火計の惨状
豆木の束を種火に酸素を過剰に供給、熱量の上がった炎は周囲のオーク達に引火する。熱された空気が上昇気流を起こして、周囲の空気を引き寄せ、上空へと吸い上げる。
しかし、燃料となるオーク達の数が増え、熱された空気が一気に膨張していく。風魔法で周囲から風を送り込んでいた事で、上空へのみ逃げていた圧は、やがて風魔法の限界を越える。
すると熱された空気は爆発して、周囲へと広がった。
オークを燃やすほどの熱量。一気に膨張した空気。爆発した勢いで、今までは魔法の圏外にいたオーク達もまた熱に晒され、引火する。
流石に範囲が広がる程に熱量は下がり、引火する程ではなくなるが、熱された空気を吸い込んだ生き物は、肺を焼かれてしまう。呼吸を奪われた生き物の命が刈り取られるのに、さほどの時間は必要なかった。
「これほど……か」
ほんの数分のうちに起こった出来事。途中で膨張した空気に押されてゴロゴロと転がった俺は、自分の周囲に風魔法の防御膜を張ることで、肺が焼かれる事態は免れていた。
そして振り返ってその惨状を見てしまうと、己のやった事の大きさを知る。
火計の中心部分は燃え尽きた黒い塊が幾つも転がり、そこから離れるにつれて原型を残していくが、既に事切れたオーク達が転がっていた。
安全距離を予測して始めたので、砦の壁が燃え上がるような事は無かったようだが、遠目には現状を確認できない。
「ウィッチャー、どうなった?」
「オークの軍勢、撃破。砦内、敵影、少数」
上空を飛ぶ有翼人種から報告が入る。
「味方の被害は?」
「詳細不明。砦内、侵入したオーク、掃討中」
掃討を行えているという事は、まだ戦える者がいるということか。オーガ達は大丈夫だったのだろう。
問題は壁の上で射手を務めていたゴブリン達か。熱波をまともに食らっていたら、オーク達と同じように肺を焼かれている可能性はある。
「ゴブリン達の様子を確認してくれ。俺もすぐに戻る」
「了解だ、人間」
有翼人種に言伝ると、俺も砦へと急いだ。
砦の壁は隙間から槍を突き出せるように、ある程度の間隔を空けて作っていた。その為、膨張した熱波は砦内部にも流れ込んでいたようだ。
砦に入り込んでいたオークを掃討する為に走り回っているオーガも、軽度とはいえ火傷を負ってしまっていた。
そして、より体力のないゴブリン達にはかなりの負傷者が出ている。幸いにも死者はいないようだが、戦線を渡って援軍に行くという計画は実行できそうにない。
イモ類と共に栽培していた薬草の類で治療するように言い置くと、俺は単身で隣の砦へと向かうことにした。
中央砦は沼化した戦場を挟み、睨み合いの状況に陥っていた。しかし、その膠着もオークが丸太を用意してきた事で動き始める。
オーク達は丸太を3本ほど束ね、簡易のイカダを作るとそれを沼に押し出すようにして道を作り始めた。
途中で曲がってしまったりと砦まではかなり無駄のある通路ではあったが、やがて砦へとたどり着いてしまう。
もちろん、俺達も黙ってみているわけではなく、投石や弓矢で攻撃を仕掛けるが、投石の命中精度は高くなく、ゴブリンの弓矢はオークにダメージを与えるには弱かった。
下を沼地にした事で、火計を使う事もできない。ただ細い通路ということで、一度にやってくるオークの数は絞られている。
通路の先端で砦に接しそうな所に精鋭を集めて迎撃することになった。
沼に架けられた丸太の橋を渡ってオークが詰め寄せてくる。狭く足場の悪い中を進んでくるオークを、エトランゼ様の下に1人だけいる巨人族やオーガ達が迎え撃つ。
特に5mを越える長身から棍棒を振るう巨人は、拠点防衛という面で絶大な効果を発揮した。動きの鈍い所のある巨人族は、周囲を機敏に動かれたりすると、脆い面もあるのだが、回り込む余地のない丸太の橋では隙ができない。
次々と力任せに殴り飛ばし、撃破していった。
しかし、オーク達は仲間の死に恐怖すること無く、次々と押し寄せてくる。やがて橋の両サイドにオークの山ができあがった。ただそうなると仲間の亡骸を足場に取り付く箇所が増えてしまう。このまま戦い続けると、オークの軍勢が尽きる前に、砦前の沼地は埋まってしまうだろう。
やはり次なる策が必要なようだ。俺は裏で控えるマーマン達の元へと走った。




