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暴走からの出来事

「じゃあ、アンタはこの世界に残るつもりなの?」


 シャリルの問いかけに元の世界のことを思い出す。シャリルに飼われていたのは腹立たしいが、元の世界には実家や出身村があり、多大に期待をかけてくれていた。農業の発展も中途半端で、こちらで手に入れた魔素を利用した栽培法なども試したいところだ。

 この世界でやり残した事は多いが、元の世界に未練が無いかと問われればあるとしか言えない。


「……そう言えば、シャリルはどうやってここに来たんだ?」

「そうね、その辺りの話をしておきましょうか」


 私がどれだけ苦労したかもねと付け加えて、シャリルの説明が始まった。




 暴走ランペイジによって出現したオークの群れ。それを統率していたらしきオークの首領、そいつは魔法を無効化する能力を持っていた。

 戦闘中にそれが手にはめた指輪だと憶測を立てて、最後の攻撃でアイラが見事に手首ごと指輪を切り離した。

 予想外だったのはその後、主の元を離れた指輪が溜め込んでいた魔力を一気に解放したのだ。それにより高濃度の魔素で辺りが覆われ、次元に歪みが生じる。元々暴走は異世界から魔物がやってくる現象だと解析されていたので、その歪みが異世界に繋がっているとの予測も比較的容易に立てられた。


 指輪に蓄えられていた魔力から生じた魔素、それに伴って現れた次元の歪み。それはやはり無理のあるモノで不安定。周囲の物質を取り込んで激しく揺らぎ、僅かな時間で閉じてしまった。

 残されたのは呆然と成り行きを見守るしかなかったシャリル達と、オークが付けていた指輪だけ。俺や生き残りのオークの大半は、異世界へと飛ばされていた。

 シャリルは残された指輪を帝魔へと持ち帰り、研究機関での調査を依頼。吸収した魔素により、次元に歪を作って2つの世界を繋ぐ事のできるモノらしいと判明するのに3ヶ月。そこからシャリルが魔素を貯める為に定期的に魔法を吸収させて、ようやく次元の扉を開くことができたらしい。



「そんなのダンジョンの中に置いてくれば、自然と溜まったんじゃないのか?」

「それだと溜まりが遅いし、いつ溜まりきるかも分からない。研究も終わった訳じゃないから色々と不都合だったのよ」

「で、帰る分の魔素は既に貯めてあると」

「何とかね」


 軍勢を移転する訳ではないので、年単位のチャージは必要ないとの事だが、それでもA級魔法を何発も吸い込んでようやく繋がるという話か。

 しかし、逆を言えば定期的に世界を行き来できるということでもあった。


 そこにエトランゼ様から植えられたこの世界の知識と結びつける。この世界における暴走ランペイジというのは、種族間の大きな争いが起こった時に、大量の魔物が死ぬ。

 それで生まれた魔素が濃縮されて次元の歪みが生じるようだ。俺がエトランゼ様に拾われたのも、そうした大きめの戦が行われた現場近くらしい。

 争いの原因は、主に魔素不足による飢餓。種族の繁殖過多によりテリトリーが重なる事で起こる。戦にならなければ、大気の魔素を種族内で奪い合う形で死に至るため、僅かな希望の為に領土を広げる戦いへと乗り出すしかなくなる。

 そして戦いが起これば大量の死者が出て、その死骸からは魔物に蓄えられていた魔素が解放されて大気に戻る。それで魔素が欠乏する状況から脱する事はできた。

 ただ戦いのさなか、濃度の増した魔素を浴びていれば、魔物とて精神に異常をきたし、次元に歪みが生じるだけの魔素が貯まる頃には、理性を失った状態に陥っているらしい。

 なのであちらの世界で暴走が発生すると、本能のままに遅い来る魔物の群れと化してしまうようだ。


「ただその指輪が魔素を吸い上げていたとすると、その周辺は理性を保ったまま転移できたのかもしれませんわね」

「オーク達は定期的に訪れる種族の危機を、異世界に渡ることで解消しようと企んだのか?」

「さほど魔法に詳しくないオークが考える事ではなさそうですわ。誰か裏で実験をしている方がおられるようですわ」

「異世界侵攻を狙う魔法に詳しい者……そんな奴がいるのか?」

「わかりませんわ。わたくしとてこの世界の全てを知るわけではありませんもの」


「つ、つまりソレって、暴走なんかよりもっとたちの悪い魔物の襲撃があるって事!?」

「そうだな。この指輪が複数存在して、十分な魔素が貯まったところで使用すれば、軍勢規模の侵攻もあり得る話だ」

「そ、そんな……」


 定期的に暴走の起こるメンドーサ子爵領はともかく、滅多に暴走が起こらない隣領では対応が遅れて酷い惨状になっていた。

 そこに向かったオークの群れが、リーダーに指揮された一団だった事も被害を大きくした原因だろう。

 備えの無い所に、様々な魔物を率いた軍勢が現れたとしたら、あちらの世界は大混乱となってしまうはずだ。

 魔素の濃いこの世界で育った魔物は、帝魔のダンジョンや野良の魔物に比べて強い。それが組織立って攻めてくれば、貴族間で小競り合い程度しかやってこなかったあっちの世界がどうなるか。



「やっぱり私の野望の為に、アンタが必要だわ」


 シャリルは物騒な事をぽつりと呟いた。

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