手に入れていた力と難敵
4階は少し湿った気配のある回廊になっていた。足元には苔が生えていて、少し滑りやすい。薄暗い雰囲気はあるが、暗視魔法のおかげでそれほど苦はなく見通すことができる。
天然というよりは、手掘りで作られたような土壁。所々に転がる白い塊。少し大きめの破片を見ると、何かの骨であることは容易に想像できた。
「妙な雰囲気だな……」
思わず出た呟きに反応したのだろうか。白い欠片が積み重なった塊がざわざわと蠢きはじめ、みるみるうちに1つの形を作り上げた。
人体標本のような骨の人型。
「スケルトンかっ」
俺はハンドアックスを握り直して構える。砕けていた骨が見えない糸で釣り上げられ、人の形をとる姿は、不気味と言うより不思議な印象だ。
これがゾンビなんかの生身を持っていたら生理的嫌悪感や臭いによるダメージもありそうだが、骨だけが動いているというのは思ったよりも迫力を感じなかった。
カタカタと顎関節や肋骨を鳴らしながらスケルトンが迫ってくるが、その動きは俊敏とはいえない。肉のない体は、刃物で攻撃しても有効打を与えにくいが、斧は叩き割る武器。剣などに比べるとスケルトンに対しやすい。
「うりゃっ」
素手で掴みかかろうとする骨を、軽く斧で払い、手首を返して頭部へと刃を叩きつける。元々それなりの業物らしいアイラの武器に、B級となった俺の魔力強化を受けた体。想定以上の切れ味を見せて、頭を砕くどころか、スパンと耳の辺りから2つに切り分けてしまった。
頭蓋骨の上半分が斧に乗って胴体を離れ、土壁へと飛んでいく。すると見えない糸が切れたように骨はバラバラになって崩れ落ちた。
「一撃で終わるのか」
不死者と呼ばれるからにはかなりしぶといだろう印象を持っていたが、あっけない崩れっぷりに拍子抜けする。
いや俺が強くなりすぎているのか。
自惚れでもなく、あっちの世界での半年でかなりの訓練を積んでいた。オークやオーガといった身体能力で勝る相手と模擬戦をしたり、亡霊騎士のシュバインに剣技を習ったりした。今思えば体力を削りきるギリギリまでしごかれていたのを実感させられる。単純に打ち負かすだけなら、身体強化も満足にできなかった俺など、一瞬で殺されていただろう。
そこへB級の魔力を得ていることを自覚した上で、身体強化へと魔力を巡らせれば、体の軽さに驚くが、それでも制御できない事はない。
魔力を通わせない体での限界までの鍛錬は、肉体の根幹となる動きを研ぎ澄まし、そこに魔力ブーストを掛ける事で、一気に底上げされた感じだ。
異世界の記憶で、わざわざ重りを付けて修行したり戦ったりするモノがあったが、それに近いというか、それ以上の効果があるようだ。
「気功で身体能力何倍とかって世界だな」
となると周囲の環境から魔力を集めて、巨大な魔法を起動させることができるかもしれない……と思ったが、今の魔法陣を使った魔法で既に近いことをやっていた。
魔法陣に込めた魔力は周囲の魔素を取り込み、術式として発動させているのだ。
異世界の記憶のように、周囲の範囲を惑星規模に、行きとし生けるもの全てから集められたら莫大な魔力になるのだろうが、それを制御する魔法陣なり、術式を整えるにはそれだけで膨大なコストが掛かるだろう。
「使う局面もないだろうしな……」
地形を変えるような魔力を放つ状況が想定できない。まあ、シャリルが見せた魔法もかなりオーバーキル的なものだったけど。A級が本気で魔法合戦でもしようものなら、地形はズタボロに変形するんだろうな……。
そんな自体にならなければいいが。
4階の敵ではすでに満足できない体になっている事を実感した俺は、そのまま5階へと向かう。この辺の地図は既にアイラから受け取っていた。いいのかと思ったが、確かに糧にならないスケルトンはびこる4階を探索して時間を使うのは勿体ない。
早く稼げというのが、アイラの意図だろう。
そして立ち入った5階は、難敵に遭遇したのでスルーして6階を目指す事になる。妙に高い天井のフロアで、上空から敵が襲ってくる階だった。
今の魔力なら、空から来る敵を撃ち落とすのに問題はないのだが、相手が問題だった。
その階の敵はハーピーと呼ばれる有翼人種だ。空を飛び回る厄介な敵であるが、もっと厄介なのが上半身が女性であるということだ。
しかも衣服を着る習慣がないらしい。
見た目は20歳くらいの結構な美人が、形の良い乳房をバインバイン揺らしながら襲ってくるのだ。思春期の少年にそれを静止しながら、しかも傷つけ倒すなんて事はできそうにない。
俺は逃げるように6階へと駆け上った。




