オークへの反撃
「天空より舞い降りし破壊の天使達よ、哀れな者達に慈悲の光を降らし給え。天使降来」
一瞬、空が暗くなったかと思うと、問題のオークへと一条の光が降り注ぐ。白く輝く羽を伴った光は、熱量も無くオークの身体を包み込む。
そこに激しいダメージは生じないが、それでもオークの周囲で光が渦を巻き、吸収されていく。光の粒子と羽の乱舞は、神々しい美しさを伴っていたが、破壊のエネルギーは持っていない。
元々は不死者に対して浄化を促す魔法で、その他の魔物には特に影響を与えるものではない。
それでもオークは魔法を吸い取っていっている。その発動は自動的で、殺傷能力の有無は問わないようだ。
なぜそんな魔法を撃ったかといえば、発動からの効果時間が長く、その核となる照射点が空にあり、容易には中断させられないから。
その時間を使って俺は吸収の中核を見据える。
光を浴びるオークは、はじめこそ戸惑いを見せたが、そこに脅威がないとわかると意識をアイラへと戻す。
アイラの方は魔法の光に惑うことなく、両手に持った大斧でオークを斬りつけている。しかし、オークの肉厚な身体は、多少かすった程度では小揺るぎもしない。
そしてオークは見た目に反して、それなりに機敏に、器用に剣を振るって攻撃を防いでいた。
その様子を観察した俺は、光の渦が吸い込まれる場所を見極めていた。
物々しい剣へと吸い込まれているようで、実はその指にある指輪へと魔法の光は吸い込まれている。あれさえ外せればシャリルの魔法は奴に届く。
後はさっき確認した吸収が反応しない条件を利用すれば、奴から指輪を奪うことも可能なはずだった。
光の渦とアイラの攻撃。その2つを目くらましに、俺はオークへと忍び寄る。
アイラの攻撃を弾くために剣を振るった瞬間に飛び出し、手斧を上段から斬り下ろす。
しかし、オークはその攻撃に反応した。剣を返す時間がないとみるや、腕を引き戻すようにたたんで肘を使って俺を迎撃。手を伸ばして頭を狙うが、相手の肘が突き刺さる方が早かった。
「ふげっ」
手斧は手からスッポ抜け、オークの頭部へと飛んでいくが、首を傾げるだけで避けられてしまう。
オークは余裕を見せてニヤリと笑うが、俺もまた腹を打たれる苦しみの中、してやったりとほくそ笑む。
腹の前でオークの腕に巻き付くように抱え込んだ。
「冬の息吹の欠片を集め、彼の者を彩る形と成さん。氷棺」
シャリルの魔法が放たれる。オークの周囲に冷気が漂い、一気に氷結を始める。
しかし、今度の魔法は指輪に吸収される事はない。パキパキと周囲の水分を巻き込んで、凍っていく。
「フゴ!?」
「アイラ、手を切り飛ばせ!」
その声と共に俺の身体は硬直。シャリルの魔法は俺に対して放たれていた。
オークではなく、俺個人に放たれた魔法は、吸収の対象にはならず、その効果を完全に発動する。
オークの肘を抱えながら氷の棺へと閉じ込められた俺は、急速に意識が遠のいていく。
関節を凍らされたオークの動きはどうしたって鈍くなる。更には俺という荷物が丸々乗っかっていた。
そこへアイラの鋭い斬撃が迫る。さっきまではきっちりと剣で受けていたオークだったが、満足に受けることはできない。狙った場所が手だけに分厚い肉の鎧も薄い箇所。刃が食い込み、指を飛ばしながら、剣ごと拳を切り飛ばした。
「時空の氷室より来たりて槍となし、かの者へとその刃を突き立てん。氷槍」
シャリルの淀みなく紡がれる詠唱。A級魔術師の放つ魔法は、吸収されることなくオークを貫き、大地へと縫いとめる。
その姿を最期に、氷に閉ざされた俺の意識は失われた。




