図の横にポンと置いた。
「マルハチナントウっていうのは、〇八=八時の場所が南東ってこと。
マルロクヒガシは、〇六=六時の位置が東」
そう言ってカイル君は、腕時計を横向きに置いた。
文字盤の六時が右側に来ている。
「ヒトフタニシはちょっと読み方が特殊。一二=十二時が西。
目的地は北にあるってことだから、北は三時の方向」
文字盤の三時が地図の上を向く形になっている。
「それを地図に当てはめると……三時の位置はここだな。魔術会館!」
指先で地図の一点を指し示すカイル君に、私たちは歓声を上げた。
「わー!すごいですね!!」
「カイル君、騎士科なんだ!?」
「どう見たってそうじゃん」
素直に驚くアイナちゃんに、ロイ君がツッコんでいる。
「ほらカイル、早く行って。三分以内でしょ。カウントダウン始まってるよ」
あっさりと言うトーマ様に、カイル君がはっと体を跳ねさせた。
「わー!やべっ!先行きますね!」
そう言うと、とんでもない速さで走って行ってしまった。
彼の後姿を見送りながら、ロイ君がトーマ様をちらりと見た。
「……あいつには容赦ないんだな、お前。パシリ慣れてる」
「だって、専門分野くらい活躍してほしいでしょ?カイルだってそのつもりだろうし。っていうかパシリってなに?」
微笑みながら言うトーマ様は、のんびりとした様子だ。
「じゃあ行こうか。それとも、ここでちょっと休んでいく?」
「いや、さすがに走って行ったあいつがかわいそうだろ」
「え、そう?カイルに任せておけば、大丈夫だと思うけど」
少しくらい待っててもらってもいいと思うけど、と言うトーマ様。
変なところで王子っぷりを発揮しないで欲しい。
「トーマ様行きますよ!他のグループとタイムを競ってますし、休んでる場合じゃないです。次はもしかしたら、オーウェン様のクイズが出るかもしれません」
「魔術科のクイズだとしても、リラ向きのニッチな問題は出ないと思うよ」
「出るかもしれません!とにかく行きましょう!」
「そんなに慌てないで、ゆっくり楽しめばいいのに」
トーマ様の腕をひっつかんで歩き出す私に、アイナちゃんとロイ君がついてきた。
「トーマ君て……意外と我が道を行くタイプなの?」
「わかんない。でも、人を使うの慣れてそうだったよなぁ。カイルとは昔からの知り合いっぽいからか?」
後ろの二人をよそに、トーマ様は「この学園って広いよね。創立から結構経ってるのに綺麗だし」とのんびり学園を眺めながら歩くのだった。
魔術会館に着くと、入口の前でカイル君が待っていた。
「カイル君、時間に間に合いました!?」
「うん、ばっちり余裕!」
「わーすごい!おつかれさまです!」
「けっこう距離あったけど、これ三分で来たのってすげーな」
カイル君を囲んで、わいわい盛り上がる私達。
すると、カイル君がぱっと姿勢を正す。
彼の視線の先にはトーマ様がいた。
……思いっきり主従関係が見えているけれど、いいのかしら?
いい加減バレると思うんだけど。
なぜか私が、ロイ君とアイナちゃんの様子を伺ってしまう。
いつも通り穏やかな笑顔で、トーマ様はカイル君を見て一言こう言った。
「どうだった?」
「当たりでした!時間にも間に合ったので、これもらいましたよ!」
そう言って、カイル君はじゃーん!と言って、食券を広げて見せた。
「ボーナスステージクリアのご褒美だそうです!一人一枚ずつなんですけど、なんとこれ、ただの食券ではありませんよ~?」
にやりと笑うカイル君。もったいぶりますね!
「スペシャル定食の食券でーす!!」
「マジか!」
「わー!すごい!」
「食べてみたかったんです~!」
「え?」
盛り上がる私達に、トーマ様だけが首をかしげている。
しかたない。私が普通の生徒代表として教えて差し上げましょう。
「トーマ様、これは食堂で一番高いやつが食べられる券ですよ!」
「あぁ、そうなんだ?つまり貴重なんだね?」
「貴重っていうか、嬉しいってことです。普通の学生はお小遣いが少ないので」
「……そうか!そうだよね!」
はっとしたようにトーマ様は頷くと、カイル君に言った。
「お疲れ様、カイル」
「いえ!当然のことをしたまでです!」
彼らのやり取りを見て、ロイ君が言った。
「お前ら、まだ舎弟設定で遊んでんの?」
ロイ君。
その二人は舎弟っていうか、王子と護衛騎士なんですよ。




