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懐かしの我が家

「なん……だと?」


 エトランゼ様を伴って、半年ぶりに自分の部屋へと戻ってきた俺は、その扉に貼られた『空き室』の貼り紙に呆然となってしまった。

 図書館からの帰り道、この世界で魔族とバレるとどうなるか分からないという危険性を解きながら、懐かしさを感じる街を案内して借りているアパートへと戻ってきていた。

 しかし無情にも貼り紙がなされ、俺の持っている鍵では開かない錠前が付けられていた。


「お、お前、レントか!?」


 扉の前で呆然とする俺に話しかけて来たのは、隣室の生徒だった。半年ぶりに見るその姿はダンジョンで鍛え上げられたのか、手足が太く、一回り逞しくなっているように感じた。


「ニコルソン、久しぶりだな」

「ば、化けて出てきたか。俺が成仏させてやるからなっ」

「待て待て、勝手に殺すな、退治しようとするなっ」


 両手持ちの杖で殴りかかってくるニコルソンを相手に、掴み合いになってゴロゴロと地面を転げ回り、何とか組み敷くことに成功。やはり、場数を踏んでいるのか以前よりもかなり逞しい。

 まあ、実戦経験では俺のほうが上だけどなっ。


「ひいっ、呪わないでくれっ」

「何で呪うんだよ。どうせ呪うなら、シャリルを呪いに行くよ」

「それもそうか。頑張れよ」

「おう……ってそうじゃねーよ。俺はまだ生きてっからよ」

「そういえば実体があるな……ってか重いよ」

「ああ、すまん」


 俺はニコルソンの上からどいて、手を貸して起き上がらせてやる。


「でだ。俺の部屋が空き室になってて入れないんだが、何か知ってるか?」

「そりゃお前、半年も行方不明だったから、『休学』処理されたんだよ」

「休学?」


 ニコルソンは帝魔の制度をあまりにも知らない俺に、詳しく説明してくれた。

 帝魔は放課後のダンジョン探索など、それなりに危険を伴う活動がある。そのため、毎年のように行方不明者も出てしまうのだ。

 特に帝魔で成績を収めないと将来が不安な低級の生徒が陥るケースが多い。D級で没落寸前のカガミが無理して死んでいたのも、俺が見つけなかったら行方不明者扱いになっていただろう。

 帰ってこない可能性も高かったりするが、帝魔側ではあくまでも未帰還者として扱い、帰ってくる可能性を残して、3ヶ月ほど過ぎた場合は『休学』として処理される。

 とはいえ貸し出している建物などを放置すると帰らぬ者の為の部屋だらけになってしまうので、休学となった段階で不動産管理部には空き室として、他の生徒に貸し出せる状況になるらしい。


「こんな場末のE級用家屋なんて、新入生が入るまで入居者なんていないだろうに……」

「まあ、入学準備でバタバタする時にまとめてってのは大変なんだろ」

「で、これはどうしたらいいんだ?」

「帝魔の方に復学処理してもらうんだろうな。知らんけど」


 休学に関しては俺がいなくなった事で身近になって調べたが、そこからの復帰については考えてなかったから、ニコルソンも知らないらしい。

 帝魔の事務所に行くしかないか。



「で、どうですの?」

「ちょっと手続きが必要そうです」

「!?」


 いつの間にか姿を消していたエトランゼ様は、アパートの周囲を散策していたらしい。アパートの裏手からテクテクと歩いて近づいてきた。


「だ、誰だよ、その美人!?」

「俺の命の恩人だよ。帝魔に興味があるらしいから、連れてきたんだ」

「お、俺達が心配して暮らしている間、お前は女の子と!」

「そんな心配してくれてたのか、すまん」

「そんな言葉で騙されないぞ。誰だ、その子。見るからに貴族だよな。なのに学園の生徒でもなさそうだぞ!?」

「それは、まぁ、そうなんだけど」

「おいおい、分かってるのか。帝国でもこの帝魔は国家機密の塊だぞ。余所者がまぎれてると知られたら、衛兵はおろか、上位の先生達まで襲ってくるぞ!」

「え……」


 そういえば、帝魔は転移陣でしか出入りができず、そこには常に衛兵が立っている。それはこの帝魔という空間が、外よりも格段に技術が進んだ魔法都市だからだ。

 新しい技術を開発し、数世代前の物がようやく市場に出回る事になる。首都で乗ったサスペンションが入った馬車も、帝魔内では魔力を動力にゴムタイヤがついた車が走ってたりするのだ……まあ、流石に研究機関での話だが。

 それだけに機密漏洩に関する規約は多い。

 里帰りする際にも余計な物は持って出られないように検査があるのだ。

 ただシャリルがそうだったように、転移魔法が使えたら検査をくぐり抜けることはできてしまう。そのために様々な規約が、帝魔に入学する際の書類に記載されていた。

 もし検査を受けてない国外の者を招き入れた事がわかったとなれば、処分は免れないだろう。


「ど、どどど、どうしよう!?」


 魔族とか人間とかの問題じゃなく、部外者を入れるだけで重罪だった。もちろん、今のエトランゼ様を一見しても、生徒と変わらない年齢に見える。しかし、身分証の提示を求められたらそれでアウトだ。

 というか、俺自身が身分証なんて失って久しいぞ。衛兵や教員に見つかったら終わる。

 どうしたらいいんだ!

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