二人の主張
魔力を練り始めたエトランゼ様の変化はすぐに現れ始めた。小柄な体がみるみるうちに膨らんでいく。
120cmほどのローティーンの少女が、170cmほどのスラリとした大人の女性へと。顔立ちも丸みを帯びた少女から、切れ長の涼やかな目元にすっと鼻筋の通った絶世の美女へと。
そして薄手のワンピースに包まれていた華奢な体も、内側から弾けんばかりに衣服を押し上げ、ピチピチに張り詰めていく。肩紐が片方ずり落ちた状態だったので、押し上げる圧力が逃れようとより弛い箇所へと力は集まる。
今にもこぼれ落ちんばかりに張り詰めた軟肉が、ついにその限界を超えて……。
「ぎゃあーっ、目がっ目がぁっ」
唐突に訪れた暗闇と、それと共に始まった痛みに、俺は両目を抑えながら床を転がった。
「あからさまな魅了にかかってるんじゃないわよ!」
「あら、これは魔法ではなくて、私自身の魅力ですわよ。何の魔力も持たない……でも、殿方の視線は釘付けにしてしまいますわね」
噛み付くようなシャリルの声に、落ち着いたトーンで少し低くなったエトランゼ様の声。
どうやらシャリルによって目潰しを食らったらしい。呪文は聞こえなかったから、物理攻撃か。それでもA級魔術師の強化された体による急所への一撃。目玉がえぐり取られていてもおかしくない。
後から後から涙が溢れ出て、目を開けることは叶わなかった。いや瞳から溢れる液体は涙じゃなくて、血かもしれない。それを確認しようにも見ることは叶わないのだが。
「血も涙もない小娘の元へ戻る必要はありませんわ。私と共に国を作ってまいりましょう?」
ふわりと温かな感触に包まれたかと思うと、耳元に柔らかな声が届く。鼻腔にはなんとも言えない甘い匂いが充満し、ドドドドと鼓動がどんどん高まってしまう。
エトランゼ様に抱きしめられている!?
しかし、この柔らかな感触は……まさか成長した姿にあったふくよかな……。
「惑わされちゃ駄目よ、この淫魔の洗脳なんかにやられちゃ駄目!」
「ヘゲブッ」
ズガーンと頭に衝撃が走る。乱暴に振り回されたかと思うと、冷たく硬い床へと打ち付けられていた。
あまりの痛みに目から火花が散る。しかし、その拍子に再び目を開ける事ができた。
俺を床に組み伏したシャリルが、エトランゼ様を睨みつけているようだ。
「貴女、そんなに乱暴にしたら人間が壊れてしまいますわ」
「大丈夫よ、こいつは丈夫だから。多少壊れても治してあげるしね」
そんな自分勝手な論理を振りかざすシャリルに、俺は最大限の抵抗を試みる。しかし、強化されたシャリルの筋力は俺の動きを完全の封じていた。
「ちょっと、もぞもぞ動かないでよ。どさくさに紛れて、変なとこ触らないで、変態」
「お前がどけばいいだろうがっ」
魔法で力は強くなっているが、その体は女の子の柔らかさを保ったまま。もがけば何とも言えない柔らかさに押しつぶされてしまう。
ただそんな感触を楽しむ余裕なんてあるはずもなく、何とか逃げ出そうど全身をくねらせた。
「いい加減にしなさいっ」
「ゲベェッ」
背中の肩甲骨の間辺りに、重たい衝撃が走り、体の感覚が薄れてしまった。どうにも力が入らずに、身動きが取れなくなってしまう。
「背骨に麻痺術を打ち込んだわ。大人しくしてなさい」
「な、なんふぇ、こふぉを」
麻痺術のせいか、呂律も怪しくなってしまった。そんな俺の様子に満足したのか、シャリルは改めてエトランゼ様へと向き直る。
「コレは、私のモノなの。対価を支払うまでは、私が好きにする権利があるのよ」
「それを言うなら、私はこの半年の間、ずっと人間を世話してきましたわ。その代償は受け取っていませんもの。取り立てる権利がありますわ」
俺の所有権を巡って二人の美少女が争っている。それだけとると何とも男冥利に尽きるというか、モテモテ状況に喜びそうなものだが、実際は借金のカタやら、世話した代償やら、損得勘定による争奪で艶っぽさは感じられない。
更には言い争いがヒートアップするにつれて、俺を押さえつけるシャリルの力が増していく。血の巡りが悪くなり、ドクドクという血液を送り出すポンプの音がやけに大きく聞こえ始め、それとは逆に意識が遠のこうとしていた。




