2人でダンジョン
朝からダンジョンに籠もる。その為の準備として、食堂へ出かけてスープを朝食に、パンやベーコンといった昼食の用意も行う。
「早速デートの準備とは、いい心がけじゃない」
「ダンジョンへ稼ぎに行くだけだよ」
「共同作業は2人の仲を進めるわよ。頑張んなさいっ」
バンバンと背中を叩かれて送り出された。
ダンジョンの入口付近でカガミの姿を認める。女の子を待たせるなんて失格か。いやいや、デートじゃないし、莫大な借金抱えてダンジョンに潜るだけだし。
朝日が当たる中、艷やかな黒髪のおかっぱ頭に光の輪が浮かんでいる。大きめの瞳に丸顔で、幼くは見えるが全体的に整っていて可愛い。
こちらに気づいて1つ頷き笑みを浮かべた表情は、昨日の死にそうな……実際、一度死んでた……悲壮感はなりをひそめ、ちょっとした自信も見え隠れして、魅力的に輝いていた。
「おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
「キュキュイ」
彼女に挨拶を返すと、更なる声が続いた。見ると彼女の首に巻かれたマフラーがもぞもぞと動いて、その小さな顔を覗かせた。
白い毛並みのフェレットといった感じの動物。ふわっとした毛並みが風に揺れて柔らかそうだ。
「ペット……じゃないよね」
「はい、カマイタチです」
その特徴である2本の鎌は隠しているのか、普通の動物にしか見えない。
「召喚獣か。出し続けてて疲れないのか?」
「召喚? この子は呼び出したと言うか、付いてきてくれてるだけですから」
少し話を聞くと、朝起きて窓を開けたところに、爽やかな風が吹き込んできた。一晩の特訓で、思わぬ威力の上昇を感じていた彼女は、今日の探索に気合を入れ直し、ふと部屋の中を振り向いたら、カマイタチが座っていたらしい。
「つまり、カガミが呼び出した訳じゃなくて、勝手に遊びに来たと?」
「はい。私の魔力と波長が合うのか、すぐに懐いてくれました」
前の世界の架空の生き物をさも存在するかのように語った結果、彼女の中で実在するものとしてイメージが固まったのか。
それを知らず知らずのうちに魔力で実体化させたのか。純粋な心がそれを実現しているのであれば、下手に否定するより、そのままを受け入れてあげた方がいいだろう。
「なるほど、貴重な戦力だな。よろしく頼む」
「キュイ!」
カマイタチは俺の言葉を理解する様に一声鳴いた。
昨日の今日でダンジョンに忌避感を抱いていないか心配だったが、カマイタチが付いている事もあってカガミは落ち着いていた。
レンタルショップでつるはしを借りると、ダンジョンの中へと入って行く。
「闇夜に潜む猫の瞳、その見通す世界を我が物に。夜の瞳」
昨日のうちに教えておいた夜の瞳をカガミも唱える。魔力が豊富なだけあって、あっさりと自分のものにしていた。
「1つ確認に行きたいんだが、無理そうなら言ってくれ」
「それは……昨日、私が倒れていた所ということですか?」
俺は頷いて肯定を示す。俺の言い難い様子からそこまで察してくれるカガミは、かなり人を見ながら育ったのかもしれない。
「はい、大丈夫です。昨日の私とはかなり状況が違います。この子もいますから」
「キュイキュイ」
「分かった。それじゃ行ってみよう」
昨日カガミが倒れていた辺り、そこで確認したかった事は、魔石の有無だ。
倒される寸前まで魔物から魔石を集めていたカガミだが、連れ帰った時にはほとんど魔石を持っていなかった。
つまりは、その魔石を奪って行った奴等がいる。それはカガミを襲った魔物である可能性が高かった。
ダンジョンに漂う魔素が壁の中に溜まったら魔石となる。ただ魔物を倒しても魔石が出る。魔物を倒すと霧になるが、あれも魔素の1つかも知れない。
つまりはダンジョンの魔物は、魔素、魔石と関係が深いと予想できる。となればカガミから奪った魔石を得た時にどうなるか。
「でかいな」
「確かに。でも倒せない程ではないと思います」
ダンジョンに入るとカマイタチが先導して奥へと進んだ。カガミのイメージを元に、魔力で実体化したカマイタチも魔物に近いのかも知れない。
カガミの風に対するイメージ、精霊に対するイメージ、俺が植え付けたイメージが融合して生み出されたカマイタチは、動物的な側面も強い。
クンクンと何かを嗅ぎ取り、迷わずに走っていく。そして普通より一回りは大きいレプラコーンを見つけた。
「では、レントさんに見せますよ、カマイタチさん。風の刃」
「キュキュイッ!」
既に魔力を具現化した状態。詠唱なしに魔法のワードを唱えると、カマイタチが走り出しその姿が2つの鎌のような爪を持つ姿へと変わる。
そんなカマイタチの接近に気づいたレプラコーンが振り返るが、まさに一迅の風。胴体を切り裂かれて一撃で霧となって消えた。
カマイタチはそれで止まらず、奥にいたレプラコーンにまで走っていく。
狭い筒状の洞窟。風の化身であるカマイタチは、真っ直ぐに駆け抜けて、その途中にいたレプラコーンを次々に屠ってしまった。
「凄いな」
「やっぱり、カマイタチさんの鎌は鋭いです」
イメージを伴ったカガミの魔力は、俺の魔法の比ではない威力を発揮する。カガミ自身はカマイタチのおかげと思っているようだが。
身体が大きくなっていることで、耐久力も増しているだろうレプラコーン5匹を一気。ころころと魔石が転がり落ちる。
「少し大きいけど、中サイズとまではいかないか」
「流石に1階で中サイズはないでしょう」
俺がつるはしを振るって掘り出した小サイズの魔石よりは、一回りほど大きく見えるが、中サイズとされる握り拳ほどの大きさには至っていない。
魔物に魔石を与えることで、魔石のサイズを上げられたら稼ぎを上げられるかと思ったけど、そんなに甘くないらしい。
「まあ、魔法の一撃でコロコロと魔石が集まったし、このペースなら十分か」
「カマイタチさんは凄いです」
戻ってきたカマイタチの頭を撫でるカガミは嬉しそうだった。




