オーク軍の侵攻
3つある砦の左翼では、投石機が動き始めていた。しかし、そこから投じられるのは石ではなく、程よく加熱された芋だ。
飛来する芋。
幾つかをまとめて袋に詰めて砦の壁越しに投石機で、オークの群れへと投げ込まれていく。
半年の農耕で作った備蓄を惜しみもなく使用する攻撃。直撃すればそれなりに痛いかもしれないが、肉厚なオークにとってはたいしたことはないだろう。
そして着弾した地点にコロコロと転がり出る芋。俺達が作っていた芋は、じゃがいもとさつまいもの中間のような芋で、焼いたりふかしたりすると、中々に甘い匂いが漂う。
オーク達は芋をそのまま食すらしいが、加熱した芋は味方オーク達にも好評だったので、もし相手がその甘さに気を取られれば、飢餓を満たすために攻めてきているならば……仲間内で争奪戦が始まる可能性がある。
毒であれば数匹が倒れたらそれ以降は無視されるだろうが、美味い食べ物ならより多く確保しようとするだろう。
芋の落下地点より後方はそうした混乱に巻き込まれ、分断された前方は砦の壁で防ぎながら仕留める。砦の兵は大半がオークより弱いが、中にはオークより強い種族もいるので、数さえ絞れたら撃破できるはずだ。
左翼はこれでかなりの時間が稼げるはず。伝声魔法でそのまま作戦を続けるように指示を出し、中央砦の様子を聞く。
中央砦の前には柔らかく掘られた土地が広がっている。最も道の広いそこは、泥の沼による足止めと、投石機による攻撃で迎撃を行う予定だ。
たっぷりと水分を含んだ柔らかな土、そこへオークが足を踏み入れると一気に進軍速度が落ちる。
そこへ砦に設置された投石機から、オーガ達が集めてきた大きな石が降り注ぐ。当たりどころが悪ければそのまま即死。腕で防いだとしても、骨折はまぬかれない。
足元の湿地が本来の機動力を削ぎ、次々と命中数が増えていく。
しかし、オークの怖い所は仲間の死を恐怖しない点だ。仲間の屍を越えて進軍してくる。土に埋もれた仲間をこれ幸いと足場にして進軍速度をあげてくる。
そこへマーマン達が新たな水流を流し込み、また直接に水流で押し戻す事で時間を稼ぐ。ジャイアントモールが耕した土はかなり深く、水流が染み込み、オークが重なる事で底なしの様相を見せ始める。
もがけばもがくほどに身体が沈み、仲間を踏み台にしていたオークもろとも沈んでいく。そうなると流石に渡れないと判断したのか後続が動きを止める。
沼を渡るために板を用意したり、船を準備しようとすればかなりの時間が稼げるはず。
後は沼の乾燥を防ぎつつ、急な進軍に警戒するよう伝えておいた。
そして俺は右翼の前線に身を置いていた。オークを3軍に分けさせ、時間差で撃破して徐々に戦力を集中させて完全に撃破する。
時間稼ぎを優先させた左翼、中央と違い、右翼は短時間で敵を殲滅する為の布陣だった。
「遠くから撃っても有効な攻撃にはならない。しっかりと引き付けてから撃てよ」
砦の城壁上に作られた射手台には、ゴブリン達が弓を手に並んでいる。
オークの分厚い肉の鎧の前には、ゴブリンの貧弱な矢で貫く事など期待できない。卑怯な手段としても、毒を使用する事にした。
一気に命を奪うものは取扱も難しく、量も用意しにくかったので、切り傷を化膿させて発熱するタイプの毒だ。前回、人狼を撃退するのに使った唐辛子なども混ぜてある。
僅かでも傷つけられれば、その行動を阻害できるはずだ。
とはいえ、それらの毒もそこまで即効性があるものではない。まずは砦の壁でオークを受け止める事になる。3つの砦で最も頑丈に作られた壁、オークに致命傷を与えうるオークやオーガも多めに配置されていた。
「策が成るまで、この壁を守り抜いてくれ」
「「おおおーっ、エトランゼ様の為に!」」
部隊をまとめるオーガが、周囲を鼓舞する雄叫びを上げる。槍を突き上げ、盾を打ち鳴らし、戦意を高揚させていく。
オーガを中心に、その熱は他の種族へも伝わっていき、士気を高めていった。
オークの軍勢をギリギリまで引き付け、ゴブリン達が矢を射掛ける。まともに刺さることもない矢の雨、オークの軍勢はさして足並みを乱すこと無く防柵へと向かってくる。
柵の際には、コボルト達による簡素な落とし穴。仕留めるというよりも、足並みを崩すだけのモノ。それでも急に足を取られ、後続に押されたオークは転倒する者も出てくる。
そこへオーガや砦のオーク達が槍を突き刺していく。柵の隙間から繰り出される穂先、転倒し、それに足を取られる前衛。それにお構いなく押し上げてくる後続。押し出されるままに防柵前へと転がり、肉の壁となって槍を受け止める。
防柵の前にオークの山ができ、それを乗り越えて後続が襲い掛かってきた。それをオーガが防柵の間から丸太を突き出し、山を崩して妨害する。
戦端が開かれてからものの10分ほどで、周囲には喧騒が広がり、多くの命が刈り取られていく。
まだ砦側には被害が出ていないが、オークの軍勢が防柵を乗り越えてしまうのも時間の問題だろう。そうなれば混戦となって、オークより弱いゴブリンやコボルトに被害が出始めるはずだ。
しかし、一度の策で最大の戦果を上げる為に俺は穴の中へ身を潜めていた。




