↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/13

008 死神の休暇

死神が休暇を取った日。


世界中で、


誰も死ななくなった。


◇


最初に気づいたのは戦場だった。


騎士が胸を槍で貫かれた。


倒れた。


数秒後。


「……痛い」


起き上がった。


敵も味方も止まった。


「いや、死ぬところだろ」


「俺に言うな」


別の兵士の首に剣が入る。


普通なら助からない傷。


なのに倒れない。


「待て待て待て!」


「なんだ!」


「今日なんかおかしいぞ!」


その日の戦は、


怖くなった両軍が勝手に中止した。


◇


町でも同じことが起きていた。


百歳を超えた老人が、


家族に囲まれて最後の息を吐いた。


皆が泣いた。


三秒後。


老人が目を開けた。


「……まだ生きておる」


家族が泣き止んだ。


「爺ちゃん?」


「わしも困っとる」


◇


魔物に食われた冒険者も死ななかった。


毒を飲んだ盗賊も死ななかった。


塔から落ちた魔術師も死ななかった。


ただし、


怪我が治るわけではない。


死なないだけだった。


神殿には、


死ねない重傷者が次々と運ばれた。


神官が頭を抱えた。


「これ、奇跡じゃないぞ」


◇


王城では緊急会議が開かれた。


「不死の時代が来たのでは?」


大臣が言った。


宮廷魔術師が首を振る。


「ならば傷も治るはずです」


「では何が起きている」


誰も答えられなかった。


その時。


会議室の扉が開いた。


黒い外套。


巨大な鎌。


骸骨のように白い顔。


死神だった。


全員が立ち上がる。


「死神!」


「貴様、何をした!」


死神は眠そうに言った。


「何もしてない」


「ではなぜ誰も死なない!」


「休んでたから」


沈黙。


「……何?」


◇


死神は椅子に座った。


「三千二百年」


誰も喋らない。


「一日も休まず働いた」


王が咳払いした。


「それは……ご苦労であった」


「昨日思ったんだ」


死神が言った。


「もう無理って」


「それで?」


「休暇を取った」


大臣が震える。


「勝手に?」


死神の目が光った。


「勝手に?」


大臣は黙った。


◇


「そもそも人間は死にすぎなんだ」


死神は愚痴り始めた。


「戦争」


鎌の柄で机を叩く。


「魔物」


もう一度。


「毒」


もう一度。


「崖から落ちる」


さらに。


「酔って川に入る」


王が目を逸らした。


「お前ら少しは気をつけろ」


誰も反論できなかった。


◇


王が恐る恐る聞いた。


「では……明日からは?」


「働く」


全員が安堵した。


「ただし」


死神が指を一本立てる。


「月に二日休む」


「困る!」


大臣が叫んだ。


死神が鎌を持ち上げた。


「お前が代わるか?」


「月二日でお願いします」


◇


翌朝。


世界に死が戻った。


戦場では、


昨日まで無茶をしていた兵士たちが、


急に慎重になった。


崖には柵が作られた。


酒場では、


酔った者を川へ近づけない決まりができた。


少しだけ、


人々は命を大事にするようになった。


◇


そして一月後。


町の掲示板に、


神殿からのお知らせが貼られた。


――今月の死神休暇日。


――十二日、二十六日。


その下には、


大きな文字で書かれていた。


――ただし、痛みは普通にあります。


さらにその下。


誰かが炭で書き足していた。


――なので、試さないでください。


翌朝。


死神がその掲示板を見て、


深くため息をついた。


「そこまで書かないと駄目なのか……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。