一部返済と金色の丘
1週間の時間が流れ、平日には銀貨5枚。休日には銀貨10枚を稼ぎ出し、遂にはカガミの蘇生代金を支払うことができた。
「思った以上に早かったな」
「はい、カマイタチさんのおかげです」
現れた当初からすると、一回り大きくなり、毛並みも良くなったカマイタチはカガミの首筋に巻きついている。
「ただ流石に狩りすぎたのか、2階でも魔石の大きめの奴がいなくなったな」
「そうですね」
「3階に降りるかどうかは明日考えようか」
「はい」
蘇生した直後の絶望感は完全になくなり、少し幼い雰囲気の少女の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
この1週間でのカガミの働きは、自信を持つのに十分だったのだろう。魔物の相手はほぼカマイタチがやってくれていた。多分、3階に進んだところで急に苦戦するような事もないはずだ。
「俺の借金返済も目処がたってきたかな」
カガミと別れ、家路につくとそんな事を考えていた。
連休明けの昼休み、お嬢様に呼び出されて食堂へ。俺としてもリオの料理が楽しみになっている。
俺が軟水を提供してから日本食が増えているのも、もう一人の記憶から懐かしさを感じて、どことなく嬉しかった。
今日用意されているのは丼もので、蓋を開けるまで中身が分からない。
楽しみではあるが、先に用事を済ませてしまおう。
「とりあえず、治療費と半チャンラーメンの代金だ」
「あら、実家から仕送りでもあったのかしら?」
「うちは農家だぞ、銀貨なんて縁がないよ。これはダンジョンで稼いだ金だ」
「……へぇ、魔力3の割にはやるじゃない」
「5だ、5」
まあA級魔術師で魔力500を越えるお嬢様にとっては、誤差の範囲なのだろうが。
「じゃあ後は、金貨1枚かミノタウロスの肉ね」
「……ちょっとくらい勘弁してくれよ」
「利子を取らないだけでも感謝して欲しいわね。普通の貴族でも、リオのハンバーグなんて食べられないのよ?」
「それは感謝してるけどさ」
「さ、お小言はそれまでにして、今日の料理を召し上がれ」
リオの助け舟もあって、丼に手を掛ける。熱々の器、蓋代わりに皿が載せられていた。
それを布巾で掴んで開けると、ぶわっと湯気があがる。そこに広がるのは金色の丘。そこにコロコロとした塊が、岩の様に転がっていた。
「これまた旨そうだ」
「これは何ていう料理なの?」
「親子丼よ」
金色の卵で鶏肉を綴じた丼、三つ葉代わりのハーブが散らされ、彩りを添えている。
「ふわっふわの卵に、鶏肉ね。それに甘いのね」
シャリルも初めての味らしく、一口一口を大切そうに食べている。
俺もまた不思議な懐かしさと共にタップリとご馳走になった。
それからまた散歩に付き合わされて30分。腹ごなしが終わったあたりで解放された。
更衣室で着替えてダンジョンの入口に行くと、いつもの場所でカガミが……待っていなかった。
「あれ? 遅れているのかな」
普段は昼食から散歩で俺の方が遅いのだが、たまにはこんな事もあるか。
待ち合わせというのは、待っている方も楽しいものである。鼻歌を歌いながら、道具を確認する。中古で買った手袋にブーツ、武器としてのナタ。それに加えて、革の胸当ても購入していた。
銀貨12枚を返しても、手元には8枚以上の銀貨が残る計算だったので、昨日の帰りに防具を買い足したのだ。
今日から3階に降りるとしたら、多少は備えておいた方がいいと判断した。攻撃力で言うと、カマイタチは圧倒的だが、飛び道具を使う敵がいるかもしれない。防備を固めていて損はないだろう。
レンタルショップでつるはしを借りようとした時、顔なじみの店員さんが話しかけてきた。
「レント君、来たんだね。連れの子から手紙を預かってるよ」
「え?」
何だろう。丸められた羊皮紙を受け取り、封蝋を切って開く。そこには几帳面そうな文章が記されていた。
『レントさんへ。お手紙での挨拶、失礼いたします……』
少し堅めで始まった文章。改まってなんだろうか。
『レントさんは3階に進もうと言っておられましたが、レントさんの魔力で3階は危険だと思います。攻撃面ではカマイタチさんがいれば大丈夫だとは思いますが、守りの面で不安が残ります。一度死んだ私が言うのもなんですが、守りをおろそかにしてダンジョン探索は良くないと思います』
そう思って俺も防具を新調した。確かに魔力による身体能力向上が望めない俺だが、身を守るくらいはできる自信がある。
『2階での稼ぎで、レントさんにもそれなりに恩返しができたかと思います。借金の返済が叶った今、これ以上レントさんを拘束するのは忍びないです』
確かに稼ぎの面ではかなり楽に稼がせてもらった。ただ俺はカガミに拘束されているなんて思ってはいない。
『レントさんの知識は、もっと多くの人を助けられると思います。私もその恩恵に与った1人として、自分で助けられる人を助けて行こうと思います。同じクラスにいる以前の私と同じように絶望に打ちひしがれている彼を助けてみようと思います』
ん?
『没落寸前で苦しむ彼を救う事が、レントさんに助けられた私の使命であると思います。レントさんは、レントさんとして自分の目指す道を歩んでください』
勝手に使命とか、何を言ってるんだ。俺が進む道ってなんだよ。
『レントさんの活躍を、心から願っています。カガミ』
なんだコレ。まるで一方的に捨てられたみたいじゃないか。同じクラスに気になる子ができたから、その子の為に頑張ります?
そんな馬鹿な。昨日はそんな気配は全く無かったぞ。なんでいきなりこんな……ん? まだ何か続きがあるのか。
『PS.あまり女の子の身体をマジマジと見つめるのは、止めた方がいいですよ』
これかーっ!
俺の視線に危険を感じて距離を取られた!?
そんな下心丸出しの目で見てないぞ。カガミの幼い身体をいやらしい目で見るなんて。もう少しボリュームがあってもいいなとか、意外とウエストは括れてていいなとか、そんな事はこれっぽっちも考えて無かったし。細くしなやかで白い手を、タイミングを見て握ってやろうだとか、あわよくば抱きしめる機会がないだろうかとか思ってないし。誤解だ、誤解。誤解を解けば、何とかなるはずだ。早くカガミに会わないと……。
「お前がレントか」




