茶色い衣と金色のスープ
翌日からは授業が再開する。魔法の得手不得手は、育った環境に影響されるという話だ。
寒い地方に住んでいる者は、氷を使った魔法が得意で、草原で育った者は、風の魔法が得意。
それは魔法を使うイメージがより明確になるから、威力があがると俺は思っているんだが、この世界では生まれた時からそれに応じた魔素が溜まっていると解釈されている。
イメージを魔素の蓄積と考えれば、大きく外れる説でもないので何となくそれで通っているのだろう。
俺の場合は知識によってそれらを補っているので、イメージがより明確だ。例えば炎は酸素を使う燃焼だったり、エネルギーによって原子の振動が激しくなるなどの科学面から、熱量を理解している。
風は空気が動く現象だが、この世界ではまだ空気という概念がない。それこそカマイタチのような見えない精霊が、通り過ぎていると考えられていた。
「それでも精霊の存在をしっかりイメージできていれば、その威力は増す。結局は、意思の力なのかもな」
戦闘を繰り返すうちに、カガミの魔法は磨きがかかっている。それはカマイタチに対する信頼感が増しているからだろう。
カマイタチならこうできるはずという予測から、カマイタチならココまでできるという実績が積み上がり、その効果を信じられているのだ。
呪文を暗記して魔法を唱えるだけの魔術師より、かなり強くその力を使えていた。
「故郷を大事に、自分のルーツにこそ魔法の力は宿るのだ」
教員の話はそんな感じで締めくくられた。理由はどうあれ、自分の故郷を大事にすべきだという考え方には賛同できた。
「きつねうどん!?」
「何、これは狐の皮なのかっ」
食堂での昼食で出てきたのはきつねうどん。太めの麺に薄揚げが載った一品だった。
「違いますよ。豆から作った衣のような物で、薄揚げといいます。きつねが好物だという説があるもので、それが載っているからきつねうどん」
「ふ〜ん、衣……確かに薄く柔らかね。この麺はパスタの一種かしら?」
「小麦から作られているので近いですね。パスタに比べると噛みごたえがしっかりしてます」
「うどんは飲むものじゃないのか?」
「そんなうどん県のような食べ方は推奨しない。しっかり麺の美味しさも味わって欲しいの」
「では、いただきます」
お嬢様共々箸をつける。まあ、お嬢様はフォークだが。透き通った出汁は関西風か。
俺は麺を掴んで口を付け、ずずっと啜る。うどん県ではないといったが、太めの麺はさぬきのそれっぽい。しっかりとした弾力があり、こしが強い。歯で噛み切るのもまた心地よい感触を伝えてきた。
「ん?」
「何コレ、美味しいっ。味付けはシンプルなのにもっと食べたくなる。パスタのような油っこさも無いし、食べやすいわ」
お嬢様は絶賛だったが、俺としては何か物足りない。味が薄いという訳じゃないのだが、しょっぱいというか、塩の味が強い気がする。
「鰹節はまだ作れてないから、小魚を干したのと昆布で出汁をとってあるわ」
「鰹節じゃないからか……」
「何と贅沢な。ペットの分際でリオの料理にケチをつけるの!?」
「いや、旨いよ。うん、旨いと思うんだが、ちょっと思ってたのと違ってただけで」
そう言いながらも、やっぱり物足りない。醤油が足らないのか?
「ふふっ、いいのよ、シャリル。こいつがちゃんと分かってるのかテストしただけだから」
「テスト?」
「お嬢様もこいつのうどんの出汁を飲んだら分かるかしら?」
レンゲのような小さな匙で小皿に出汁を移し、それをシャリルへと差し出した。
それをシャリルは言われるままに飲み干し、目を見開いた。
「何これ、全然違うわ。見た目はほとんど変わらないのに、美味しさが足りないわ」
「そう。それが硬水と軟水の違いよ。硬水には目に見えない栄養が多く含まれている分、新たな物が溶けにくいの。特にこの料理のような出汁はね」
「くっ、そ、それより、俺の出汁を変えてくれ」
「仕方ないわね」
そう言いながら予め用意していたのだろう器を取り出した。そこへ麺を移して解し、改めて麺を啜る。
「う、旨え。これだよ、っていうかそれ以上だ。並の店じゃ出せない味だなっ」
「そ、そう? まあ、手間暇はかけてるからね」
絶賛すると、少し照れたようにリオが頬を掻く。もう一人の記憶にあるのは、立ち食いとかインスタントが多く、後はチェーン店とか少し均一化された味だった。
ただリオのそれは出汁のとり方からこだわった一品。シンプルなだけに複雑な風味がよく分かる。
「「ごちそうさまでした」」
リオの料理は当然、薄揚げまでも美味しく、出汁を全て飲み干して完食した。
食後はシャリル達と一緒に校内の散歩だ。シャリルはアイラと話しているだけで、俺が何の為に付き合わされているのかよくわからない。
ただ逃げようとすると、アイラが瞬時に寄ってきて、行動を封じてくる。
シャリルの少し前を指示されるままに歩くしかない。早くダンジョンに行きたいんだがなぁ。
「ごめん、待たせた」
「ううん。メンドーサ子爵からの命令なら仕方ないもの」
ダンジョンの入口で待っていてくれたカガミと合流して、魔石の回収へと向かう。
カマイタチが少し大きくなっているようにも感じる。カガミのイメージがより洗練されてきたのだろうか。
いざ戦闘となると、俺が敵の姿を認識すると同時に倒されている。探知から攻撃までが、流れるようにスムーズで、カガミの発動ワードが無くても動き出していた。
もはや常に攻撃魔法を唱え続けているような状態だ。1階にはオーバーキル気味のカマイタチがいるなら、2階にも進めるか。
カガミに確認して2階の探索を開始する。
「カマイタチ強すぎ、修正されるね」
「修正?」
「いや、何でもない」
2階では、コボルトやレプラコーンに加えて、大きめのコウモリや、モグラのような魔物が出始めたが、カマイタチの旋風はあっさりと撃退していく。
多少グループで出てきても、ほぼ一撃で屠っていくので、魔石がどんどんと溜まっていった。
そんな感じで平日なのに、今日も銀貨5枚を稼ぐことができていた。
このまま行けば、カガミの借金もすぐに返せるはずだ。




