12.薬なら作れます
中庭にたどり着くと、思った以上に立派な温室があった。
色々な草花が育てられていて、綺麗に整頓された棚には、瓶詰にされた薬草なんかもあった。
「これは、どう見ても薬学科っぽくない?」
トーマ様が私を見て言う。
「そうですね、薬学科っぽいですね」
「へー!じゃあリラちゃんじゃん!」
カイル君の言葉に、アイナちゃんが目を丸くした。
「えっ!リラちゃんて薬学科でここを受けたんだ!?すごいね!ここの薬学科、すごく難しいんだよね?」
「いえ、私、薬学科で入ったんじゃないですよ」
「え?」
私の言葉に、トーマ様とカイル君が固まった。
「なんで?だって薬学科受けてたでしょ?」
「はい。受けました。でも、私は魔術科でこの学校に入ったんです」
みんなの頭に「はてなマーク」が浮かんでいるのが見えるようだった。
私、そんな難しいこと言ってないんだけどな?
「私、そもそも本命は魔術科だったんです。でもギリギリ落ちるかもしれないから、一応薬学科も受けといたんですよ。そしたら、奇跡的に魔術科に受かったんで、薬学科は辞退したんです」
ただそれだけのことなんですけどねぇ。
すると、カイル君が疑問というよりも、確認のようにそう言った。
「一応聞くけど、それってどうしてなの?」
「それはもちろんオーウェン様に近づきたいからです!魔術科から魔術師団というコースなら、オーウェン様に一番近いかなと思って」
私の言葉に、全員が「やっぱり!」という顔をしている。
「なので、今年のうちに魔術を少し勉強しておかないとまずいんですよねぇ。専門課程が始まる二年生になってからじゃ、たぶんついていけないので」
「予想を超えてリラはブレないね。本当におもしろいな」
トーマ様がしみじみとそう言った。
「……おもしろいっていうか、だいぶ変わってるんだな、リラは」
ロイ君の言葉に、アイナちゃんが苦笑していた。
「そんなことよりも、早くクイズしちゃいましょう!ほら、クイズはなんですか?薬学科問題なんですか?」
私はブレスレットをふりふりさせる。
すると、ぴかりと光ったブレスレット。
『問題。この温室にある植物を使って薬を三種類作ってください。制限時間は三十分です。毒性のものを作ったら即失格となります。ではよーい、スタート!』
「やっぱり薬学科問題だ!」
「リラ、いけるよね?」
トーマ様が面白そうに私を見た。
「そうですねぇ。ざっと見た感じ、とりあえず五種類は作れます」
「え!?」
「毒性のないものを作ればいいんですもんね?あ、眠っちゃうのって毒性に入ると思います?」
「いや……入らないと思うけど、もうちょっと普通の薬がいいんじゃないかな?」
トーマ様がそう言ったので、私は温室をもう一度見渡した。
「そうですか。基本だと傷薬と、毒消しと、化膿止めですね。あと面白い所で言うと、惚れ薬っぽいのもいけそうですよ。あとちょっと手間がかかるけど、毛生え薬もつくれます。もう少し奥の薬草を見に行ってみましょうか?あっちにある草を見てみれば、もっとおもしろいのが作れるかもしれません」
温室の奥を指さすと、カイル君が言った。
「三十分で作れるやつでいいんじゃねぇの?基本的なやつ」
「え、そうですか?つまんなくないですか?」
首をかしげる私に、トーマ様が笑いながら言った。
「いいよ、リラが好きなの作ってみせて。リラの調剤って初めて見るから」
「あ、そうでしたっけ?それじゃあ、お言葉に甘えて好きなの作りますね。みなさんは、そこの椅子にでも座って待っていてください」
オッケーをもらえたので、私はルンルンで薬草を摘み始めた。
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「彼女……すごく楽しそうだけど、大丈夫なのかな?」
ロイが不安そうな顔をしている。
視線の先には、両手いっぱいに薬草を抱えているリラ。
「大丈夫じゃない?だって普通は、三種類の薬を作るための薬草を見極める所から始めるんだから」
僕の言葉に、全員が「確かに」と納得する。
「それにね、とある伝手からこっそり聞いたんだけど、リラって薬学科の試験、主席合格だったらしいよ」
「え!?」
「それを蹴ったの!?」
目を丸くする三人。
「みたいだね。おもしろいよねぇ。そうまでして、ギリギリの魔術科に行くんだから」
集中して調剤をしているリラを見ながら、思わず笑ってしまう。
彼女は、自分の世界を狭めているのか、広げようとしているのか、よくわからない。
それでも、自分の意志を貫こうとするリラは、やっぱり僕にとってはおもしろい人物なのだ。
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「出来ました!」
私は三つの薬を机に並べた。
「シンプルにしましたよ。左から、便秘薬、毛生え薬、酔い止めです」
「そのラインナップってシンプルなのか?」
「だいぶ邪道だね!」
ロイ君の言葉に、カイル君が明るく笑う。
「でも毒はないし、いいんじゃない?なによりリラらしいし」
トーマ様がいつも通りにこにことそう言った。
うん、王子がいいならそれでよし!
「ですよね!というわけで、完成しました!」
私はブレスレットのボタンをぽちっと押した。
『お見事!合格です!』
その言葉とともに、先ほどと同じファンファーレがぴろぴろと鳴り響く。
「すごい!リラちゃんカッコよすぎる!!薬作れるんだね!」
「ただのおもしろキャラじゃなかったんだなぁ。リラって」
アイナちゃんとロイ君がすごく褒めてくれたので、なんだかとても嬉しかった。
ただ薬を作っただけで、こんなに褒められたのは、子どもの時くらいかもしれない。
「普通に薬作ってれば、オーウェン様に認められそうなもんなのになー」
「なんで気づかないんだろうね」
カイル君とトーマ様の会話は、私には全く聞こえていないのだった。




