授業とランチ
久々の授業はかなり実践的なものになっていた。半年前は魔法を確実に使うための暗唱などが多かったのだが、今は戦闘中にどうやって魔力を使っていくかという話がメインになっている。
実際、ダンジョンに潜っている者にとってはかなり納得できる話だ。
魔物の種類によって効きやすい魔法は違うし、中には魔法をほとんど受け付けないモノもいる。そうした場合にどうやって対処するか。
下手な撃破を狙わずに、逃げるための魔法術をメインに教えているのは、E級は基本的に弱者だからだろう。
その他、水魔法から飲水を確保する方法であったり、火を使う時の注意点など、ダンジョン内のサバイバル術などの講義もあって、ダンジョンに限らず用途がありそうな知識を教えていた。
昼休みになって昼食をどうするかと思っていると、お迎えが来ていた。これもまた懐かしい感覚で思ったより忌避感がない。
「参りましょう」
「ああ」
学園内でもメイド服のままであるアイラに誘われて、食堂へと向かう。そこには既にエトランゼ様が合流していて、テーブルにスタンバイしていた。
「レント!」
そしてもう1人、嬉しそうな声で俺の名前を呼ぶ女の子がいた。涙を浮かべながら駆け寄ってくる。彼女もそうとう心配してくれていたのか。
両手を広げて迎え入れる準備をする。
「リオ!」
「レント!」
満面の笑みであと一歩の距離、そこから腰をひねってタメを作ると、鋭い一撃が俺の鼻面を襲ってきた。
「ぶふっ」
予想外の一撃に、まともに食らってしまう俺。
「いったーっ」
そう言って顔をしかめるのはリオの方だ。暴力には慣れてないのだろう、殴った手をプラプラさせている。その手には厚手の鍋つかみをはめているのは、せめてもの情けか……というか、何で殴られにゃならんのだ。
「次からは麺棒にするか。料理人が手を痛めたら大変だからね」
「いやいや、麺棒とか単なる凶器だからっ! というか、何で俺は殴られてるんだよ!?」
その言葉にリオはじとっとした視線を送ってくる。
「アンタがいなくなったおかげで私がどれだけ苦労したか。軟水が無いから和食の研究は進まないし、ラーメンの味も変わるし。お嬢様には、前の方が美味しかったと言われる始末……どうしてくれるのよっ」
「いや、俺だって色々と大変だったんだぞ」
「そんなの知らないわ。私のために出すもの出しなさいよっ。ほらっ、さっさと行くわよ」
「ちょっ、おまっ、なっ」
反論虚しく、襟首を掴まれ引きずられる。魔力もなく華奢に見えるリオのどこにそんな力があったのか……もちろん、魔力を使って全力で抵抗すれば脱する事はできるだろうが、そこまでする必要もない。
大人しく厨房まで引きずられていった。
それから大量の軟水を作り出す作業が課された。以前と比べると魔力量が上がっているので、少し術式を改造。時間あたりの抽出量を増やせたので、思ったよりは時間が掛からなかったのが救いだが、またいなくなった時のためと、保管できるように凍った状態の物も用意させられ、それなりに苦労した。
「「ごちそうさまでした」」
シャリルと俺は図らずも同じタイミングで食べ終えてしまい、声がハモってしまった。ここで何か言えばドツボにハマると、意識を逸してエトランゼ様を見る。するとスプーンを手に硬直していた。目の前にあるのはプリンか?
「エトランゼ様、どうかしましたか?」
ギギギと音がしそうなくらいぎこちない感じで、首だけをこちらに向けたエトランゼ様は、瞳孔が開いたような虚ろな瞳で俺を見返してきた。
「え、エトランゼ様!?」
「なんて……なんて物を、食わしてくれたのですか……」
視線は手元のプリンへと落ちる。震える手でプルプルとした柔らかなそれを掬い、危うさを見せながら口へと運ぶ。すると電気が走ったかの様に身を震わせ、ん〜という押し殺した声を漏らしながら、身悶えている。
よほどお気に召したという事だろう。我を忘れて堪能している。
ひと掬い、ひと掬いを大事そうに味わっていて、かなり時間がかかりそうだった。
俺はエトランゼ様と再び別れて、ダンジョンへと向かうことにした。以前は、食事の後に散歩と言う名の引き回しの刑があったが、それはもういいとの事。俺がシャリルに所有されているという情報が広まったからか……。解放された喜びと、何とも言えない虚無感が俺を襲った。
「ま、とりあえずは久々のダンジョンだな」
リオにかなり魔力を使わされたが、以前の比ではない魔力を得た俺。その実力を早く試したかった。
あっちの世界では防具らしい防具もなく、武器もゴブリンに借りていた錆の浮いた剣のみ。魔法だけでも戦えるとは思うが、やはり不安はあったので、アイラにハンドアックスを借りた。補助武器として投げても使えるタイプの武器だ。以前、モスコバー領でオークと戦う時にも借りていたので、使い方は分かっている。
「それじゃ、行ってみますか」




