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オーク軍の襲来

「それは何をしているのしら?」

「豆木の束をまとめているのです。乾燥させた植物を火の糧にします」


 芋の栽培に並行して豆の栽培も行っていた。豆も強い植物なので、肥えていない土地でもそれなりの収穫になっている。

 しかし、芋に比べると実が小さい為か魔物達の人気はない。芋にありつけなかった者達の腹の足し程度の扱いだ。

 豆は栄養価も高く、バランスの良い食品。身体の強化には向いているのだが……食べさせ方に工夫がいるだろうか。

 リオがいれば極上の料理に仕上げてくれるのだろうが。そう思った時に、少し懐かしさや寂しさを感じる。彼女は元気だろうか。まあ、料理さえできれば彼女は元気だなと思うと、あっさりと記憶からこぼれ落ちていった。


「火なぞ魔法でぶわーっとやればよろしくなくて?」

「俺の魔力じゃ無理ですし、他の者達にもオークの集団を焼き尽くすような魔法を使えるものはいません」

「そうか、そうよね」


 エトランゼ様も納得したようで、俺の作業を見守っている。豆木の束を幾つか作り、以前に作っていた物と合わせて、砦の前方にある平地へと赴く。

 泥沼作戦の為に掘り起こしている箇所からもう少し先へと進み、浅めの溝を作っているコボルト達に合流。膝下くらいの深さの溝へと豆木の束を並べていく。

 もちろん、豆木の束が燃えたくらいではオークを焼ききる事はできない。そこにはもうひと工夫が必要だったが、それは戦闘になってから施す予定だ。

 砦へと続く道を塞ぐように掘られた溝に、均等に豆木を並べると次の砦へと移動した。



 3箇所にある砦を巡り、それぞれの準備を確認。俺に付いてまわるエトランゼ様の存在が、それぞれの砦の士気を鼓舞することにも繋がった。

 半年の食料事情改善が土地を守る意欲も増している。

 正直なところ、力関係でいえばオーク軍の方が強いのだが、砦の面々には悲壮感は無かった。



「ふむ、色々と考えていらっしゃるのね」

「まあ仲間ですから」


 魔物と共同戦線を張るという部分に引っかかりはあるようで、違和感はない。共にエトランゼ様を支える仲間であることに疑いがないからだろう。

 そんな仲間の為に知恵を絞り、心血を注ぐのに躊躇いはなかった。


「思わぬ拾い物だったわ」

「そう思って頂けるのは光栄ですが、皆の力があってこそなので」

「そう。では前線の指揮は任せるわね」

「ははっ」


 俺の仕事ぶりに満足したのか、エトランゼ様は居城へと戻っていく。

 俺としても守るべき存在は、しっかりと守られた城に居て頂く方が助かる。変に前線で指揮をとると前のめりになると、現場は混乱するものだ。



 そうして準備を整え、意識の統一をできた頃、オークの群れが現れたと物見櫓から報告が入った。

 準備はあれど戦力は劣勢。

 ここからが正念場だ。




 一夜開けた頃、物見から報告が入ってきた。辺りが白み始めた事で、遠方まで見渡せるようになると、黒いシミのようなものが徐々に広がってくるのが見て取れた。

 一見すると静かに広がるソレは、メンドーサ領に襲ってきたオークの群れに比べると迫力はない。

 土煙を上げることもなく、地響きを立てている感じもなかった。

 しかし、その事実がその集団の恐ろしさを物語っている。無秩序に襲い来るだけだったあの時と違って、目の前の集団は統率されているのだ。

 人類の歴史を見ても、組織戦の大事さ、統率が取れているかは、戦局を大きく動かす。

 飢えたオークの群れではなく、他国を攻め滅ぼそうという軍。そう思って対処を行わないと、こちらの被害が増えるどころか、勝てるかどうかも分からなくなる。

 守備側である利点を最大限に利用する必要があった。



「ギリギリまで引きつけろ。相手の足並みを乱した所に、一気に攻勢をかける必要がある」


 風魔法を応用した伝声魔法で、3箇所それぞれの砦へと言葉を届ける。投石機と弓、泥の沼、仕上げの火計。その連携が重要になってくる。


「しかし、統率が取れているということは、中核となるボスがいるって事だな」


 メンドーサ領に攻め入ってきたオークと、モスコバー領に攻め入っていたオークの圧倒的違いは、リーダーの有無だった。

 モスコバーの暴走ランペイジには、中心となるオークがいたのだ。その者が率いた部隊は領地の奥深くまで侵攻し、多大な被害を撒き散らしていた。

 指揮する者がいれば、戦局に合わせて柔軟に対応する可能性も出てくる。


「頭は早めに抑えておきたいな」


 相手も3箇所の砦に合わせて、3軍に割れている。それぞれに部隊長がいて、それを束ねる軍団長がいるだろう。

 砦にいるオークと話してある程度の陣容は予測できているが、どこに軍団長がいるかまでは分からない。


「普通に考えれば左右と連携の取れる中央だが」


 オークの軍はそれほど連携はとらないらしい。それぞれの部隊長が指揮して攻め込んでくると予想される。軍団長はおらず、部隊長の一人が兼ねている可能性もあるとなると、左右の軍にいる事もあり得た。


「ちゃんと分かれば、シュバインによる奇襲もできるんだろうが……」


 どのみち独立して動いているなら、軍団長を潰しても同じか。人狼戦とは勝手が違うな。

 やはり個別にしっかりと潰していくのを狙った方が良いだろう。

 魔物達の中にこうした戦略を練る者はおらず、俺のアイデアを相談する事もできない。それだけに相手の裏をかくこともできるのだが、勝敗を握っているというのは不安だ。


「ええい、迷ってたら好機を逃すな。こちらは準備したことを確実にこなすことだな」


 伝声魔法に向かって、最後の指示を送った。

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