己を見つめ直す……男として
アイラが温め直したリオの料理は流石の出来で、この世界よりも数段先を行くだけの知識が詰め込まれていた。
以前は対価をかなり搾り取られたが、今回は昼に渡した海産物のお礼らしい。ジャガイモと肉を醤油と砂糖で味付けされた肉じゃがは、家庭料理の定番。とはいえ、この世界では砂糖も貴重品で、醤油は作り手がほとんどいない。
リオが何とか再現したもので、実際のものとは多少違うらしいが、素人の俺には十分醤油だった。
異世界では普通が、この世界では至高ともいえる食となり、俺の腹を満たしてくれていた。
そのままベッドに横になり、目を瞑れば眠りに落ちるのはすぐだろう。
ただ脳裏に幾つかの事柄が浮かんでくる。
俺には幾つかの世界の知識、倫理が混ざっている。生まれは地方の農民で、魔力を見出されて帝魔へとやったきた。
下級貴族としての将来を教えられ、シャリルの生家であるメンドーサ子爵領で中流貴族の生活も垣間見た。
エトランゼ様の世界では一国を治める立場のエトランゼ様と、魔物達の生活を半年に渡って味わい、そして生まれた時から持っている異世界の記憶というのも混ざっている。
そんな中で不足している知識というのは……恋愛の経験値だ。異世界の記憶には、様々な恋愛のスタイルが『知識』として備わっていたが、『本人の経験』では無いようだった。
この世界で農民は、同世代の中で結ばれるのが普通。俺の場合は、幼馴染のメリイとそのまま結婚する可能性が高かっただろう。とはいえ思春期にも至らない子供で、恋愛のレの字も知らなかった。
そして忘れ去りたいくらいの地方領主の元でのいじめられ続けた生活。異性なんてのは、恐怖の対象でしか無い。嬉々として攻撃魔法を撃ってくる姿しか思い出せなかった。
それはある意味、帝魔に入っても同じか。
入園式でシャリルに瀕死の重症を負わされ、シャリルの側に居ることで嫉妬を買って、多くの魔術師に追い回された。
唯一心が近づいたかと思ったカガミは、カマイタチの力を得るなり、俺の側を離れて他の男と仲良くしていた。
エトランゼ様の元での半年は、そういう意味では平穏だったが、回りはみんなオスの魔物。唯一の異性であるエトランゼ様は、雲の上の存在で、崇敬の念は抱いても、恋愛の対象では当然なかった。
それはある種の暗示のせいで、それが解けた今、以前とは違う目でエトランゼ様を見てしまう事はある。
そしてこの世界に戻ってからは、アイラが側で世話を焼いてくれていて、エトランゼ様とも1つ屋根の下で生活しているのだ。
意識しないと言えばウソになる。
アイラは童顔で小柄だが、出てる所は出てて、家事全般に優れた美少女。エトランゼ様は深層の令嬢といった雰囲気ながらどことなく淫靡さを醸し出しつつ、好奇心旺盛で親しみ易くもある美少女。
俺の事を世話するペットやら、観察対象としてしか見てないかもしれないが、それでも側で暮らしているというのは嬉しいものだ。
そして不本意ながらも俺の主となっているシェリルも、外見でいうなら完成度の高い美少女だ。勝ち気そうな釣り上がり気味の瞳に、太陽の光を思わせる金色の髪。すらりとした手足に、2人に比べると胸元は慎ましやかだが、女性らしい曲線を描いている。
あとリオも派手さはないがしっかりと可愛い。異世界の知識を持つ彼女は、この世界にない身の繕い方を知っていて、垢抜けた雰囲気がある。料理人らしく清潔感はありながら、自分の良さを引き出すメイク。肌艶や髪艶の良さから、普段の手入れも怠ってはいないのだろう。
そうした女の子達に囲まれ、他愛もない会話をしながら過ごす日々は、異世界の記憶にも無く、青春しているのを感じる……そこまで色気は無いんだけど。
それと同時に自分への自信のなさも強調される。母親譲りの顔立ちは、異世界の記憶に比べればかなり優れた容姿だとは思うが、どうにも幼さ、中性的な感じがあり、どこか弱々しくも思う。
魔力が高まり、エトランゼ様の世界での暮らしで筋力もついたはずなんだが、線は細く頼りない。
魔物が跋扈し、武力がものを言う世界で、そうした見た目の弱さは、どちらかといえばマイナスだろう。
冗談混じりではあるがリオへとアプローチした際は、躊躇なく断られているし、カガミも去っていった。
俺の価値って何だろう……増していく自己嫌悪の中、俺は眠りへと落ちていた。




