アイラの説得
「わかりました。それを条件にお嬢様に説明してきます。まだ我儘を言うようなら、お嬢様を置いて帰りましょう」
そう言ってにっこりと笑ったアイラは、まだ本調子ではないので、しっかりと休んで置いてくださいと言い残して、部屋を出ていった。
残された俺は大人しくベッドへと寝転がるが、局所的な元気さに休まるどころではない。というか、寝転がった事で使用者の仄かな甘い匂いに包まれてしまったようだ。
「ごめん、アイラ……」
俺は居なくなった少女に謝罪の言葉を述べて、元気すぎるソコをなだめる事にした。
エトランゼ様の元に来てから半年。思い起こせば、そうした欲望を抱くこともなかった。周囲が魔物ばかり、それもオスばかりだったのも一因だろうか。
エトランゼ様自身はとても美しかったが、容姿は幼く、神々しい、ある種の信仰の対象のような存在だった。それが洗脳されていたということなのだろうが、邪な欲望を抱くことはなかったのだ。
しかし、その洗脳が解けて、更にはアイラの言うところのエトランゼ様の毒素にあてられてしまうと、我慢できるものではない。
先程まで治療してくれたアイラ、背後から抱きしめるように介抱してくれていたので、背中に柔らかな感触が残るようだった。
その少し前、俺を組み伏していたシャリルの太ももが、ずっと俺にのしかかっていた。柔らかく熱を持つ体が、密着していたのが思い起こされる。
そして一気に成長を見せたエトランゼ様。幼さがなくなり妖艶な美貌をたたえ、漂う色香。華奢ながら出るとこは出るという反則ボディ。思い起こすだけでますます元気になってしまうというもの……。
アイラの部屋であるというにも関わらず、たっぷりと慰めてしまった。
久方ぶりの賢者モードにまったりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「レント様、失礼いたします。お嬢様方を連れてまいりした」
扉を開けたアイラは、その場でスンスンと鼻を鳴らした。まずい、この部屋には男の臭いが充満している!?
「の、喉が渇いたから、食堂の方に行こうか」
「はい、分かりました」
つつっと視線を逸したアイラには、色々と察せられたことだろう……。
改めて食堂で話の続きをする事になった。
シャリルは釘を刺されているのか、不満そうな顔をしつつも黙っている。
一方、銀髪の姫君もお澄ましモードで俺が用意したハーブティーを飲んでいた。かつてのローティーンの少女ではなく、さりとて先程見せた妖艶な美女でもなく、ちょうどその中間といったミドルティーンの美少女の姿になっていた。普段から好んで着ている黒のゴシックドレスに身を包んでいるが、メリハリのある体つきに変わっている。
「という事で、これがその指輪と発動用の呪文になります」
俺の側に来たアイラが、元の世界とこの世界を繋ぐ指輪と呪文を書いた紙を、俺の前に置いた。
シャリルが多少の条件を飲んでも俺に帰って欲しいのは、自分の野望のためなのだろう。皇帝になって国を変える……だいそれた野望だが、A級魔術師にして将来を期待される彼女には不可能ではない。
そのためのパーツとして、俺も勘定に入っているらしい。
そして呪文が書かれた紙を見て、その用紙の方に気を取られた。帝魔の図書館で使われるメモ書きだ。筆跡にも見覚えがある。
「これって司書の方の字ですね」
「ええ、指輪の解析を図書館に依頼したのよ」
図書館で魔法陣なんかを調べてもらった司書の人か。彼にはちょこちょこ調査を依頼して、アイデアをもらったりもしていた。
この指輪で世界を行き来できるようになったら、ちゃんと挨拶に行かないとだな。
「時空の間に在りし扉、その不可視の門を開く鍵とならん……か」
指輪自体が鍵として、時空を隔てた扉を開くイメージなんだな。ぱっと見では、特に簡素化する部分も見当たらない。魔力を効率よく使えたら、シャリルほどの魔力は必要ないはずなんだが……。
「とにかく、その指輪と使い方を教えたんだから、ちゃんと帰って来なさいよね……ってゆーか、私達を送り届ける義務があるのよ?」
「わかってるよ。一度は戻るつもりだから、そこは心配しなくてもいい。という事で、エトランゼ様、俺は一時的に元の世界に戻りますが、必ず戻って来ますので少々お待ち下さい」
「嫌ですわ」
即答ですか!?
「エトランゼ様。レント様にとって、この世界は毒素に満ちた場所です。今までは洗脳もあって暴走していませんが、魔素に蝕まれるままでは、精神が壊れてしまいます」
「分かっています」
「まさかまた洗脳するおつもりですか!?」
アイラがエトランゼ様に強い口調で問い詰める。それに対してエトランゼ様は静かに首を振った。
「もう人間を洗脳するような真似はしません」
「ではどうするつもりですか?」
ぐぐっとアイラが身構える。返答いかんではという姿勢だろうが、今は姿の見えないシュバインも側に控えたいるだろう。一触即発の雰囲気に、俺はどう対応すべきか思案を巡らせる。
「私が嫌だと言ったのは、『待つ』という事です」
「「?」」
「私も人間について行きます」




