中央砦の秘策
「出番だ、放流」
「アイアイサー!」
半魚人達が砦前にできた沼へと続く水路の門を開けた。するとより広い場所を求めて、中にいた黒い魚影が泳ぎ出していく。それらは砦の壁の地下を通り、沼地へと放たれる。
黒く平たい魚影は、沼地の底を漂い、己のテリトリーを定めて広がりスタンバイに入る。
泳ぎ出た魚影は、電気アンコウと呼ばれる魚だった。その名の通り体内に蓄積した電気を放電して餌を取る魚だ。小魚だとショック死する事もあるが、オークを食い止める程の電力量は持たない。
しかし、脅かす程度の混乱は期待できる。
半魚人達が調教を施し、ある合図で一斉に放電が行われた。丸太の橋が架かっているとはいえ、オークの体重で半ば沈み、くるぶしの辺りまでは常に水に浸かっている。そこに電流が流れると、面白いようにオーク達が飛び跳ねた。
足場の悪い丸太橋、そこでピョンピョンと飛び跳ねたオークの中には、バランスを失って沼に落ちる者も出てくる。そこには電気アンコウが待ち受け、更なる電流を浴びせられる事になった。
丸太から落ちなかった者も体勢を崩し、進軍のペースが落ちる。そうして時間的余裕を作って、砦前のオークを片付ける事ができた。もうしばらくはオークの進軍を堪える事ができるだろう。
それと同時に俺はもう一つの策を進める。半魚人が生み出した水は、真水と言うより海水に近く、その中には様々な成分が混ざっていた。
その為、電気アンコウも元気に泳ぎ回るし、電流も流れ易いのだ。
そして水に一定量の電気が流れていると、化学反応が起こる。異世界の実験で比較的ポピュラーな電気分解だ。
水を構成する要素は水素と酸素。それをナトリウムなどを媒介にして分離すると、それぞれの気体となって沸き出す。本来なら気密性の高いガラスの容器などに集めないと、すぐに撹拌されて大気に溶け込んでしまうが、この世界には魔法がある。
「ウインドブロウ・ハイドロスフィア」
浮かび上がる水素のみを球状の塊にして、オークの集団の中へと撃ち込む。それだけでは単なるそよ風に過ぎす、ダメージを与える事などできない。
しかし、水素という気体は酸化作用が激しい。僅かな火花があるだけで、一気に熱量を放出する。
俺はそうして集めた水素の塊を指差し、近くのゴブリンに火矢を射掛けさせた。目印もなく適当に射掛けさせたが、近くに熱源が来ることで簡単に引火させることができた。
先の火計の失敗もあり、水素の塊はそれほど大きくはしていない。オークに引火するほどの熱量は与えないままに、それでも周囲の空気を一気に膨張させて拡散する。
爆発系の魔法のように、周囲に熱波を放ちながら暴風を発し、オークの群れを吹き飛ばした。
橋を渡るために密集していたオークは、爆発点から将棋倒しに薙ぎ払われる。水素の量を加減した事もあって、その熱波は砦までやってくる頃には熱も冷めていて、味方が火傷をするような事態にはならなかった。
「よし、続けていくぞ。次はあそこだ」
俺が指差す先に火矢が放たれ、着弾点で爆発が起こる。目に見えない気体が爆発する状況は、魔法とよく似ていた。矢を射るゴブリン達はよく分かってないのだろうが、自分達の攻撃がオーク達を薙ぎ払うのを見て、かなり喜んでいる。
やがて丸太の橋自体もダメージが蓄積されて分断されていき、オークの進軍が途切れていく。
後は巨人族達が殲滅を行い、中央線線も俺達の勝利で決着がつきそうだ。
その時、有翼人種から一報が入った。
「左翼、壊滅」
「何!? どういう事だ?」
芋の投擲で戦闘意欲が減衰して、最も安定した状況で推移していた左翼がいきなり壊滅したとの報告に、俺は中央の指揮を仲間に任せて左翼へと走り出した。




