ローンパーティ結成
救護テントを出て、まだふらつく様子のカガミを伴い更衣室へと誘う。
傷口は塞がっているが、色々な所に噛み痕が残り、カガミ自身の血で汚れてしまっている。
「ちゃんと着替えて来いよ」
「はい……」
明らかに覇気が無いのは、蘇生の後遺症というよりは、その後に聞いた費用などの衝撃によるものの気がする。
このまま放置しても俺に非はないだろうが、こんな状態の女の子を放置するのは寝覚めが悪い。
俺自身も手早く着替えを済ませ、レンタルショップでつるはしを返却。魔石の換金を済ませる。
今日は襲われる事が少なく、採掘が捗ったおかげで銅貨にして150枚ほどの稼ぎになっていた。
まあ、半チャンラーメン分も稼げて無いわけだが。
前途の険しさを噛み締めていると、同じような暗さにどよーんとした空気を纏うカガミがやってきた。
死ぬまでに集めていた魔石の多くは、襲ってきた魔物に奪われていて、残りの魔石を換金しても銅貨30枚ほど。
小サイズの魔石を集めていたわりには少ない稼ぎになってしまっている。
「とりあえずどこかでゆっくり話そうか」
コクンと頷くカガミを連れて、いつもの食堂へと向かった。
「さて、あんな奥深い所で倒れていた理由から聞こうか」
「昨日、貴方に言われた知識を探してみたところ、寮に残る資料を見つけた」
貴族であっても没落寸前のD級魔術師は、安価で借りられる寮に住む者も多いらしい。
そうした寮には先人の知識が残っていたりする。自分がした苦労を少しでも分かって欲しい、何かを形に残したい。そうした先輩の足跡をカガミは見つけたのだ。
そこには浅い階層であっても、大きめの魔石が採れることがあると記されていた。
魔物の強さは変わらないが、サイズの大きな魔石が採れれば一気に収入があがる。
それを知ったカガミは、朝からダンジョンに潜る事にした。しかし、採掘しようとしても魔物が襲ってくる。ならばと魔物を狩る方を優先した。
俺と違って一定量の魔力があるカガミは、多少の集団でも一気に倒すことができる。一気に魔法を殲滅すれば、採掘なんかよりずっとペースは早い。
しかも戦闘音を聞きつけて、魔物も集まってくる。次々に大きめの魔石がゴロゴロと転がる様に浮かれてしまい、カガミの感覚は麻痺していった。
その結果、魔力が枯渇してレプラコーンの集団に取り付かれ、体勢を立て直す前に噛み殺されてしまったようだ。
今日、俺が採掘してても魔物が寄ってこなかったのは、カガミが魔物を集めてくれていたかららしい。
「となると、この稼ぎの何割かはカガミのおかげという事だな」
「そのような気遣いはいらないです……」
俺が換金した銅貨を差し出そうとすると、カガミに断られた。と言うより、何もかも諦めてしまったような雰囲気。これは良くないだろう。
「そうだったな。俺に恩を返してくれるんだったか」
「……そう、でしたね」
「なら身体で払ってもらうしかなさそうだ」
「そうですね、私にはもう身体しかありませんから。ただ子供っぽ過ぎますけど」
ぼそぼそと返答するカガミは、全てが投げやりだ。
「何を勘違いしてるか分からないけど、俺の10倍ある魔力を使わせてもらうぞ。俺には金貨1枚以上の借金があるからな」
「き、金貨?」
「この首輪、外して貰うにはお嬢様に借りてる金を返すしか無い。その為には負い目を感じた女の子をこき使うくらいはしないと、卒業に間に合わないからな」
俺の身の上を話すと、カガミがようやく顔を上げてこちらを見た。
明日も授業はない休校日。朝からダンジョンに潜ってしっかりと稼いでみることにする。
図らずも今日はカガミのお陰で作業が捗った。元々はお嬢様に目を付けられて、パーティを組めなくなったのが原因だが、同じような境遇の生徒を巻き込めばパーティを組める。
ある意味、魔力の少ないクラスメイトよりも強力な戦力を得れた事は幸運と言えた。
「まずはカガミの強化からだな」
「え、きょ、強化?」
「明日までにできるだけ鍛える。俺のボディーガードを務めてもらわないといけないからな」
少し早めの野菜スープ定食を食べた俺達は、空き地へ行って魔法の練習をすることにした。
「カガミが得意な魔法は?」
「風系統です」
「ふうん、なるほど。とりあえず撃ってみてくれるか」
「は、はい」
そう言って空き地の脇に立つ木へと向かう。
「まてまて、撃つのは俺に対してだ」
「な、何を。私の魔法は魔物を一撃で倒せる威力があります」
「でもお嬢様に比べたら、そよ風だろ」
「なっ」
元々は1人でダンジョンに潜る程度には気概のあるカガミ。己の魔法を馬鹿にされて、絶句しながらこちらを睨みつけてきた。
「後悔しても知りませんよ」
「ぜひ後悔させて欲しいね」
「大気のうねりよ、古よりの理よ。我が意に従いて、敵を絡めて切り裂け。風の刃」
「炎柱よ、顕現せよ。火の泉」
彼女がスカートをはためかせながら唱え始めた魔法に対して、俺も短縮詠唱の魔法で応じる。
真空の刃で敵を切り裂く魔法に対して、その気流を乱すように火柱で、上昇気流を起こす。お嬢様に食らった火炎噴出の下級魔法で、効果時間は一瞬だが、残った気流の乱れで真空は効果を失った。
「うん、そよ風だったな」
「な、え、そんな……」
カガミは呆然と呟き、その場に座り込んだ。
「詠唱に澱みはなく、発動まではスムーズ。効果範囲も悪くない。閉鎖状態の洞窟なら、逃げ場はなく集団を倒せそうだ」
「……」
俺の評価に対して、カガミの反応は薄い。まあ、褒めた所で一瞬で無効化して見せたのだから、お世辞にしか聞こえないか。
「E級の魔法で打ち消されたのがショックか」
俺の言葉にビクッとなって顔をあげた。あ、俺がE級だって忘れてたのか。追い打ちを掛けてしまったかな。
「カガミの魔法に足りないのは威力だ。イメージが弱い」
「い、イメージ?」
「風で相手を切り裂くという具体的なイメージはあるか?」
「え……?」
「やっぱりな。そこを改善すれば、すぐに威力はあがるよ」
俺は魔法のイメージに関して、カガミにレクチャーを行った。何故、風で相手が切れるのか。
例えば風の中に小石が混じっていたら。小さくても鋭い欠片が、風に乗って相手の身体を傷つける。
でもそんなモノじゃ敵を倒すほどの威力には結びつかない。もっと凶悪なイメージを抱かせねば。
「風の精霊の姿は知っているかな?」
「羽を持った小人でしょう」
「俺の故郷では違うな。両手が鎌になったイタチの姿をしているんだ。森の中で風が吹いたかと思うと、手足か切られている。そういう時は森にそれ以上入らない。でないと皮膚だけじゃなく、もっと深く斬られてしまうから」
「て、手が鎌になったイタチ?」
「そう、カマイタチって呼ばれてて……」
俺は取り出した紙にイメージ画を描いてみる。もう一人の記憶には、漫画と呼ばれるデフォルメされた絵の記憶があった。それと妖怪と呼ばれる魔物の姿。
それらを思い起こしながら紙に描いて見せた。
「ちょっと可愛いかも」
「うっ……」
絵の練習をしたわけでもなく、記憶を頼りにシンプルに描くと迫力はでなかった。でも言いたい事は伝わったようだ。
「風の刃というのは、こういう精霊が相手を斬っているって事なの?」
「そう。魔法を教わった伯爵の館で俺は図書室に篭って、色々と調べてた。その中には風の魔法についてもあったんだ」
まあカマイタチは、もう一人の記憶の設定で、図書室の魔法書には出てこないけど。
「この子が相手を斬り裂く」
「そう、そういう姿を想像して、魔法を唱えてみるんだ」
彼女の手を取り、立ち上がらせると、今度は木に向かって魔法を撃たせてみる。
「大気のうねりよ、古よりの理よ。我が意に従いて、敵を絡めて切り裂け。風の刃」
すると木の幹に、2本の鋭い裂傷が走った。カマイタチの両手が鎌になっているイメージで、攻撃が2回に絞られたか。ただその分、幹に刻まれた傷痕はなかなかに鋭く見える。
「こ、こんな」
「前に使った時と印象が違うか? 魔法を使う時はイメージを明確に持つことで形が変わる」
それからカガミにカマイタチという架空の生き物を実在するように刷り込みつつ、魔法の威力を高める特訓を施した。




