13.壺と言えば高価ですよね!
ブレスレットの指示で、温室から図書室へとやって来た私達。
今度は一体なんだろう?
図書室なんて魔術科っぽくない?
オーウェン様の問題なら自信満々なんだけどな!
そう思いながら図書室へ入ると、予想外の問題が私達を待っていた。
「……なんか置いてある」
図書室の中央の机に、大きなガラスケースがいくつか並んでいた。
近づいてみると、そこには宝石、茶器、布、壺が入っている。
「えーやば!すごい厳重じゃん!」
カイル君がそう言った瞬間、ブレスレットが光りだした。
『問題。この中で、現在のリアディスで市場価値の高い物はどれでしょう。図書室の本で調べても良いが、品物に直接触れることはできません。制限時間は二十分です。よーい、スタート』
容赦なしのカウントダウンがスタートした。
「……これ、何学科ですか?」
「目利きだから商業科だろ」
そう言って、ロイ君がすっと机に近寄ると、じぃっとガラスケースを覗き込んだ。
「え、ロイって商業科?」
目を丸くするカイル君に、ロイ君は頷いた。
「そう。こう見えて、商家の息子なんだ。うち、こういうものを取引してるから、わりと得意かも」
「でも、この距離で見るのって、ちょっとやりにくくない?」
トーマ様も、隣でガラスケースをまじまじと見ながら言う。
「そうだな。まぁ仕方ない。この距離でもわかるものを、ここに乗せてると判断するよ」
というわけで、突然の鑑定大会がスタートした。
ガラスケースにへばりつくロイ君とトーマ様にならい、私もガラスケースの品物を眺める。
静まり返る図書室で、隣のカイル君がひそひそとしゃべり始める。
「こういうのって、宝石がダントツで価値があるんだと思ってたけど違うのか?」
「ほんとですよね。でも、壺とかもよく高いって聞きません?」
私の言葉にうなずきつつ、アイナちゃんが言った。
「茶器もけっこう高価なんだよ。有名な作家が作ったものとか、アンティークとかね」
「あー、いろんな金持ちがいるからなぁ。俺は、飲めればどんなコップだっていいんだけど」
カイル君、アイナちゃんとそんな話をしながら、ぼんやりと「価値ありそうなもの」を見る。
わかってない私達三人組をよそに、ロイ君とトーマ様が話を始めた。
「この宝石は違うよね」
トーマ様の問いかけに、ロイ君が小さく頷いた。
「うん、違う。透明度が少し低いし、小さめ」
「このアンティークの茶器は?けっこう状態も良さそうだけど」
「これは……保留。去年ならこれだけど、今リアディスで売れるかというと、何とも言えない。隣の国ならまだ需要が高いんだけどなぁ」
ガラスケース越しに言うロイ君の目つきがプロ過ぎて、本で調べようともせず、私とカイル君とアイナちゃんは丸投げすることにした。
彼を邪魔しないよう、静かにガラスケースから離れる。
すると急にトーマ様が笑い出す。
「壺って……。なんかいかにも過ぎて……おもしろい」
「うん、それはウケ狙いだろ。どう見たってごく普通の壺だもんな。出題者が『壺と言えば高価』みたいなことを想像したんだろうなぁ」
その言葉を聞いたアイナちゃんが私を見た。
「……リラちゃん、壺はウケ狙いだって」
「え、どういう意味でしょうか?」
「壺は高価だっていう奴は、笑われるみたいだぞ」
「なんでですか!壺と言えば高価なものじゃないですか!」
私が声を上げると、トーマ様とロイ君がガラスケースを前に大笑いしていた。
素人は黙ってた方が良さそうだわ、と思いつつも二人に声をかける。
「どれが高いかわかりましたか?」
すると、ロイ君があごに手を当てながら言った。
その仕草、よくオーウェン様もやってます!と思いつつ彼を見る。
「うーん……今の市場価値で言うと、たぶん布だと思うけど」
「えー!布!?ただの布ですよ!?宝石のが高いんじゃないですか!?」
私が騒ぐと、ロイ君が言った。
「この布、南の大陸で作ってるんだけどさ、特殊な織り方なんだ。昔からある技法で、元々高価なものなんだけど、最近有名なモデルがこれで作った服を着たせいで、とんでもなく需要が伸びてるんだよ。生産が追いついてないんだ」
彼の説明にほぉ~!と思っていると、トーマ様も言った。
「しかも、使われてる糸、すごく高いよね?」
「高い。見た瞬間高品質ってわかる。触ったらすごいんじゃないかな」
見ただけでわかるっていうロイ君もすごいけど、普通に会話するトーマ様もすごい。
同じことにふと気づいたらしいロイ君が、トーマ様をちらりと見る。
「……っていうかトーマも良く知ってるな。さっきのフォークといい、お前何者なんだよ?」
あら!ついに王子であることがバレますね?
そう思って見ていたら、トーマ様はにこりと微笑んで言った。
「広く浅い知識だから気にしないで。僕、実は教養科なんだ」
「教養科!?ってことは総合学科じゃん!なるほど。だから全部いけるのか」
王子バレ回避!
よかったですね!
「すごいね、トーマ君。教養科だと、将来の選択肢がすごく広いよね。なに目指すの?」
アイナちゃんが感心したように尋ねると、トーマ様は一拍置いてからこう答えた。
「うーん、それはこの三年で見つけたいなと思ってるけど」
その言葉に、私とカイル君は思わず目を合わせた。
「……将来ガッチリ決まってるのにな」
「そうですよね。何を見つけるつもりなんでしょう?」
こそこそ話す私達に、トーマ様がちらりとこちらを見て微笑んだ。
「職業選択の自由っていいよね。僕だって、その権利があってもいいと思わない?」
「……そ、そうですね」
彼の笑顔が、初めて怖く感じる私とカイル君。
「それはともかく、早く答えあわせしちゃいましょうよ!!」
カイル君が強引にテンションを上げて言うと、ロイ君が「布」とブレスレットのボタンを押した。
『正解です!素晴らしい』
わーっと盛り上がる私達と、ぐっとこぶしを握るロイ君。
カイル君が「うわ、すげー!布が一番高いの⁉」と大騒ぎしている。
すると、ブレスレットが続けた。
『正解したグループは今までゼロでした。ボーナスステージに突入します』
「……ボーナスステージ?」
急に軽い感じになったわね、と思っていたらブレスレットはこう言った。
『今から三分以内に、次に伝える場所までお越しください。グループの中の一人でも到着すればボーナスステージクリアです』
ドキドキしながら、どこへ走ればいいのかしら?と思っていると、ブレスレットがわけのわからないことを言い始めた。
『現在地マルハチ・ナントウ、マルロク・ヒガシ、ヒトフタ・ニシ、目的地キタ』
「……なにこれ。まる?ひとふた?」
「目的地、北っていってましたよ?普通にここから北でいいんですかね?」
「おーっと!これ、俺だ。トーマ様、地図ください!」
カイル君はそう言ったかと思うと「マルハチナントウ、マルロクヒガシ……」と呟きながら、地図を広げた。




