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久しぶりのダンジョン

「そんな装備で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない」


 ダンジョンの入り口にいる受付係に問われた俺は、そう答えていた。

 学生服からジャージに着替えて、ハンドアックスを下げただけの姿。とてもダンジョンに潜る格好ではない。


「久々だからそんなに潜る気はないですから」

「ゴブリンの巣窟から生還したのは聞いているが、くれぐれも無理はするなよ」


 いつの間にそんな話が広がったのか。

 一応、ファーレン伯爵達との口裏併せは行っていたので、その辺から通達があったのかもしれない。

 それなりに逞しく生きてきたという事にしているので、久々のダンジョンでも止められる事はなかった。



「闇夜に潜む猫の瞳、その見通す世界を我が物に。ナイトビジョン


 松明もランタンも持っていない俺は、暗視魔法で周囲を見渡す。半年前と比べても変化はない、ただのダンジョンのようだ。

 まあ、当然か。

 このダンジョンについては色々と不自然な点があり、確認したい事があった。俺は1階の奥へと進んでいく。



「ギュワワーッ」

「まて、話せば分かる!」


 襲い来るレプラコーンの攻撃を避けながら、説得を試みる。あっちの世界でゴブリンやオーク達の言葉を、覚えていた。エトランゼ様の洗脳中、テレパシーに近い感覚で相手の言っている意味が自然と理解できたので、言葉の意味を覚えるのにさほど時間はかからなかったのだ。

 そしてレプラコーンとの会話を試みている訳だが、ゴブリン語もオーク語もマーマン語もバードマン語もリザードマン語も妖精語もケンタウロス語もミノタウロス語も、全く通じていない。

 というか、相手は奇声をあげるだけで、そこに会話を試みようという素振りすら見せなった。それはレプラコーン間でも同じなようで、互いに顔を見合わせてギャワギャワ言っているが、会話しているように見せかけているだけで、そこに意味のある言葉は交わされていない。


「まるでゲームの中の魔物に、適当にそれっぽい音声を付けただけのような……」


 そう感じるくらい鳴き声のバリエーションは少ない。ここの魔物は死んだら魔石だけを残して肉体が消えてしまうが、メンドーサ領で戦ったオークや、エトランゼ様の世界で戦った魔物は、死んでも肉体が残っていた。

 その事から、このダンジョン内の魔物というのは幻影のようなモノではないかと考えている。

 しかし、殴られたら痛いし、斬れば手応えもある。魔素を蓄えれば、大きくなって強さも増す。単純な幻影とも違うようだ。


「話し合いは無理っぽいか。そもそも思考がルーチンなんだよな」


 一定距離に近づいたら寄ってくる。戦っていると仲間を呼ぶ。連携をとっている様子はなく、戦うか逃げるかの2択で、戦闘中に工夫する様子もない。

 エトランゼ様の世界でオークが見せたような、沼に丸太の橋を渡すような事はこのダンジョンのオークはしないんじゃないかと思う。


「つまりここはあくまでも訓練用の施設って事だな。魔物が自然発生するのではなく、システム的にポップさせている……」


 そう考えると凄い技術が使われている事になる。人工的にS級を退ける魔物が下層には配置されている事になり、それを戦力として転用できるとなれば、一国の軍隊はおろか、世界を相手にして戦えるくらいの力もあるかもしれない。


「いったい帝魔って何なんだろうな」


 俺はシミュレーションとして生み出されたらしいレプラコーンにトドメを刺し、魔石を回収した。続けざまに剣技……斧技? のみで襲ってきた集団の半数を片付けると、相手は逃げていく。

 魔力が上がったことを意識して、手足に配る魔力を底上げすると、体が軽くなったのを感じる。

 あっちの世界では魔力量の増加を認識できていなかったから、勝手にセーブして少ない魔力量しか肉体強化に使えてなかったようだ。

 B級の魔力を手に入れていた今、意識して魔力を通わせれば、アイラに匹敵するかそれを凌駕するくらいの身体能力が出せるはずだ。

 まあ、感覚が伴わないと危険なので徐々に慣らしていく必要はある。そのためのダンジョン探索とも言えた。


「階層に応じて敵の強さが変わっていく。まさにRPGな作りだよな」


 リオが異世界の料理知識を持っていたように、このダンジョンの設計者もまた異世界の知識を持っていたのではないかと思う。

 思えば制服のデザインや魔石で走る馬車など、この世界ではまだ到達しないであろう技術が垣間見えるのは、そうした異世界の知識を持つ者が複数いることの証明に思えてきた。

 そう考えると、帝魔はそうした技術を馴染ませる為の試験場としての意味もあるのか?

 このゲームじみたダンジョンも、何らかの試験場か、訓練場か。魔物を倒せる人材を育成する意味では確かに有用な設備と言える。


 ただ魔物にも知性があって、それぞれに生きている事を知った今、倒すべき相手として魔物が配置されている事に違和感を感じてしまう。

 暴走ランペイジでやってくる魔物は理性を失っていて、放っておくと甚大な被害を与える災害とも呼べる存在。それに対処するべく訓練を積むことは間違って無いことも分かる。

 この世界で被害を防ぐなら正しいだろう。

 なまじエトランゼ様の世界を知ってしまったがゆえの葛藤。それを払拭することはできるだろうか。


 そんな事を考えながら、俺は一気に4階へと足を踏み入れていた。

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